《ダンジョン》突入準備
さて、佐々木くんに報告したところ彼からは「ドンマイ☆」とLINEが来たが、俺は元気です。
既に俺の名前は協会のHPに掲載されており、新人四級として名前とスキル名が記載されていた。
顔写真は流石にプライバシーの関係で記載されていなかったけれどね。
ちなみに、四級は俺だけであり、三級は白鷺さんを含めて21人、二級は1,137人いるらしい。
総受験者数は全国で2,913,704人、合格者数は2,100,425人だったようで、合格率は72.08%だった。運転免許かな?
ただ、【職業系】の《スキル》保有者がそれだけいると言う事であり、この合格者のほとんどが生涯《ダンジョン》には一度しか入らないのだろう。
とは言っても、【ダンジョン災害】が発生した時の《スキル》の有無は生存率に直結してくる。
実際、18年前にあった【ダンジョン災害】である秋田県能代市が壊滅した【4.14能代ダンジョン災害】と呼ばれる災害により実証されており、それがきっかけで受験者数が伸びたのは事実であった。
どちらにしても、《スキル》があると災害大国日本でも生存率が非常に高くなるので、運転免許証と同じように【ダンジョン探索免許】が普及するのは当然の話となるのだろう。
そう、変な《スキル》を《ダンジョン》に与えられる人はごく少数なのだ。
《ダンジョン》の《スキル》付与は完全にランダムなので、ぶっちゃけくじ運が悪かったとしか言いようがない。
そう言うわけで、俺は試験を受けた翌週の土日にダンジョン探索をする事になったのだった。
ちなみに、白鷺さんとはLINE交換をしており、たまに状況報告を受けていた。
どうやら、両親からは無事許可を得たらしい。
正直、許可を得たと言うよりは内容すら見ずに半を推したって感じらしいけれどね。
一体どう言う家庭なのだろうか? 気になりはするものの、あまり他人の言いたくないことに踏み込むのもなと思うと躊躇ってしまう。
「あ、孝明さんこんにちは!」
眩しい笑顔を見せる美少女のこの顔を見ると、余計にね。
「こんにちは」
俺たちが集まっていたのは、牛込柳町駅近辺の原町公園だった。
東京だけでも30人はこの場に集まっている。一応、複数の場所でやるようだった。
全員が全員二級以上に認定された【探検者】だと言うのは、この場に佐々木くんがいないことからわかる。
佐々木くんは【剣士】だったらしい。【職業系】だし羨ましい話である。
周囲を見た感じだと、やはり大学生や高校生が圧倒的に多い事がわかる。中には見ため年齢が40歳ぐらいの中年おじさんもいるので、上位《スキル》は発現する人には発言するらしい。
動きやすい服装と言われたので、多くがジャージ姿だったり、既に鎧を身につけていたりと様々である。
俺は比較的動きやすい私服を着ていた。
白鷺さんは高校のジャージ姿である。KEIOとか書かれているのはきっと気のせいではないだろう。
「そろそろ時間ですね」
白鷺さんに言われて腕時計を見ると、確かにそろそろ時間だった。
「孝明さんは普通に私服なんですね。私は動きやすい格好でと言われていたので高校のジャージで来ちゃいました」
「あ、やっぱり? KEIOって書かれてるからそうだと思ったよ。やっぱり頭いいんだね」
「いやいや、私なんて学校でも中ぐらいの成績ですし、そんなんじゃないです」
そう言いつつ、少し暗い顔をしたので話を変えることにした。
どうやら彼女は家庭でも学校でも上手くいっていないらしい。
「で、今回は《スキル》を確認のために呼ばれたんだっけ。こんなところに新しい《ダンジョン》でも発生したのかな?」
「ニュースにもなっていましたから、あると思いますよ。ニュースは見ないんですか?」
「俺、家にテレビは無いんだよね。ほら、あるとついつけちゃうし、ネガティヴな情報しか報道してないからさ。朝からそう言うネガティヴな情報を入れたく無いんだよね」
「そ、そうなんですね! ちゃんと考えてみないならいいと思います!」
と、そんな感じで雑談をしていると、先週の協会の女性と鎧を着込んだ協会の【探索者】たちが到着した。
「皆さん、お待たせしました」
彼女の声が響くと、全員が彼女の方を注目する。
「私は【日本ダンジョン攻略協会】の向井田 真央です。東京第三会場の担当をさせていただきます。皆さんよろしくお願いします」
漢字がわかったのは、昨日はしていなかったネームプレートをしていたからだった。
後ほど向井田さんに近づく際に確認したと言った感じである。
「今回皆さんに集まっていただいたのは、二級以上の皆さんの《スキル》を確認させていただくためです。また、一緒に《ダンジョン》を攻略していただき、【ダンジョン攻略】と言うものを体感していただこうと思っています」
呼び出される際に送られた案内に書いてあった内容だった。
「今回、武器はこちらで貸出させていただきます。《ダンジョン》でのみ使用できますので、こちら側での使用はしないでください。また、柳町ダンジョン攻略後は武器は回収させていただきます」
見ると、確かに様々な武器が机の上や横に並べられていた。いや、並べられている最中と言った方が正しいけれどね。
剣や刀、弓矢やクロスボウ、拳銃といった様々な種類の武器が設置されている。
原始的な武器が多いのは何か理由があるのだろうか? それぞれ個人の才能にあった武器を選んで欲しいと言う配慮だろうか?
