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第79話 精霊に見捨てられた男

ハンニバルの憂鬱な1日が始まった。


「ちょうど労働所の近くで “はぐれ精霊” の目撃情報があってね。僕らが視察している間に第6討伐部隊は “はぐれ精霊” の捜索。僕らも後で捜索に合流するよ。今日中に保護して一緒に帰れたらいいんだけど」


── くそう…死ぬほど嫌だが仕方ない。今日の夕方には王都に帰還だから今日だけの我慢だ。



「ようこそ、私が所長のズッカです。この施設は事情があって一般社会と距離を置かざるを得ない人たちのための施設です。精霊を持たない人が多いので、精霊の力無しで出来る仕事を中心に技術指導を行なっています。

 ここはダンジョンから質の良い魔石が出るので魔石を使った道具作りが盛んな地域です。魔石を使った道具…いわゆる魔道具の材料になる部品作りを教えています。単純作業だから加護の必要も無いし、続ければスキルがレベルアップします。職人として今後の人生を立て直すお手伝いをしています」


「元役者たちは真面目にやっているのか?」

「誰でもここに来た直ぐの頃は荒れているのですよ。自分が悪いことをしたという自覚があっても精霊を喪った現実に向き合うには時間が必要です」


「精霊が残った者がいたよね?」

「はい、ここに来た頃はよく見かけたのですが最近は見かけないですね。…精霊にやつあたりしている場面を見たという者もいて…近頃は精霊に避けられているようです」


皆の雰囲気が変わった。

「勘助」

「ああ、出来るだけ早く神官を連れて来よう」

精霊に契約解除を勧めるつもりのようだ。



「あれ、ちょっとすみません…誰か来たようです」

入口が騒がしいと思ったら、聞いたことのある声が聞こえた。


「勘助さあーん! バル〜♡」

「狩野ちゃんが来たようだね、…ハンニバル!顔!」

嫌そうに歪んだ顔を注意された。


「お待たせ〜」

「やあ、ここに現れたってことは “はぐれ精霊” を保護したってことかな?」

「そうよ! この子ったらダンジョンの方でフラフラしてて危なかったのよう!」

狩野が保護した精霊は肩乗りサイズの可愛らしい女性型精霊だった。


「やあ、僕は勘助だよ、この子は風の精霊のウェンディ」

肩に乗る人型精霊を紹介する。

「君の名前を教えて?」

「………」


「この人たちは、あなたの味方よ。私も “はぐれ” になって記憶を無くしていたところを助けてもらったの」

「…覚えていないの………」

「そっか。じゃあ一緒に新しい名前を考えようか。可愛い名前にしようね」


── こいつもパリピか?! 俺のおくちからは絶対に出てこないセリフだぞ。


ハンニバルだけ緊張感に欠けている。

女性(精霊を含む)に優しい男はすべてパリピと認識しているようだ。


いったん王都で保護をすること。そこでいろいろ見てもらって精霊の希望に合う進路を一緒に探そうと説明したら安心したようだ。

“はぐれ精霊” は、勘助の精霊のウェンディと一緒に抱っこされて眠そうにしている。一人ぼっちで彷徨って疲れていたのだろう。


「中断してすまない。この子を抱いたままでいいかな?」

「かまいませんよ。 “はぐれ精霊” って治安を乱す存在だと思っていたけど可愛いものですね」

「うん。暴れて討伐せざるを得ない精霊と、どう違うのか分からないけどね。こうして保護出来るのが1番だよ」

話しながらゾロゾロと施設を見学する。

ちなみに狩野は任務の完了報告のために帰った。


「実習も施設も素晴らしいね! それに宿舎も立派だ」

「はい。ここにたどり着いた人たちは訳ありですが、人生を立て直すチャンスはあるべきだし、人が生きるためには誇りが必要だと考えています。ここは刑務所ではありません。人生を立て直すためにも、自分の生活に誇りを持てるような施設であるべきだという前提で運営しています」

「僕は賛成だよ」

「俺も賛成だ」


視察がひと段落したとみて天が動いた。

「ちょっといいかな」

「天殿?」

「あっくんも気付いている?」

「うん」


「その子、ここに送られたっていう元役者の精霊だよ」


所長も勘助もハンニバルも返事ができない。


「その子の契約者だった人間に確認させたいけど暴れられたら面倒だね。覚えていないようだけど、その子がショックを受けたら可哀想だ」

「任せろ」

「…ちょっとまってハンニバル。どうするつもり!?」

「猿ぐつわを噛ませて縛ってから連れてくる。聞き取りは別室だ」

「…ちょ!ハンニバル! それは……いや、その方法しかないか」

「そうだろ?」

「ああ」


所長の手引きで縛られて猿ぐつわを噛まされた元役者がハンニバルに運ばれてきた。


「やあ、手荒くてごめんね。この子を知ってる?」


「…!!!………!…!」

勘助に抱かれて眠る “はぐれ精霊” を見て暴れ出した。


「間違いないようだね」

「続きは別室だ」

ハンニバルが元役者を荷物のように運んでいった。


*******

「……胸糞悪い」

「まあ、僕も同じ気持ちかな」


別室で聞き取りを行った結果、想像通りの状況だった。


精霊の名前はエイミー。

神官は精霊に契約解除を勧めたが、契約の解除はやめて欲しいとすがった。精霊も自分の加護を使ってもらうことは出来ないが側で支えたいと言ってくれた。

 しかし神官に加護を封じられたので側にいても加護は使えない。精神が不安定な状態が続き乱暴な言葉を浴びせることがあった。しばらく前から姿が見えなかった。


「シンプルに供述していたけど、実際にはかなり酷いこと言ってたんだろうね」

「保護出来て良かった」



保護した精霊を連れて王都に帰還した。

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