《プロローグ》
翌週の土曜日。
当然であるが、大学生である俺たちは基本的には学業優先のため、活動は基本的に土日に行うことになる。
社会人探索者は平日も探索を行っているんだけれどね。
そんなわけで俺は協会の人と白鷺さん、源内くんと共に《ダンジョン》に潜ることになった。
「いやー、白鷺さん、源内くん、きてもらってありがとうね」
「せっかく仲良くなったからな。どっち道俺も探索者を本業にすることになるし、協会内定の如月くんと仲良くしてたら俺も協会に入れるかもしれないしね」
「現金だなぁ……」
とは言っても、源内くんの《必中》のスキルはかなり強力だと聞いた。
協会に入れなくてもきっといい企業に所属することはできるだろう。
源内くんは《ダンジョン》用のアサルトライフルを持って、迷彩服を着ている。
「私は孝明さんと一緒にいるのが一番いい未来なので、呼ばれればいつでもきますよ」
そういう白鷺さんは、制服の上に軽い防具とマジックメイスを装備している。
《未来予知》スキルのアクティブスキルに攻撃系統があるのかはわからないけれども、三級の免許はそのままみたいなので、相当なアクティブスキルがあるのだろうと思う。
まあ、実際自分の選択した先の未来を見れるというのは普通の人生を歩む上でも最強スキルと言えるだろう。
ちなみに、俺は動きやすいジャージに片手剣を持っているだけだ。
理由はまあ、金欠だからだけれども、そもそも俺のスキルは無敵バリヤーを展開できたりできるというのもあるので、あの凶悪な攻撃スキルさえ使わなければいいだろうと、そう判断したのだった。
「それで、今回は協会の依頼で初級ダンジョンを攻略するんでしたっけ」
「ああ、立方南公園付近に新しくダンジョンが出現して、ちゃんと調査した結果、初級ダンジョンだと認定されたダンジョンだそうだ」
「うーん、前回のあれを考えると、協会の評価基準も怪しいんだよなぁ」
「わかる。だけれども海外だとそういう難易度詐欺ダンジョンってのはそれなりに報告例があるらしいからね」
「確か、先週の四谷ダンジョン以外だとキルギスで発見されたダンジョンが難易度がFだとされていましたけれど、奥に進むと実はAランクダンジョンだったと言うニュースがありましたね」
「お、白鷺さん詳しいね」
「調べましたからね」
つまり、どんなに事前に調査をしたところで、低い確率で難易度詐欺ダンジョンに遭遇してしまう可能性は存在するということだった。
「すまない、待たせてしまいました」
と、やってきたのはベテランの探索者である早乙女 竜一さんだった。
株式会社三菱ダンジョンアタックに所属する探索者で、《槍使い》の職業系スキル保有者で三級のベテランだ。
鎧をしっかり着込んでいるが、腰には探索用の計器などの装備も持っているので、チグハグした印象を受ける。確か、30歳で見た感じだと中肉中背よりのガッチリした体型をしたおじさんだった。
早乙女さんの後ろには、RPGに出てきそうな僧侶っぽいの服を着た女性がいる。
「君たちが今回の立方南公園ダンジョン攻略に呼ばれた初心者だろう? 聞いていると思うが俺が今回のダンジョン探索のリーダを務める早乙女だ。こっちは《回復術士》で二級の佐々木 夏子。俺の後輩だ。仲良くしてやってくれ」
「あ、ヒーラーの佐々木です。皆さん、先輩として支えますのでよろしくお願いしますね!」
ひょこっとした見た目のメガネをかけた若い女性だった。
それでも、職業系で二級の実力を持っているということは少なくとも3年は探索者をやっているに違いなかった。
協会ではダンジョン探索者1年未満の者は必ず5年以上の経験者と同行すること、ダンジョン探索は必ず5人以上のパーティーを組んで探索する事が義務付けられている。法律ではない。
なので、今回は協会に連絡して、ベテランの探索者を派遣してもらったのだ。
「あれ、スカウトはいないんっすね」
源内くんがそう指摘すると、早乙女さんはそれに答える。
「白鷺さんがスカウトの役目を果たせるだろう? 彼女の能力は自分の選択を完全予知できるものだと聞いているからね。どんな罠も絶対安全に避けることができると思うよ。だからこその三級だからね」
源内くんも俺も白鷺さんを見る。
「そうですね。ただ、私は攻撃はほぼできないですけれど……」
「それは、スキルを使っていけば徐々にサブスキルが使える様になっていくのさ。まあ、【熟練度】なんて呼んでいる連中もいるけれどね。ゲーものやりすぎだが、言い得て妙ってやつかもしれないな」
「はぁ……」
「新しいスキルを覚えれば、使い方が頭の中に思い浮かべることができる様になるはずだから、覚えたら報告しなさいよ」
「わかりました」
早乙女さんはそう言うと、俺の方を見る。
「それと、如月くんだっけ? お前さんは攻撃スキルの使用は禁止だ。【デジョン】だっけか? その魔法も魔物の肉体を消し飛ばして、その結果魔石を取得できない状態になるみたいだしな。殺すならスキルじゃなくてその武器で頼むよ」
「わかりました」
俺は同意する。
そもそも、俺自体筋トレ趣味でスポーツや武術をするのが好きなタチだから、前線で戦うのが俺に合っていると思うしね。
「それじゃあ、サクッと初級ダンジョンを攻略しちゃいましょ」
早乙女さんの号令で俺たちはダンジョンに再び潜る事になったのだった。
閲覧ありがとうございます。
初級ダンジョン…海外ではFランクだとか色々ついていますが、発生したばかりで弱いモンスターが徘徊しているダンジョンを指します。
ダンジョン特有の鉱物や宝箱はほとんど生成されておらず、ダンジョン内の空気に含まれる魔素…いわゆるオドの濃度が極小である事がほとんどです。
協会はダンジョン入り口の魔素濃度や近辺の魔物の強さや種類、発生場所から総合的に危険度を決めますが、初級ダンジョンなどは周辺に対する危険度や影響も低いと予想され、内部の魔物も弱いと判断されたと言うことになります。
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