「武器は好きに選んでもらって構いませんが、鑑定結果からそれぞれおすすめの武器がありますので迷った場合はそちらを提供させていただきます。皆さん順番に並んで武器を受け取ってください」
と言うわけで、俺と白鷺さんは一緒に並んで武器を受け取りに行く。
順番に受け取っている【探索者】初心者たち。
そして、白鷺さんの番になった。
「えっと、この武器をお願いします」
「メイスですね。わかりました」
迷いが無いのは《スキル》の影響だろうか。
彼女自身の選択だから、彼女の心の問題でも無い限りは最適な選択を選ぶのだろう。
武器選択なんかは最適な回答を選ぶのに遠慮はいらないだろうしね。
「う、重い……。こ、こっちのメイスじゃなくってマジックメイスをお願いします……」
騎士の格好をした協会の【探索者】は白鷺さんにバトルメイスを渡していた。
白鷺さんにそう言われながら武器を返されて、彼は慌ててマジックメイスと交換した。
「し、失礼しました! こちらですね」
「……うん、これなら私でも使えるかな」
振り回してしっくり来たのか、白鷺さんは笑顔で受け取った。
次は俺の番だった。
ともあれ、俺の場合は筋トレが趣味みたいなものだし、細マッチョ目指して鍛えているだけあるので前衛職がお似合いだろう。
俺はにこやかにロングサーベルを手に取ろうとしたが、それは止められてしまった。
「如月さんはこちらの拳銃をお使いください」
「え、なんで?」
素で返してしまった。いや、どう考えてもあの中年おっさんとは違って俺の方が前衛向きだろうに……。
「如月さんは遠距離系統の《スキル》だと思われますので、遠距離からの支援をお願いしたいです」
「えぇ……好きに選んでいいんじゃ……?」
「いえ、遠距離からの支援をお願いします」
俺は拳銃および弾倉一式を受け取る。なんでこの人強く押し付けてくるんだろうか?
拳銃なんて詳しく無いけれども、映画とかでよく見るようなベーシックな感じの拳銃だった。
思ったよりも重い。
使い方なんて知りもしないが、どうするんだこれ。
「オートマグⅢじゃねぇか。使い方教えてやるよ」
そう言って話しかけてきたのは、迷彩服を着た金髪に髪を染めている青年だった。
「え、それだったらありがたいけれど……」
「なら、貸してみ」
俺は彼に拳銃を手渡す。
すると、説明してくれた。
「ここが、安全装置だ。これを切らないとまずハンマーが上がらない。それに、スライドストッパーも下げておく必要がある」
「お、おう」
「シングルアクションだから、スライドを引かないとハンマーは上がらないから、打つたびにスライドを引く必要があるぜ」
「そうなのか」
「あとは、トリガーを引けば撃てる。残弾数は6発みたいだから、残弾数に気をつけつつ狙い打てばいい」
「ああ、ありがとう。結構詳しいんだな。例えばサバゲーとかやってたりするのか?」
気になったので聞いてみると、彼はうなづいた。
「ああ、これでも海外へ行って本物の銃を売ったこともあるぜ」
「へぇ……。それはすごいな」
俺が素直に感心すると、彼は驚いた表情をする。
「お前、いいやつだな。俺は源内 康太って言うんだ。《スキル》は《必中》。二級に認定された【探索者】で早稲田大学の3年生だ。よろしくな」
「ああ、俺は如月 孝明だ。《スキル》は《時空操作》の四級で、東京工業大学の理学部数学院所属の同じく3年生だ。よろしくな」
「おお、まじか! 仲良くしようぜ!」
源内くんは手袋を外して手を出してくる。握手という事だろうか?
なので、俺は握り返す。
「孝明さん、そろそろ出発するみたいですよ」
と、白鷺さんが話しかけてくる。
「お、彼女?」
「いえ、違います。孝明さん、知り合いですか?」
「いやまあ、さっき知り合ったばかりというか、俺に銃の使い方を教えてくれた人だよ」
「俺は源内 康太って言うんだ。よろしくな!」
源内くんは明るい笑顔でニカっと笑う。
「私は白鷺 愛佳って言います。《未来予知》で三級になりました。よろしくお願いします」
白鷺さんは丁寧に挨拶する。
「それにしても、四級や三級ってなかなかすごい《スキル》をもらったんだな」
「ああ、俺は理系だし、普通に就職できればよかったんだけどね。変に珍しい《スキル》をもらったせいでここにいるんだよ」
俺は肩を落としてそう説明する。
「そりゃあドンマイ。だが、強い《スキル》をもらったなら、シャーないだろ。それじゃあ行こうぜ」
源内くんは俺の肩をポンと叩くと、そう告げる。
わかってはいるのだ。流石に1週間もあれば諦めも心の整理もつくがな。
「それじゃあ行こうか」
「はい、行きましょう」
俺と白鷺さんは源内くんの後に続いて《ダンジョン》に向かったのだった。
初投稿です(しつこい)
閲覧ありがとうございます!
一応スキルを使えば銃の知識のある差異次元から知識を取り出すこともできますが、如月くんはスキルをあまり使いたくない人なので、そう言うことはあまりしたがりません。
ただ、源内くんが出てこなければ使ってました。
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