本当の《初めてのボス戦》
休憩も終わり、早乙女さんがコーヒーセットを片付ける。
「よし、それじゃあボス部屋に突入しますか!」
早乙女さんが音頭をとって声を出したので、俺たちも準備をする。
15分程度だったが、12階を下ってきたことを考えればだいぶ体力……スタミナが回復した気がする。
それにしても、なぜボス部屋からダンジョンボスが出てこないのだろうか? そう言う点は不思議である。
「ボス部屋の扉を開けるぞ! 佐々木! 支援魔法を!」
「早乙女さん、事前の支援魔法はまだ私使えないです!」
「おっと、そうだったな。すまん、柳生と間違えてたわ」
「早乙女さん、よく柳生さんと組んでますからね……」
柳生さんとは誰だろうか?
まあ、話を聞く感じだと三菱ダンジョンアタック所属の支援役なのだろうなと思う。
「じゃ、突入するぞ。気合を入れろ、初心者共!」
早乙女さんが扉を開ける。
ギギギと音を立てて、巨大なボス部屋の扉が開く。
「ウッシャア! 行くぞ、如月、白鷺さん!」
気合を入れる源内くん。
俺は源内くんに続いて気合を入れるために顔を両手で軽く叩く。
「うっし、それじゃ行こうか!」
「はい!」
俺たちは早乙女さんの後に続いてボス部屋に突入する。
ボス部屋の扉の先は真っ暗であるが、扉を潜ると視界は開ける。
ダンジョンボスとして待ち構えていたのは、巨大な白い狼だった。目が4つあり、凶悪そうな面構えをしている。
「GURRRRRRRRRRRRRRRR……」
巨大狼は俺たちを視認すると、唸り声を上げる。
「レッサーフェンリルっと言ったところか。まあ、何だって構いやしないが」
余裕そうな表情の早乙女さん。
俺から見れば、レッサーフェンリル? は強そうに見えるわけであるが、熟練の探索者である早乙女さんにとってはたやすい相手らしい。
「【フィールド・プロテクション】!」
佐々木さんが魔法を唱える。
すると、青い光が早乙女さんを包む様に出現する。
「行くぞ、如月くん! 指示を出すから上手く攻撃しろ! 源内くんも適宜攻撃だ!」
「はい!」
「了解!」
早乙女さんが突撃すると、レッサーフェンリル? が早乙女さんに攻撃を仕掛ける。
爪の攻撃をバックラーで受け流してレッサーフェンリル? に斬りかかる。
「WAOOOOOOOOOOOOOO!!」
ドムっドムっと銃を撃つ音が響く。
源内くんがレッサーフェンリルの前足を撃ち抜いていた。
だが、たいしてダメージになっていないのか、反応は薄い。流血はしているんだけれどね。
「じゃあ、俺も行くかな?」
俺は剣を抜いて、アクティブスキルを使う。
「【次元移動術《デジョンウォーク》】」
次元を行き来するための【技能】を発動する。
剣を構えて俺は別次元に移動する。
他の人には俺が消えて突然出てくる様に見えるだろうが、俺は時空間を移動しているだけである。
同じ世界線の移動しかできないけれど、同じ世界線ならば未来方向に移動することができる。
そして、俺はレッサーフェンリルの横に出現する。
「はぁ!」
俺は一週間頑張って剣道部から習った切り方でレッサーフェンリルに斬りかかる。
突然奇襲をかける俺の攻撃を、フェンリルは避けようがなくてまともに受けてしまう。
「WOOOOOOOOO!」
「かった!」
グニっとした感触があり、深く切り抜くことはできなかった。
レッサーフェンリルの皮は思った以上に堅牢の様だ。
俺は時空間に戻り距離を取る。
「皮が硬い!」
「ああ! だが、切れないわけじゃない」
早乙女さんはレッサーフェンリルに攻撃しながらそう答えた。
俺が攻撃したので俺にグルンと目が向いたが、早乙女さんがすかさず防いだので早乙女さんを攻撃している。
「しかし、瞬間移動? ワープ? やっぱりすげぇな……」
と源内くんは驚きつつも銃を打ち込んでいく。
「孝明さん」
「ん? 白鷺さんどうしたの?」
「同じところを切ることってできるでしょうか?」
まだまだど素人の剣ではあるが、瞬間移動を使った不意打ちを駆使すれば難しい話ではないだろう。
「作戦なんですけれど、孝明さんが不意打ちでレッサーフェンリルの皮を切断して、その傷口に《必中》で絶対に当たる源内さんが傷口に銃を打ち込むんです。そしたら、もしかしたら倒せるかもしれないです」
「作戦……ねぇ。予知じゃないんだ?」
「はい、私が戦っているわけじゃないので。ただ、私が作戦を伝えることによって伝えなかった場合に比べて早く倒せます」
つまり、白鷺さんは自分の戦術が有効であることを予知したと言うことだろう。
それならば、やってみる価値がある。
「よし、源内くん、やってみようぜ」
「……如月くんがそう言うなら、わかった」
源内くんがうなづいたので、俺は早速移動する。
一瞬でレッサーフェンリルの横に移動して切りつける。
時空間と反復横跳びをしながら同じところを同じ瞬間に切りつける。
餅つきの様に剣を振り切るが、硬い皮が阻む。もつ煮込みのもつを噛み切る様なレベルの硬さであるが、餅つきの様に剣を何度も同じところを叩きつければ、流石にざっくりと切り傷をつけることができた。
「WOOOOOOOOOOOOO!!」
レッサーフェンリルは口に炎の球を貯めて、俺のいる位置に放つが、そもそも瞬間移動するために回避は簡単であった。
俺はレッサーフェンリルから少し離れた位置に出現する。
「源内くん!」
「おっしゃあ!」
源内くんは打ちやすい位置に駆け出す。
レッサーフェンリルはそうはいかないと、源内くんに向けて炎の球を放つ。
「【次元断裂防御壁】!」
俺はバリアーを作って源内くんに対する攻撃を防ぐ。
「くらえ! 【クリティカルバレット】!」
源内くんは何かの力を銃に込めて、引き金を絞る。
放たれた鉛玉は、レッサーフェンリルの傷口に滑り込む。
「GUWOOOOOOOOO!!」
銃弾が肉体に埋め込まれ、レッサーフェンリルは痛みでのたうちまわる。
「よくやった、如月、源内! あとは任せとけ!」
早乙女さんはそう言うと、痛みに悶絶するレッサーフェンリルの傷口に剣を突き立てる。
同時に赤い血液がブシャーっと吹き出る。
「いくぜ! 【ピアッシングラッシュ】!」
早乙女さんは連続突きの必殺技スキルを使用する。
「KAUUUUUUNNN!!!」
レッサーフェンリルは犬の様な鳴き声を上げる。
早乙女さんの突き方ならば、内臓に相当ダメージを負った様に見えた。
ここまで弱らせることができればあとは時間の問題だった。
むしろ、あの傷ならばいつショック死をしてもおかしくない状態だった。
「とどめだ! 【グレートスラッシュ】!」
早乙女さんは剣に何かの力を溜めて、剣に力を纏わせる。
その剣を振り下ろして、レッサーフェンリルにとどめを刺したのだった。
閲覧ありがとうございます。
イメージは普通のローグライクRPGダンジョンです。
ただ、戦闘は普通にアクションRPGゲームってイメージで描いてます。
レッサーフェンリルは、単に早乙女さんが見た目から付けた名称で、実際はホワイトウルフって敵です。
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