アキラカン公爵。
「アキラカン公爵?」
「ええ、前々から不穏な兆候はあったのですが」
アキラカン公爵といえばあれだよね? 先々代の魔王、おじいさまの弟の息子さん。父さんの従兄弟になるんだったっけ。
あんまり好きじゃないタイプのおじさまだった気がするけどあんまりおはなししたことなかったり。
襲名披露の時だって近寄って来なかった。
あああれはあたしのことよく思ってないんだなって、そうは感じてたけど。
「やっぱりあたしが魔王継いだのが気に入らないのかな」
「気にいる気に入らないではないでしょう。あれ、は、野心が強過ぎます」
はうう。もしかして。
「魔王になりたかったの?」
「常々嘯いていましたからね。ゼノン様よりも自分の方が相応しい、と」
あちゃあ。
だとすると。
「ああ、お嬢。セッツ・アキラカンを魔王にすれば良かったのにとか言わないでおくんなさいね? あれが魔王になっていたら十二魔将は割れていました。国も割れ、内戦になっていたかもしれやせん。俺はお嬢が魔王を引き受けてくださって感謝してるんです」
「まあね、あたしも国が割れるのは見たくなかったし。お仕事はシシノジョウ任せだしね?」
「まあ、今は平時だからいいですけどね。何かあったらちゃんと戻ってくださいよ」
「うーん。まあ善処します、ね」
「まったくお嬢は——あ、で、そのアキラカンですがね、どうやら人族のしまではんぱ者を使ってしのぎをしているようで」
シシノジョウはごくんとツバを飲み込むと。
「先日のチンピラ、あれはアキラカンの配下でした。盗賊団を指揮して金を稼いでいたようで——」
王都の宿屋で泊まった夜、早速金色魔人について調べてくれたシシノジョウが転移してやってきた。
結果、アキラカン公爵が人族の国まで出張って盗賊家業しているのが発覚したわけで。
まあね。
うちの国に人間界に行っちゃいけないだの悪いことをしちゃいけないだのそんな法は明確には無い。
それこそ国交すらない。あちらはノドの地など人外の魔境としか思っちゃいない。
とにかく勝手なことはするなという父ゼノンの言葉に従っていたに過ぎないし、それでもこの王都にまで魔族ハーフがいることを鑑みても今までも多くの魔族魔人がこちらに渡ってきていることは自明だ。
中にはこうして人を襲うやからだっている。
あんな大規模な盗賊団を堂々と運営していたってことなんだよね? きっと。
「どうしよう。どうすばいい? シシノジョウ」
「そうですね。十二魔将の間でもよく思わないものも居ますし。一度コンドルゼノンに呼び出してみるのも良いかもしれません」