トラブル。
ガタン!
きゃー
はう? 奥の方でちょっとトラブル?
「お客さん、そんなこと言われても困ります。ここはそういうお店ではないので」
「なんだよ。ちょっと尻尾を触らせてくれって言ってるだけだろう? それとも何か? この上級冒険者の俺様が悪者だとでも言いがかりをつけるのか?」
ケモミミの店員さんになんか変な事を言ってるチンピラ? 数人。
上級冒険者だとか言ってるけど、王都にはこんな冒険者が偉ぶって徘徊してるってわけ?
はうう。お店の人困ってる。
ガタンっと席を立つアリエッタ。
彼女もちょっと腹を立てているみたい。
「貴方達いい加減にしなさい。そこの店員さんもお店の人もみんな困ってるじゃない。上級冒険者だというなら常識を弁えなさい!」
仁王立ちで右手で彼らを指差しそう声を張り上げるアリエッタ。かっこいいけど……。
「ん? みない顔だな。俺たちが極光会のものだって知っててそんな口を聞くのか?」
「極光会? ああ、なんだか悪い噂なら聞くわ。王都に巣食ってる癌だって」
「なんだと! この!」
「まあまあサブ。この女、なかなか上玉じゃねえか」
長身のリーダー格に見える男がサブと呼ばれたチンピラを制して。
「なあおまいさん、なんならおまいさんが付き合ってくれてもいいんだぜ? 俺たちは別にこの店のケモミミネーちゃんじゃなくっても、な!」
そういうとザッとアリエッタに近づきその手を取って引っ張った。
「え!?」
その動き、あたしの目には見えてたけどアリエッタには見えてない?
上級冒険者っていうのは伊達じゃなかった?
あっという間にアリエッタを抱え込んだその男、鋭いナイフをアリエッタの喉元に当て。
「大人しくしたほうが身のためだぞ」と、そう脅す。
うー。
アリエッタは元々中距離魔法が得意な魔術師だ。
こうした接近戦は元々不得手なんだろう。掴まれ身動きが取れなくなったところで喉にナイフを当てられていれば魔法の詠唱もできないし。
まあ、しょうがないな。
あたしはテーブルに自分のガワを残したまま、そのチンピラの背後に空間転移する。
もちろん父さんのマトリクス。でも魔族のツノは隠し、服装もこの辺の一般人が着るようなシャツにジーンズで。
転移後そのまま裏拳で男を殴り、アリエッタを取り返す。
「大丈夫? お嬢さん」
そう声をかけ近くのケモミミの店員さんにアリエッタを託す。はう、ちょっと腰を抜かしてる? 彼女。
「なんだてめえ」
そう殴りかかってくるチンピラたちをとりあえず手加減はしつつ殴り倒し。
そのまま店の前の道端に放り投げた。
お店のなか中からオーっと歓声が上がり、店員さん達がありがとうございますと何度も頭を下げる。
あー。あんまり目立ちたくはなかったんだけどな。
手をあげて歓声を静止し、そのまま店から出ようとしたところで、
「待って」
と、アリエッタ。
「あの、ありがとうございます。もしかして先日も助けてくださった方? ですか?」って。
え? バレてる? 魔族の特徴は隠したのに!
「いえ、先日、は、その……」
言葉に詰まったあたし、「ごめん!」とだけ言ってそのまま外に逃げた。
大急ぎで外に出て角を曲がったところでガワの中にそのまま空間転移で戻る。
「はう、逃げられちゃった」
そう残念そうな顔をしたアリエッタがあたしの前の席に座った。
なんだか彼女、頬が上気してる気がするのは気のせい?