雪の上を、肉球で。
茶色としましまが生まれたのはもう5か月も前のこと。暑い日でした。
今日はとても寒い日。お月様はきれいだけど、雪の上を肉球で歩くのはとても大変です。
「こんな夜はお母さんと寝床で過ごしていた方がいいのだけど」と茶色は言います。
「今日が最後の夜だから、どうしても神社に行かなくちゃ」としましまは言います。
小さい二匹の子猫は静かに歩くのがとても得意です。雪はただでさえ小さい2匹の足音を消してしまいます。
静かな神社の境内には二匹と小さな足跡がまっすぐ伸びていきます。
「願い事を叶えてくれるって本当かな?」と茶色は不安そうに聞きます。
「本当だって人間たちが話していたのを聞いたんだ」としましまは自信満々に答えます。
明日になれば、二匹はお母さんとも別れ、お互い違う場所で生きていきます。大人になったのら猫は必ずそうします。
誰が決めたんだろう、そんなことを。
でもそれは変えられないことで、新しく生きていく場所を探さなくちゃいけない。
茶色もしましまもそれは分かっています。新しい場所で一人で生きていくことが怖くて悲しくて、どこか心が弾むのだと分かっています。
そんな別れの前日に二匹は人間が「神社でお願い事したら叶った」と嬉しそうに話しているを聞きました。
なんて素敵なことでしょう。どんなお願いをしようか、二匹は相談する間もなく雪の中駆け出していました。
茶色はしっかり猫で、しましまはやさしい猫です。
二匹はどんどん雪の中を走っていきます。人間たちが神社と呼ぶこの場所に来るのは初めてではありません。しかし、願い事を叶えてくれるなんて知りませんでした。急げ急げ、今日が終わってしまう前に願い事を叶えて欲しい。
でも、だれが願いをかなえてくれるんだろう?と茶色は思い始めました。
願い事ってなんだろう?としましまは思い付いてしましました。
「「ねえ」」二匹が同時に話しをしようとしたとき、神社の一番奥の建物に着いてしまいました。二匹は話そうとしことをいったん止め、建物を見ます。
建物の入り口には大きな猫が寝ています。夜みたいに黒い猫で、お母さん猫よりおおきな猫です。きっとおじいさん猫なんでしょう。こんな大きな猫を見たことは2,3回しかありません。
「おじいさん、あなたがお願い事を叶えてくれるの?」茶色は勇気を出して話しかけます。
「願い事?」黒色は急に話しかけられた事にびっくりすることもなく、聞き返します。
「そう、願い事!神社でお願い事すれば叶えってくれるって人間が言っていたんだ。おじいさんがお願い事を叶えてくれるんでしょう」しましまはもう嬉しくて仕方ありません。自分でも分からないのですが、とても楽しい気持ちになっています。
「ああ、そうだよ。わしがお願い事を叶えるんだ」黒色はゆっくりと話してくれます。
「やっぱり」しましまは嬉しくて仕方ありません。
「よかったね」茶色だって嬉しいのです。
「でも」と黒色は二匹に言います。「面白いお願い事じゃないと叶えたくないな。考えてごらん、つまらないお願い事なんて誰も叶えたくはないだろう?」
確かにそうだ。つまらないお願い事なんて誰も叶えたくない。
簡単だ。僕のお願い事はつまらなくないぞ、と茶色は思います。
お願い事ってなんどろう?としましまは分からなくなってきました。でも、楽しい気持ちは消えません。分からないけどワクワクするのです。
「さあ、お願い事を言ってごらん」黒色は茶色に聞きます。
「しましまもお母さんも僕も、別々の場所で暮らすことになっても、元気に生きて行けるようにお願いします。」茶色は願います。
「うむ」黒色は言います。「面白いお願い事だ。きっと叶うだろう。」
茶色のお願いを聞いたしましまはようやく分かります。なんで自分がこんな楽しい気持ちでいられたかを。
茶色がいたからだ。茶色がいてお母さんがいたからずっと楽しかったんだ。
「さあ、お願い事を言ってごらん。」黒色はしましまに聞きます。
「ぼくは、」しましまは上手くしゃべれません。でも、しましまは続けて言います。「ぼくは茶色と遊びたい、仲良しでいたい、お母さんとも仲良しでいたい。」しましまは願います。
「うむ。」黒色は言います。「面白いお願い事だ。きっと叶うだろう。」
二匹は次の日の朝、お母さんの寝床から出て別々に生きる場所を探しに行きました。
一匹で生きているとは大変なこともありました、困ったこともありました。
その度に茶色はしましまに会いに行きました。しましまも茶色に会いに行きました。別々の場所に住んではいましたが、建物のすみや夜の公園で二匹はよく会っていました。
二匹で話すと大変なことも困ったこともなくなってしまいました。
「こないだお母さんに会ったんだ。元気だったよ。」と茶色は言います。
「お願い事は叶ったね。」としましまは言います。
暑くもなく、寒くもない。春の日のことでした。