第44話 はぐれ精霊は欲望に忠実
「狩野ちゃんは軍隊勤務が希望ということで間違い無いかな?」
「うん、バルや勘助と一緒がいい♡」
「僕やハンニバルと同じ部隊に配属される可能性は低いよ」
ハンニバルは貴族階級出身なのでマナーも身についている上に見た目もよく、腕っ節も確かなのでロイヤルファミリーなどの警護が主な業務だ。
王家の直轄地で暴れ回った元お尋ね者が同じ部隊に配属される見込みは低い。
「……」
「希望を変更する?」
目をつぶって、これまでに会った王国軍メンバーを思い浮かべる。
*******
昨日ハンニバルたちが帰宅した後、帰る場所のない狩野は割り当てられた宿舎で機嫌良く休んでいた。
宿舎や食堂などの施設を一通り案内され、意外と快適そうだったし、紹介されたワイルドなメンズは狩野のタイプばかりだった。機嫌が悪くなる理由がない。
すっかり寛いでいるところに警報が鳴った。
「何よ、この音!」
狩野が部屋を飛び出すと、他の隊員たちも部屋から飛び出し、外に向かっていた。
狩野も一緒に向かうと責任者らしき人物が大声で話し出す。
「王宮の西にある採掘場跡地にB難易度のモンスターが5体出現! 全員で討伐に向かう、絶対に住宅街へ侵入させるな! 民間人の負傷者ゼロを目指すぞ!」
周りの隊員と共にドラゴンの背に飛び乗ったが、慣れないことで身体が不安定だ。これはマズいと焦っていると、暖かい筋肉に包まれた。
「大丈夫か?」
「…はい」
イケメンに包まれるように守られていた。
「あと30秒で到着だ!」
30秒後、狩野を包んでいた筋肉はドラゴンから飛び降りて討伐に向かった。他の隊員と共に狩野も現場に向かう。
── やだw イケメンたちが筋肉を踊らせてるうww
目の保養だった。
「危ないぞ、下がっていろ!」
ぽーっと見惚れていると別のイケメン達に庇われた。
── やだw あたし守られてるw デュフフww
自分の世界に浸っていると視界の端で、とあるイケメンがオーガ型の魔物の猛攻に押されていた。
「ちょっと! イケメンに何するのよ!」
狩野を守っていた隊員たちを押し除けてオーガの足を掴んで持ち上げて、びったん!びったん!地面に叩きつけた。
思わぬ攻撃に対応出来なかったオーガが地面でピクピクと痙攣していると、近くにいた隊員がとどめを刺した。
ちょうど、そのタイミングで他の4体も討伐され、任務完了だった。
その一件で隊員たちと打ち解け、帰りはちょっとした逆ハーだった。
わかりやすく言うと、とても満足だった。
*******
「軍隊勤務の希望を変更する?」
昨日は天国だった。好みのイケメンが大勢いた。どこに配属されても“当たり”だろう。
「軍隊勤務が希望よ♡」
―――その時、多くの軍人が悪寒に震えた。
「狩野ちゃんの能力からすると遠征が多い討伐部隊に配属されると思うよ。昨日の活躍は見事だったからね。精霊だから人間ほど気にならないと思うけど、遠征中はろくにお風呂に入れないしトイレもその辺で済ませることになる。夜は夜で部隊の仲間たちと一緒に野宿で雑魚寝。女の子にはオススメしにくい職場だよ」
目をつぶって、これまでに会ったイケメン軍人たちと身を寄せ合って眠る(実際にはただの野宿)場面を思い浮かべる狩野。
「遠征部隊を熱烈に希望するわ♡」
―――その日、遠征部隊のメンバーたちが次々と悪寒に倒れ、医務室に運ばれた。




