第74話 断罪するよ!
さらに2週間、泳がせた。
「すぐにも踏み込んで証拠として押さえるべきだ」
「賛成だけど妨害されずに押収できる?」
「地盤に不具合が見つかって倒壊の危険があるとでもアナウンスすれば良い。
土木精霊を呼んで地盤のメンテナンスをする。念のため建物も検査とメンテナンスするので半日待て、終われば住んでも危険はない。長くても半日なので荷物をまとめる必要はないと言えば混乱は起きんだろう」
「それにしても、戦利品ノートだなんて…恥知らずにもほどがあるね。こうやって記録して、犯罪行為を自慢しあっているだなんてゾッとするよ」
盗聴から下着泥棒やのぞき等の犯罪行為をまとめたノートの存在が明らかになった。ノートの隠し場所は監視カメラでバッチリだ。
「しかしこれで過去の犯罪も明らかになるぞ。逃げ得は許さん」
「男子寮の地盤や建物について気づいたことが無かったかヒヤリングしたいという口実で全員を一箇所に集めましょう。神殿を使っていただいて構いません」
冷静な態度を崩さなかったが神官たちも怒っているようだ。
「今夜でも受け入れられるか?」
「問題ございません」
「早い方が良い。俺は本部に戻って逮捕状や捜査令状などの書類と人員を揃える。動けるようになったら連絡する。俺から連絡があるまで何もしてはいけない」
「分かりました」
「行動を起こしても良い状況になったら、まず男子寮に向かう。土木精霊の加護持ちを装って敷地内と建物に人員を展開する。
建物内にいる寮生は、全員そのまま神殿行きだ。そのタイミングで寮生の名簿を渡すので全員を確保できたら連絡してくれ」
「分かりました」
「寮生を全員確保して、ノートを押さえたら俺も神殿に向かう。捜査班は引き続き寮内を捜索する。映像や音声で判明していない証拠品を押さえる。
神殿で、これまでに集めた証拠の映像と音声を突きつけて逮捕。その間もノートを解読し、過去の犯罪が明らかになった者たちの逮捕状をとる。朝までに全員逮捕だ。1人も逃がさん」
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この日のために約3週間やってきた。すべての道筋が整っており、スムーズに進んだ。
「ハンニバルさん、寮生を全員確保できたと連絡がありました」
「全員の逮捕状は揃っているか?」
「問題ありません」
「ノートの解読と逮捕状の請求は?」
「現在ダブルチェック中です。抜け漏れがなければ1時間後には逮捕状を請求、明け方に逮捕します」
「分かった。ここの捜索と逮捕は任せる。俺は神殿に向かう。神殿で確保した者たちを黒の塔に送ったら、ここに戻るが夜になるだろう」
「分かりました」
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「ちょっと困るんだよねえ!」
「いつまで拘束されるんですか!?」
「寮の建物に不備って、どう保証してくれるんだよ!」
ハンニバルが到着した頃、神殿に集めたイケメンな役者の卵たちが苛立っていた。
「黙れ」
「あんた誰?」
「責任者かよ!」
「どうしてくれんだよ!」
「黙れ!」
ハンニバルが威圧で黙らせた。
国に生活を助けてもらっている自覚があったら文句など言えないはずだが、多くのものが不満を表していた。安全のためにたった数時間の避難だと説明されていてこれか…とハンニバルも神殿関係者もうんざりしていた。
ハンニバルがプロジェクターを用意し、部屋を暗くするよう指示をすると、異常な数の治安部隊員が寮生を囲み、座らせた。
証拠映像と音声が再生されると寮生が騒ついたが逃げる事は不可能だ。
一通り再生が終わる頃には静かになっていた。
「右側に座っている者たちには逮捕状が出ている。左側に座っている者たちは参考人として聴取する。
寮内はすでに捜索中だ。貴様らが自ら記録したノートは押収済みで、ノートに記載のある、過去の寮生についても逮捕状を請求済みだ。
寮にずいぶん不満があったようだが逮捕者は黒の塔に、参考人は青の塔に今すぐ引っ越しだ。良かったな」
珍しくハンニバルがカッコいい。風花に見せられないのが残念だ。
青ざめた寮生たちが顔を上げると、散々馬鹿にしてきた犯罪行為の被害者たちに囲まれていた。
「下着泥棒は言いがかりだの、証拠はあるのかだの、名誉毀損だの騒いでいたから証拠を揃えてみたわ、泥棒さん?」
「良かったわね、犯罪者として裁かれて。もう罪を重ねなくて済むのよ」
「そうそう、あなたたちが喜んで盗んでいた下着、敷地の警備をしてくれてるワンちゃんたちが履いていたのよ。変わった趣味ね?」
敷地内を駆け回る大型犬を思い出してがっくりする寮生たち。
自分たちを取り囲んでいる集団の中には、すでに退寮し、第一線で活躍する女優もいることに気づき震える者もいた。
「少しよろしいでしょうか?」
「神官さん?」
「こちら側に座って居る皆さんは逮捕ですよね?」
「そうだ」
「もう役者としてやっていく事は不可能ですよね?」
「だろうな」
「では精霊の解放を要求します」
役者たちは精霊から芸能の加護を受けている。精霊は加護を使ってもらえなければ存在意義がない。契約は神官が解除することが出来る。しかし契約解除の場合、再び精霊と契約することは、ほぼ不可能だ。
ハンニバルやカデンが契約の解除ではなく交換にこだわった理由でもある。
「待ってくれ!」
「それだけは止めてくれ!」
逮捕は仕方が無いが、いずれほとぼりは冷めると開き直っていた者たちが慌て出した。
周りを取り囲んでいた女子寮の者たちも、あまりの厳しさに息をのんだ。
「もう加護を使うチャンスは無いのですよ。それでも契約者と一緒にいる事を望みますか?」
神官が精霊にたずねると精霊達が騒ついた。これまで一緒に過ごした情もあるのだろう。
「では後日、改めて聞くことにしましょう」
精霊が決断するために、考える時間が必要だろう。
全員を連行するのを見届けて、ハンニバルは男子寮に戻った。
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「こちらは予定通り、全員を塔に送り込んだ」
「こちらも予定通りです。捜索は終了、押収品は本部に移動済み。問題なく逮捕状も出ました。予定通り明け方に逮捕するので現在は監視ちゅう。それまで本部で仮眠を取りましょう」
「ここは引き続き立ち入り禁止。交代で見張ります。見張りのシフトも確定済みです」
── 人目が無くて騒ぎにならない明け方に逮捕。その後、全員の聴取か。当分、家には帰れないな。
しかし終わったら風花とデートだと思うとスキップしたくなるハンニバルだった。




