これは《チートスキル》
結局の所ところ、道中は【デジョン】で全て対応可能だったせいか、そこまで苦労するどころか俺の出番はほぼなしで《ダンジョン》を攻略して行った。
全員が、まるで俺の《スキル》を使わせたくない印象を受けたのは仕方のないことだろう。即死系スキルって実際には互いの戦闘経験にはならないからね。
その代わり、俺は背後から銃撃を行い、敵を撃ち殺していく。
そんなこんなで俺たちはボス部屋の前まで来たのだった。
「あ、孝明さん。無事だったんですね」
「白鷺さんか。そちらも無事そうで何より」
白鷺さんの所属しているグループは女性しかいないグループだった。
だけれども、ボスの攻略は全員で当たると言うことだろうか?
30人+引率者6人だと、かなりの大所帯であることには違いなかった。
「今回、ボスは私たち引率組がやることになります。初級ダンジョンですので、そこまで《ダンジョン》も育っておらず、強力なボスが出てくるとは思いませんが、ボスを倒すことがどういうことなのかと言うのを、実際に目で確認していただきたいと思います」
白鷺さんを率いていた女性がそう宣言すると、ボス部屋の扉を開けて、中に入っていった。
「孝明さん、気を引き締めてください。悪い未来しか見えません……!」
「えっ?!」
白鷺さんがそんな事を突然いうものだからびっくりしてしまう。
白鷺さんの、未来を見るスキルなのだろう。
「一番良い結果になる選択は、孝明さんにお願いする選択だけでした」
「……わかった。どういう魔物がいるのかわからないけれど、俺も加勢するよ」
とは言われても、俺よりも熟練の探索者達が負けるとは思えなかった。
実際、出てくる魔物は初心者の俺たちを連れても対処可能だったわけだし、この《ダンジョン》のボスが強いとは到底思えなかったからだ。
ただ、白鷺さんがそう予知したと言うことならば、俺があのスキルを使って対処する場面が出てくると言うことなのだろう。
頭の中にインストールされた内容を見る限りだと、ヤバいことが伝わってくるため、正直使わないことに越した事はないのだが……。
「では、行きます。皆さんは我々の後に続いてボス部屋に侵入してきてください」
隊長っぽい女性がそう言うと、ボス部屋の扉を開く。
どう言う理屈か、部屋の中はこちらから伺うことはできないようであった。
「孝明さん!」
「了解了解」
白鷺さんに促されて、俺は初心者の探索者達の列の前の方に並ぶことになった。
そして、ボス部屋の扉を潜ると、部屋の全体がはっきりと見えるようになった。
「! 荒川さん、扉を閉じて!」
「はい!」
リーダーの女性が補助職の女性に告げると、全員が入りきらないうちに扉が閉まってしまう。
入ってきたのは、俺と白鷺さん、源内くんにあと8人の初心者探索者達だった。
俺は、ボス部屋の奥を見ると、明らかにヤバそうな魔物が王座に座っていた。
その巨体は圧倒的存在感があり、そしてファンタジーを知るものならば誰しもがイメージするそれそのままの姿であった。
【ほう、愚かな人間が我に何用だ?】
巨大な玉座に座っているのは、巨大なドラゴンだった。
人間の言葉を解しており、言葉を聞くだけで俺たちは恐怖を感じていたのは確かだった。
「白鷺さん、ついてこない方が良かったんじゃ……?」
「ついていかなかったらどちらにしても、私たちだけじゃ《ダンジョン》を脱出できませんでした。孝明さんのそばが一番の安全地帯です」
「え、結構ダンジョンの魔物って弱かった気がするんだけれど……」
実際、ど素人の拳銃でもなんとかできた程度だった。
だから尚更、ドラゴンがいる事が信じられなかった。
【まあ良い。我が育て始めたばかりのダンジョンに侵入してきた愚か者どもだ。外にいる連中も含めて殺すとしよう】
同時にドラゴンが息を吸い込む動作をする。
「全員、俺の後ろに!」
本沢さんが盾を構える。
俺たちは慌てて、本沢さんの後ろに隠れる。
【ドラゴンブレス!】
「うおおおおおおおおおおおおおお!! 【ディバインガード】おおおおおおお!!」
本沢さんは【技能】を展開して構えた盾を突き出す。
すると、本沢さんの盾を中心に円形の結界がドラゴンの吐き出す炎を防ぐのが見える。
だけれども、それでも炎の熱気がチリチリとこちらの肌を焼くのがわかるほどには威力や温度の高い青色の炎だった。
「稲田さん! 回復魔法を!」
「は、はい! 【ヒール】!」
女性リーダーの指示に、おそらく《僧侶》かなにかのスキルを持った女性である稲田さんと呼ばれた人が、大沢さんに回復魔法【ヒール】をかける。
そして、炎が止むと、本沢さんが倒れる。
タワーシールドはほとんど原型を留めておらず、本沢さんの両手は黒くなっているのが見える。
