第75話 後始末
「バルさん、昨夜は帰らなかったの?」
風花が心配そうだ。
ハンニバルが知ったら調子に乗るだろう。
「バルが仕事で帰れないことって時々あるんだよ! でも心配ないよ! 仕事だから!」
夜に不在でも浮気じゃないアピールだった。
「僕がキャッチした情報によると、早い時間に全員を逮捕したみたいだよ。そのまま全員で仮眠を取って今日は朝から聴取みたい。
あの人数だし、きっと1日じゃ終わらないよ。当分の間、帰れないんじゃないかな」
「そっか」
「その間、あっくんは僕のお手伝いね」
「うん!」
治安部隊の仕事がひと段落するまで阿修羅がハンニバルと出勤することはないので、お家でお手伝いだ。
「今日の午後には噂が広がりはじめるだろうけど、誰かから聞くまで知らない風に装ってね。神殿での断罪にハンニバルが1人で行ったのも、風花ちゃんたちが関わっていると知られて逆恨みされる事を恐れてのことだから」
「うん」
「レミさんも誠一さんもカデンちゃんもあっくんも全員、知らんぷりだよ」
「うん、パパ」
*******
「いらっしゃい、ヨハンさん! 昨日預かった洗濯物も仕上がっているよ」
「ああ、今日も頼む」
ヨハンが汚れたエプロンや布巾などを預ける。
「ちょっと聞いてくれよ」
「どうしたの?」
「うちで夜に働いてくれてるディランがな、さっき青い顔で店に来たんだ。昼に顔を出すのは珍しくないんだが様子がおかしくてな。…あいつ、この間のオーディションに受かって次の舞台が決まったって喜んでいたのに、それがダメになるかもしれないって言うんだ」
「何かあったのかい?」
「メインキャストの俳優が過去の犯罪行為で明け方に逮捕されたらしい。若手も何人か連絡が取れないそうだ」
「それって…」
「舞台仲間の女優に聞いたらしいんだが酷い話だった。うちのディランは実家暮らしだから寝耳に水だったそうなんだが…、国が補助している若手の俳優が住む男子寮が女子寮に対する犯罪行為の温床になってたらしい…。ディランも全容は分からないそうだが、かなりの人数が捕まったようだ」
「そうなんだ…犯罪行為って?」
「し、し、下着泥棒とか…」
「ああ変態的犯罪者からしたら女子寮は宝の山だね」
「それで芋づる式に過去の犯罪行為も暴かれて、第一線で活躍する俳優も逮捕されているらしい。犯罪行為は許されないし犯罪者が逮捕されるのは正しいことだよ」
「うん」
「でもディランが可哀想でなあ…今回の舞台だけで無く、今後どれだけ影響があるのやら…」
「そうだね」
今日はディランにやけ酒を飲ませてやるんだといってヨハンが帰っていった。
ヨハンから知らされたことは家族に共有され、もう秘密では無くなったし、酒場からあっという間に商店街に広がるだろう。
ハンニバルが帰宅出来たのは、さらに3日後の午後だった。
「バル!」
カデンがハンニバルに抱きついた。
「カデン、1人にして悪かった」
カデンを抱きとめたハンニバルが謝罪する。
「私は大丈夫だよ! 風花ちゃんたちが一緒だから。バルの方が心配だったよ…」
浄化魔法で身体を清めていたが髭が伸びっぱなしだった。
「こんな顔で悪い」
「浄化魔法で清めていたんだろう?」
「ああ」
「でも疲れを取るならお風呂だよ。沸かしてくるからまってて。あっくん、手伝って」
「うん!パパ」
「ありがとう、天殿、阿修羅」
気の利く天が阿修羅を連れて行った。本当は手伝いなど必要ないがハンニバルと風花を2人にしてやろうという気配りで阿修羅を連れて行った。
「おかえりなさいバルさん」
「ただいま風花。観劇は当分、無理そうだが落ち着いたら風花をデートに誘いたい」
「うん、嬉しい」
── いい感じで誘えたが、ヘタレなハンニバルは2人きりで出掛ける事が出来ず、結局カデンと天と阿修羅も一緒だった。




