魔人国エノク。
魔人国エノク。
人の住むエデンより追われた者たちの築いた国。
そこには魔族と呼ばれる人々が住んでいる。
もともとは、人族と魔族に差異があったわけでは無い。最初はただ魔力を持つものを総称して魔族というレッテルを貼ったに過ぎないのだから。
魔力、その超常の能力に目覚めたものが他の人々から忌避され、阻害された結果でもあった。
もちろん今でも人族の街であっても魔力のあるものが居ないわけじゃぁない。
マトリクスだって人であっても使えないわけでもない。
ただ、長い間の隔たれた関係が、魔族、特に魔人にまで昇華したものと通常の人族との間に決定的な実力差を生んでいた、それだけだ。
人族の冒険者の魔法レベルを現在の最高のSクラスの者で仮に100とした場合、魔人にまで昇華した魔族の魔力量、レベルはその100倍を越す。
まあエノクの国の一般魔族全員がそこまでの力をもっているわけではないけれど、通常の人族よりは概ね強い、程度ではあるけれど。ね。
☆☆☆☆☆
荘厳な石畳が敷き詰められた魔王城周辺の広場は多くの魔族で賑わっていた。
カーテンの隙間からこっそり眺めていると、どうやら十二魔将待ち?
彼らが一人、また一人と竜車に乗って到着するたびにその周囲に群がって。
握手を求め手を伸ばす者が後をたたない状態だ。
皆、慕われているんだなと感心しつつ、彼らが全員到着するのを控え室で待っていたあたし、侍女リオナの淹れてくれたお茶のカップを手に取って。
すっと口をつける。
「ありがとねリオナ。やっぱりリオナの淹れてくれたハーブ茶は美味しいわ」
そう脇に控えている彼女に声をかけた。
「ありがとうございます。お嬢様のお好みは熟知しておりますからね。っと、すみません魔王様。ついついお嬢様と……」
「いいのよリオナ。二人だけの時まで堅苦しいのはごめんだわ。それより、この衣装はもうちょっとなんとかならなかったのかしら」
ゴテゴテと飾りのついたドレス。黒が貴重なのはまあいいとしてもこれはね? もうちょっとだけでもシンプルなものにはならなかったのかなぁとドレスの裾を摘んでリオナに見せるあたし。
「ふふ。お城の皆がお嬢様の晴れ舞台にと用意したものなのです。わたくしは可愛らしくてそれでいて魔王としての威厳も損なわない素晴らしいデザインだと思いますけれど」
にこにこと微笑ましい目で眺めてくるリオナにそれ以上愚痴をこぼすのも躊躇われ。
あたしはふうとため息をついてソファーにどっかりとこしかけた。




