第64話 コブ付きデート
翌日は日曜日なので風花もハンニバルも休みだ。野次馬たちのアドバイス通り絶好のデート日和だ。
「お出かけ嬉しいな!」
右手をハンニバル、左手を風花と繋いだカデンがご機嫌だった。
阿修羅は天と2人で出かけたので初デートは3人でのお出かけとなった。デートに見えないデートだ。
「ね、バル! まずは風花ちゃんが行きたがってたカフェに行こうね! 夜はヨハンさんの酒場で働くディランさんが出演している舞台だよ」
「ああ、カデンは頼もしいな。そのカフェは、どんなカフェなんだ?」
「アリスの不思議なカフェっていう店名のコンセプトカフェだよ!」
── コンセプトカフェとやらが何なのか知らないが、風花の嗜好を把握しているカデンを連れてきて正解だったな。ラブラブな雰囲気に持っていくのは難しいが仕方ない。それを差し引いてもカデンはグッジョブだ。
「可愛いカフェだね! 風花ちゃん」
「うん、コンセプトをここまで作り上げてて凄いね!」
── そのカフェは、すべてがピンクとフリルとレースとリボンで出来ていた。全然グッジョブじゃなかった。帰りたい。
「私は、白ウサギのお茶会セット─ いたずらなベリー添えにしようかな」
「私は三月ウサギと帽子屋の欲張りセット─ フラミンゴピンクのクリームを添えて!バルは?」
「ハ、ハ、ハ、ハンプティダンプティのいたずらなパンケーキ─ ハートの女王に恋をして…だ」
── いたたまれない空間とメニュー名だ…くそう…女性客ばかりじゃないか…
「ご注意はお決まりですか?」
フリフリな店員がやってきた。注文を伝えるのは俺の役目だ。無になれ自分。
「彼女に白ウサギのお茶会セット─ いたずらなベリー添えを。この子には三月ウサギと帽子屋の欲張りセット─ フラミンゴピンクのクリームを添えて、自分にはハンプティダンプティのいたずらなパンケーキ─ ハートの女王に恋をして…だ」
心を無にして言い切った。
「苺のクリームケーキと紅茶のセット(白ウサギのお茶会セット─ いたずらなベリー添えのこと)と、プチフールの盛り合わせと紅茶のセット(三月ウサギと帽子屋の欲張りセット─ フラミンゴピンクのクリーム添えのこと)と、ベーコンと目玉焼きを乗せた甘くないお食事パンケーキとコーヒーのセット(ハンプティダンプティのいたずらなパンケーキ─ ハートの女王に恋をしてのこと)ですね!承知いたしました、しばらくお待ち下さい!」
── ズルイぞ! 客にだけ恥ずかしめを!!
ハンニバルは涙目で店員を見送った。
「これは…美味いな」
見た目はアレだが食事もコーヒーも美味しい。ハンニバルにヒヤリングしてボリュームも調整してくれたので満足感たっぷりだ。見た目とメニュー名以外はいい店だった。
「そうなの! 見た目の素晴らしさだけじゃなくて、素材や調理法にもこだわってるって評判なの! 1度来てみたかったんだけど大正解だね!」
「風花ちゃん、ずっと言ってたもんね。このケーキ美味しいよ!」
風花とカデンがお互いの甘味をシェアして喜んでいる。2人が喜んでいるなら、恥ずかしめに耐えた甲斐がある。食事もコーヒーも美味しいのでプラスマイナスで言えばプラスだ。
「美味しかったね!」
「ああ、いい店だったな」
「ありがとうバルさん、ご馳走になっちゃって」
「嬉しそうな風花とカデンを見られたからお釣りがくる」
奥手で打算が苦手なハンニバルなりに素直に感じたことを伝えると風花が赤くなった。
「えへへ。ねえ、舞台まで2時間あるから見て回ろうよ」
アリスのカフェがあるのはローズガーデンという地区で、イギリスのコヴェント・ガーデンのようなエリアだ。コヴェント・ガーデンはロンドンの演劇とエンターテインメントの中心的な広場で、ファッション店、工芸品を売るアップル マーケット、ロイヤル オペラ ハウスがあり、大聖堂の側では大道芸人が芸を披露している。
「ねえ、風花ちゃんは大道芸とウィンドウショッピング、どっちがいい?」
「折角だから大道芸を見たいな」
「バルも大道芸でいい?」
「もちろんだ」
初めてのデートはコブ付きで正解だった。正解というか、カデンがいなかったらハンニバルは使い物にならなかっただろう。
少なくとも、この手持ち無沙汰な2時間は地獄だったはずだ。
カデンの絶妙なサポートで、この隙間時間を楽しみ、立ち寄ったアクセサリーの店で風花が目を止めたピアスをプレゼントするようカデンがハンニバルにアドバイスして無事に贈ることができた。
もちろんハンニバルは風花がピアスを気に入ったことに気づかなかった。カデン様様だ。
「ねえ、お芝居って2時間くらいかかるんでしょう?」
「うん終演は20時だって」
「途中でお腹すいちゃうよ! 屋台で何か食べようよ」
── ナイスな提案よ! カデンちゃん!
初めてのデートでお腹が鳴る事態を避けたい風花にとって願ってもないおねだりだった。
「ここの屋台はホットドックが多いね」
「風花とカデンの影響だな」
「えへへ、やっぱりそう思う?」
「ああ、間違いない」
屋台のホットドックで腹ごしらえして、安心してディランの舞台を楽しめた。
── 次のデートにもカデンの同行は必須だな。
── カデンちゃんがいてくれて良かった…。
似たもの同士な2人だった。




