第51話 パパとの再会
「あっくん!」
古風な平安装束姿の若く麗しい青年が目を潤ませながら駆け寄る。
「パパ!」
風花たちと一緒にお散歩中だった阿修羅が叫ぶ。
古風な青年が優しく阿修羅を抱き上げて頬を寄せ、はらはらと涙をこぼす。
「心配したんだよ!あの後、僕らの知らないうちに精霊に封じられたって聞いて探しに行けば、もうパートナーと契約して人間界にいるって聞いて……探したんだよ」
「…ごめんパパ。俺、探してもらえるって知らなかった。ポイント貯めて元に戻らないと会えないと思ってた」
阿修羅の耳と尻尾が下を向く。
「うん、あっくんの言う通りだよ。でも僕はじっと待ってるなんて出来なくてね、僕も今は半精霊なんだよ。力の大半を封じないと地上に降りる許可が取れなかったから」
「パパ…」
どうやら青年は阿修羅の父親らしい。ヤンチャして精霊に封じられた阿修羅を追ってきたようだ。
「パパ、紹介する! 俺の風花!」
阿修羅が尻尾を振りながら元気よく風花を振り返る。
「あっくん、それじゃ恋人みたいだよ」
麗しい青年が困ったように微笑む。
――― なんということだ! 阿修羅の父親が生身のイケメンとして現れるとは! あれはマズい、全裸ではないが美形にも程がある!
ハンニバルの頭の中が暴風雨だ。
「はじめまして、可愛らしいお嬢さん。阿修羅の父の天です。いつも息子がお世話になっています」
「は、はじめまして!」
美形な神に微笑まれた風花が頬を染めて緊張している。
「あっくんは、こんなに可愛いお嬢さんとどんな契約をしたの? 大きな黒い瞳が綺麗だなあ。ショートヘアが似合う美人さんだね、それに細いウエスト…オードリーみたいだ」
天がニコニコと風花の愛らしさを称賛する。
――― くっ! 見目麗しい上に、なんという女たらしな神だ!! 風花が可愛いことなど、とっくに知っているぞ!
ハンニバルに出会う前から、風花は王都商店街で評判の看板娘だ。
「えっと…加護については……。よかったら我が家へどうぞ。長い話になるので」
脳内が暴風雨なハンニバルはカデンと手を繋いでなんとか帰宅した。どうやって帰ったかは覚えていない。半分くらい魂が死んでいたと思う。
イケメンの父とイケメンに違いない阿修羅に風花を奪われる妄想で頭がいっぱいだった。
「まあまあまあ! 阿修羅ちゃんのお父さんですか!」
「息子がお世話になっています」
風花一家やハンニバルとカデンと一緒に炬燵にあたり、豆柴な阿修羅を抱いた麗しい青年がペコリと頭を下げる。
「この炬燵というものは実に暖かいねえ。火鉢よりもいいねえ」
天の顔が綻ぶ。
「カデンの加護なんだぜ!」
「すごいなあ、みんなを幸せにする加護だねえ」
「えへへ、ありがとう」
さっそくカデンとも打ち解ける天。
「うん、お茶も美味しいなあ」
「父ちゃんと母ちゃんはお茶だけじゃなくて、料理もうまいんだぜ!」
「それは素晴らしいねえ」
「あの…もしかして阿修羅を連れ戻しに来られたのですか?」
まったりと寛ぎはじめた天と阿修羅に、父が話しを促した。
「いいえ、連れ戻すことは出来ないのです」
天が美しい顔を曇らせ、はらはらと涙をこぼしながら語りはじめた。
「僕の妻で阿修羅の母である夜叉ちゃんはビジネスウーマンでね、産休明けからいきなり激務で…任される仕事が多くてなかなか家に帰れなかったんだ」
天が阿修羅を優しく撫でる。
「夜叉ちゃんは仕事が好きだし、やり甲斐もあって生き生きと働いていたし、僕は子育てに生き甲斐を感じていて上手くいっていると思っていたんだ。でもそれは僕ら2人の自己満足だった。あっくんの気持ちを考えていなかったんだよ。ごめんね」
豆柴な阿修羅が天の顎をペロリと舐める。
「帰らない夜叉ちゃんに我慢の限界をむかえたあっくんが家を飛び出してイザナギ様の幽宮で暴れまわってね。神界を揺るがす……大問題…」
遠くを見つめる天。
もぞもぞと落ち着きのない阿修羅。
「そんな…」
「ひどいな!」
「ブラック企業大賞間違いなしじゃない!」
風花一家が夜叉の勤務状況に憤る。
「仕事大好きな夜叉ちゃんが、自ら自分を忙しくしていたから…」
天が俯く。職場環境のせいではないらしい。
「飛び出していったあっくんを探している間に怒ったイザナギ様があっくんを精霊に封じて精霊界に送り込んでしまったんだ。
僕がイザナギ様のところにたどり着いた頃には手遅れで…。
怒りを鎮めたイザナギ様と話しをしたんだけど、イザナギ様にもあっくんを戻してもらうことが出来なくて、それなら僕が探しに行くと言ったんだけど、どれだけ探しても精霊界では見つけられなくて…人間界を探すとなると神のままでは人間界に降りる許可が降りなくてね。半精霊になって手続きを踏んで人間界に探しに来たんだ。
事情が明らかになったらイザナギ様が世間から叩かれてね。やり過ぎだとか短気だとか。冷静になったイザナギ様もやり過ぎてしまって、あっくんに悪いことしたって言ってた。僕が人間界に降りるためにずいぶん協力してくれたんだ」
「会えて良かったわねえ、阿修羅ちゃん」
「大変でしたねえ」
レミと誠一が天に同情的だ。
「天さんは阿修羅を連れ戻しに来たのですよね?」
風花が不安そうだ。
「…それは出来ないんだよ。当初の契約通りあっくんが善行を積んでゆけば100年くらいで神に戻れるけど、それまでは……」
天がしゅんとする。
「じゃ、じゃあそれまでは今まで通り?」
「うん、風花さんたちには申し訳ないけど…」
「いっ、いいえ!申し訳ないなんて、そんな!」
阿修羅とこれまで通り過ごせると分かり、ほっとする風花。
「風花!」
阿修羅が天の腕の中からポーンと飛び出して風花に抱きつく。
「俺、風花と一緒にいてもいい?」
「もちろんよ!」
風花が阿修羅に頬をすり寄せる。
――― 阿修羅のやつ! どさくさに紛れて風花にスリスリし過ぎだ!
相変わらずハンニバルの目には、半裸なイケメン神が風花を抱きしめているように見えるらしい。




