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第57話 ヨハンと天

「3Dコーヒーアート?」

「うん。そろそろ次のステップに進みたいなって」

てんのラテアートはかなり上達し、動物の顔なども表現できるようになっていた。


「でも3Dのラテアートってカップのフチの上までミルクが溢れているでしょう? 持ち帰りには向いていないんじゃない?」

「そうなんだよねえ…」

可愛いのに…と残念そうな天柴。お客さんがいない時間なので柴犬の姿だ。


残念ながら3Dコーヒーアートはクリーニングの片手間にやっている持ち帰り専門のコーヒースタンドには向かないサービスなので家庭内だけで楽しむことになりそうだが、秋も深まってきたのでコーヒーのお客さんが増えてきたと喜んでいる。それでもコーヒーのお客さんは多くない。やはり専門店には敵わない。


「クリーニングは洗濯機と乾燥機が自動でやってくれるから、僕のやることって出し入れと最後に畳むことくらいじゃない?コーヒーのお客さんもお昼に集中するくらいだし」

パンやホットドック、シチューパンと一緒に買うとコーヒーが安くなるサービスを実施しているのでお昼に集中して注文が入るが、それ以外の時間は暇なのだ。


「クリーニングを引き受けてもらって助かってるから天さんは無理に働かなくても…」

「お昼はそれなりにお客さんがきてくれるけど、けっこう暇なんだよねえ…」

天柴がため息をつく。


「それは贅沢な悩みだな」

商店街にある酒場を経営するヨハンさんが、エプロンやタオルなど酒場で出た汚れ物を持ってきた。


「いらっしゃい! 昨日預かったものも仕上がっているよ」

人型に変化した天が、汚れ物を確認して預かり証を渡し、仕上がったものと引き換えに代金をもらう。


「洗濯を自分たちでやらずに済むようになって、ずいぶん楽になったと思うんだが、なんだろな相変わらず毎日何かに追われてるんだよな。雨の日でも冬でも関係なく仕上げてもらって助かってるのになあ…。冬場の洗濯は辛かったから助かるぜ」

「役に立ててるなら良かったよ」

「時間が合えばディランが休みの間、うちの店を手伝ってもらいたいくらいだぜ」

「夜は息子との時間だから無理なんだよねえ」

「そうだろうなあ」


「ヨハンさんたちは毎日どんなスケジュールで働いているんだい?」

「俺たちは夜が遅いから昼に起きるだろ?」

「うんうん」

「カミさんは家で家事、俺は店で掃除と買い出しと下拵え。下拵えってのはビールの醸造だけじゃなくて料理もな。食材を洗ってカットするくらいだがな。大体その頃には家事を終えたカミさんが店に出勤してくるから賄いで腹ごしらえして夜の営業に備える。店じまいの時間は客の入り次第だな」

「開店時間は?」

「俺が店にいる間は、ずっと開けてる。昼から飲みたい客もいるからな。昼の営業は、夏はビールで冬はホットワインが売れるな」

「なかなかの労働時間だねえ」

「パン屋だって朝が早いから似たようなもんだろ?」

確かにそうだった。


「あと、聞いているとお店に関してはヨハンさんの負担が多いみたいだね。家事は奥さんでお店はヨハンさんて役割分担なんだね」

「ヨハンさんは、ハンナさんに酔っ払いの相手をさせたくないのよね?」

「うちのカミさんは美人だからな! 俺の夢だったビールの店に付き合ってくれるのは嬉しいが、カミさんを酔っ払いの目に晒すのはもったいなくてな…酔っていなけばいい奴らなんだが…」

奥さんラブなヨハンの中で葛藤があるらしい。


「分かるよ! 僕も奥さん大好きなんだよね。奥さんは夜叉ちゃんて言うんだけど、夜叉ちゃんはバリキャリでね! 産休も最小限で職場復帰してね。残業も多いし、今は離れているから心配で心配で…。夜叉ちゃんの気持ちを疑う訳じゃないけど、夜叉ちゃんは美人だし…夜叉ちゃんを狙う男は多いはずだから…僕がいつも側にいられたらいいのに…」


「天さんの奥さんは、きっとお淑やかな美女なんだろうな。奥さんはこっちに来ないのか?」

「夜叉ちゃんは、もともと長期出張中なんだ。」

「長期ってどのくらい?」

「人間の感覚だと半年くらいの出張かな?」

「実際にはどのくらいの期間なんだ?」

「人間の時間でいうと60年?」

「10年が1ヶ月感覚かよ!」


「夜叉ちゃんに会いたいなあ…」

ヨハン達の驚きをスルーして恋のため息をつく天だった。

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