「がはっ!」
本沢さんは膝をつく。
【ほう、我の炎を耐えるか。だが、次はないようだな】
ドラゴンはそう言うと、再び息を吸う。
また【ドラゴンブレス】を吐き、俺たちを一掃するつもりだろう。
「ドラゴンに攻撃させるな! 前衛は突撃!」
「うおおおおおおおお!」
「うわあああああああ!」
近接武器を持った女性リーダーと他の熟練探索者たち2人が突撃する。
だが、ドラゴンは彼らの攻撃を避けることはなかった。
ドラゴンの鱗は硬く、剣による攻撃を一切受け付けなかったのだ。
「ぐっ! 硬い……!」
「弱いな。ふん」
ドラゴンが軽く手を振ると……そう、引っ掻いた感じではなく、虫を払う程度の軽い感じで手を振ると、前衛職3人が吹き飛ばされる。
1人は爪に切り裂かれ、細切れになってしまった。
「い、いやあああああああああああ!!」
初心者探索者の1人の女性が恐怖にへたり込み叫び声を上げる。
「孝明さん! 《スキル》を使ってください!」
「……ああ、もう! 知らないぞ!」
俺は舌打ちをして、拳銃を手にドラゴンの前に躍り出る。
「ぐ……君は……! さ、下がりなさい……!」
俺は引き止める満身創痍になった女性リーダーの声を無視する。
仕方がない。
どうしようもない。
この場で解決できるのは、地球破壊爆弾を持った俺だけなんだ。
【矮小な人間よ。貧弱な装備で前に躍り出て、我を笑わせたいのか?】
「知るか!」
足は恐怖で震える。
目の前のドラゴンが怖いのは当然だが、それよりも俺は自分の使おうとしている《スキル》の方が怖かった。
【まあよい、一息で消し済みにしてやろう。【ドラゴンブレス】】
「【次元断絶防御結界】!」
先程、本沢さんが盾になった時に使うべきだったスキルを使う。
俺の目の前の次元が歪曲する。
なんでそんな事ができるのか、理屈はよくわからないが、次元を一時的に断絶させて物理的、魔法的な攻撃全てを防ぐ方法だ。
俺の《スキル》である《時空操作》に内包されてるアクティブスキルの一つだった。
【我の炎を無傷で防いだだと……?!】
ドラゴンは驚愕する。
虫けらを潰すようなつもりだったのだろう。思わぬ反抗に驚いたようであった。
そして、ドラゴンはさらに驚愕する。
いや、俺を含めたこの場にいる全員が驚いていたと思う。
俺は攻撃スキルのためにエネルギーをチャージしていたのだった。
「な、なんだ、あれは……」
「巨大な……エネルギー……?」
後ろから驚く声が聞こえる。
時空間から次元エネルギーを集めていた。
よくわからないが、そう言うものらしい。
そして、ドラゴンよりも大きな……とてつもないエネルギー量を誇るそのエネルギー塊を収縮する。
【なんだ貴様は! そんな攻撃を放てばどうなるかわかっているのか?!】
ドラゴンの焦り声が聞こえてくるが、知ったことじゃない。
俺は、攻撃すると決めていた。
拳銃をドラゴンに向けて、エネルギーに指向性をつける。
「知るかよ! とにかく死ね! 【縮退砲】! 発射!」
俺は拳銃のトリガーを引き絞る。
拳銃の撃鉄が降りて、鉛玉が発射されるのと同時に、エネルギーの塊がドラゴンに向かって飛ぶ。
ドラゴンはとっさに、エネルギー塊を避けようとしたが、避けたところで無駄だったらしい。
エネルギーに吸い寄せられる蚊のように引き寄せられて、ドラゴンに俺の攻撃は命中する。いや、ドラゴンが俺の攻撃に命中したと言った方が正しい気がする。
【ぐおおおおおおおおお! 我は! 我はこんな……】
エネルギーの収縮と同時に、ドラゴンも収縮する。
次元ごと爆発前の収縮をしているらしい。
「【次元断絶防御結界】!」
俺はスキルの使い方に従って、バリアーを貼る。
耳をつんざくような、例えようのない爆発音をたてて、目に悪い光を放ちながら、俺が貼ったバリアー範囲外の全てを吹き飛ばしてエネルギー塊が爆発した。
爆発が止んだ後、俺はその結果に愕然としてしまう。
目の前の空間が全て消滅していたからだ。
《ダンジョン》と俺たちの世界は別次元にあるらしいと言う話ではあるが、宇宙空間が見えるほどに目の前の空間が消滅していたら、愕然とする他ないだろう。
俺は、改めて恐怖した。俺自身の《スキル》に。
やはり、こんなスキルは決して使ってはいけない。
そう思ったのだった。
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主人公のスキルはこれでも中ぐらいの威力のスキルです。
最強のスキルを使うと、如月くんはこの世界線そのものの破壊ができます。
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