身代わりを残して。
さあ、何処から話したものか。
全ての生命の魂は大霊、グレートレイスから産まれた。
死すとその魂は再びそのグレートレイスに還り、混ざり合い浄化され新たな魂となり復活する。
人族にそれがどう伝わっているかはわからないけれど、あたし達魔族の間ではこのことは子供でも知っている事実だった。
肉体が魂の入れ物であると言うのは魔族の間では感覚としてわかっている事実であって、その魂が身体から離れた時、幽霊や浮遊霊、地縛霊なんかになってしまうのもしょうがないけれどあり得るの。
生物としての肉体がマナに置換されたあとも魔人がその自己同一性を保てるのも、その心、魂、霊、レイスが生命の根幹だって気付いて居るからなんだよね。
もちろんそんな魂にも寿命がある。
っていうか存在を維持する限界があるって話。
時間と共に希薄になっていくのは生命であればどんな存在にもあり得ることで。
しかしそうした魂であっても大霊に還ることでまた新たな再生を得る事ができるのだ。
中には個を、自我を残したまま再生して転生する魂もあるって話。
あたしのご先祖様にも何人かそうした存在がいたらしい。
稀にね。そうした個の強い存在もありうるっていうだけの話だけどね。
さっきから魂のことを「レイス」って発音してるけど、これは魔族の間では個の魂の事をそう呼んでいるっていうはなしで。
たぶん、霊って意味合いじゃないかって思ってるけどね。
そのレイスっていうのはマナで出来ている。
マナっていうのは魔とも言うんだけど、この世界の根幹。すべての源だ。
個っていう膜でマナを包んだ泡のようなもの、それがレイス。
あたし達の命の根幹がそれなのだった。
あたしはお飾りの魔王にはなったけれどそれでも自分を失うまでのあの狂気に身を委ねるのはやっぱり怖い。
象徴としての存在でとりあえず済むのなら、と、自分のガワをマトリクスで複製し、そこにレイスの一部を残して身代わりにしてこうして人族の街に帰ってきた。
シシノジョウには話してきたから大丈夫だとおもうしレイスは繋がってるからいざとなったら一瞬であちらに戻ることも可能。
そんな準備に少し時間がかかったけど、父さんのレイスのカケラ、魔王石のカケラの溶けた魔酒を飲み干したことで増えたあたしのマナであれば、なんとかそんなトリッキーなこともできるようになっていたから。
出来るだけ、このままのんびり過ごしたいんだけどな。