第76話 蛍塚歌劇団
最終的に大量の逮捕者が出た。
現役の寮生が27人。元寮生が152人。
犯罪行為や逮捕の事実が明らかになって予定されていた興行のほとんどが中止となり、王都だけで無く国中で話題となった。
逮捕者のほとんどが精霊を失った事も報道された。精霊を失っては、もう役者には戻れない。厳しい未来しかないだろう。
「あっくん! 風花ちゃん!」
みんなで新聞を読んでいたところに天が帰ってきた。
「天さん? どうしたの」
「ポイントが大量に加算されたよ!」
「マジかパパ!」
阿修羅の尻尾がグルグル回る。
「一気に80万ポイント! まだまだ足りないけどね!」
阿修羅の尻尾が勢いを無くす。
「まあ、あと60年か80年くらい時間はあるからね。焦らず貯めていこうね」
風花の寿命が尽きるまでだから、まだまだ先の話だ。それさえも天や阿修羅にしたら、あっという間だ。
*******
「こんにちは」
「神官さん!」
風花とカデンが店番をしていると顔馴染みの神官が現れた。
「数件先からパンの香りがしましたよ。カデンさんも、すっかり馴染んでいらっしゃるようですね。お揃いのエプロンがお似合いですよ」
「えへへ、ありがとう」
「バケットを3本と1番大きなカンパーニュを1つくださいね」
「ありがとうございます」
代金のやり取りが終わってからが本当の会話だ。
「今日は土曜日なのでお昼で終わりですよね?」
「はい」
「その後のご予定は?」
「特にありませんけど?」
「ハンニバルさんたちも誘って、皆さん一緒に神殿に来ていただけないでしょうか。
女子寮の皆さんが、是非お礼を言いたいそうなんですが、表向き風花さんたちは関わっていないことになっていますので、ご足労ですがこっそりと」
「実は私も気になっていたんです」
「それは良かった。お昼ご飯の後、散歩がてら立ち寄ってください」
*******
「人間て律儀だな!」
阿修羅が元気よく歩く。散歩がてら、ハンニバルとカデン、天と阿修羅と風花の5人で神殿にやってくると、大きな部屋に通された。
その直前にカデンは右手をハンニバル、左手を風花と繋いだ。ハンニバルに惚れる女性が現れないよう、熱々カップルをアピールしているつもりだ。しかし見る人によってはカデンがお邪魔虫にも見えるだろう。
「皆さん、この度は犯人を捕まえてくれてありがとう」
長身でショートヘアで凛々しいタイプの女性が代表して挨拶すると全員が頭を下げる。
「頭を上げてくれ。俺には当然の仕事だったし、風花が逆恨みされないよう証拠集めに協力した秘密を守ってもらえれば良い」
「初々しいな。彼女を大切にしているんだね」
「興行がキャンセルになって申し訳ない。この前言ってたデートはできたかい?」
同じく長身でショートヘアの女性が2人、前に出てきた。
「うん! スケートに行ったよ。バルが風花ちゃんに付きっきりだったよ!」
「それはよかった」
── おかしいな…。
女性たちを牽制したつもりが、誰もハンニバルに興味が無いようで違和感を感じるカデン。
「風花ちゃんは可愛いね。声も綺麗だし娘役にスカウトしたいくらいだよ」
── はて? 娘役?
カデンの違和感が大きくなる。
「私たちは女性だけの歌劇団を旗揚げしたんだ!」
「蛍塚歌劇団だよ」
「蛍塚って…」
「そう、男子寮のある通りの名前」
「あの寮を歌劇団の拠点にする許可が降りたんだ」
「嫌じゃないの?」
よりによって、あんな場所に…と風花は心配でならない。
「消毒したから大丈夫だよ」
「心配してくれるの?」
「風花ちゃんは優しいんだな」
ボーイッシュな女性たちが風花を取り囲む。
── おやおやー?
カデンが首を傾げる。
「以前から稽古を重ねていてね。旗揚げ時期を探っていたんだけど、男性の俳優が激減したことで一気に実現したんだ」
「これまで通り女性と男性が演じる舞台も存在するよ。むしろ主流だね」
「私たちは男役と娘役を女性だけで演じたいんだ」
「すてき…」
風花が頬を赤らめ、男役の女性たちに見惚れている。
── おやおやおやー?
「1ヶ月後に初舞台が決まったんだ」
「風花ちゃんたちに、是非観てもらいたい」
「はい行きます」
「嬉しいな、チケットを用意するよ」
「ありがとうございます」
風花が男役の言いなりだった。
…カデンの心配は無駄に終わり、ハンニバルは誰からもモテなかった。
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