第39話 私、可愛い女の子だもん!
――― いつも通りに早起きし、インベントリに収納してある朝食をたいらげてから1人で出掛けた阿修羅。
「この辺りは気温が低いな! まあ俺は暑くても寒くても平気だから関係ないけど」
北部山脈地方の砦周辺を気ままに散策する阿修羅。
「この辺りはリンゴの木が多いな!買って帰ったらアップルパイを作ってくれるかな」
気配察知スキルで認識した近くの朝市に向かう。
――― ここは海も近いから海産物も多いのな! お、肉もある!
「おっちゃん! これなんの肉?」
ふわりと店主の目の高さに浮かんで元気よく質問する。
「おや、精霊かい?1人?」
「そう! まだみんな寝てるから俺1人で来た!」
「ハハハ自由なんだね。これはラム肉、この辺りでは良く食べるんだよ。」
「うち、俺を入れて10人家族なんだけど」
風花の両親と、その精霊で4人。風花と自分で2人。ハンニバルとカデンで2人。ハミルカルとオロチで2人。全部で10人と計算したようだ。
「俺を入れて3人が大食い! どのくらい買ったらいいかな!」
「うーん料理方法にもよるけど、おじさん犬好きだからサービスしちゃおうかな。10人の1食分でこれくらい」
「じゃ、その3倍買う!」
「いいのかい?」
「うん、俺けっこう稼いでいるから!」
ご機嫌で精算を済ませる。
ラム肉の他、リンゴと鮭と牡蠣も買ってホクホク顔で朝市を後にする。
――― なんだろ?
阿修羅の気配察知スキルが騒ぎを捉えた。
ざわざわとした騒ぎの中心で風花より少し年下に見える少女が何かを訴えているようだ。
「ひどい! 寄ってたかって私のことをゴリラ扱いするなんて!」
「いや、実際にあんたが役所の塀を破壊したじゃろう」
「ちょっとぶつかっただけだもん!」
白い壁がボコッと崩れていた。ちょっとではない。
「その怪力で出歩いては危ないぞ」
「私は普通の女の子だもん! ちょっと可愛いだけだもん!」
「確かにちょっと可愛いが怪力にも程がある。その調子で自由に振舞っては周囲に危険が及ぶ」
「モノを破壊するだけならいいが人に怪我をさせる可能性はないのか?」
周りを取り囲んだ大人たちが困り顔だ。
「お前シマシマの尻尾が出てるぞ」
自称可愛い女の子に向かって阿修羅が言い放つと、自称可愛い女の子の腰辺りに視線が集中する。
「アライグマの尻尾みたいだな」
「シマシマでふかふかで可愛い尻尾だな」
困りつつデレる大人たち。
「デレてる場合じゃないだろ! お前、精霊だな?契約している人間はどこだ?」
自分を棚に上げて尻尾娘を問い詰める。
「あ、あんたこそ変なワンちゃんじゃない!」
「俺のツレはまだ砦で寝てる。俺は朝市で大人買いしたところだ。お前のツレは?」
「わ、私は……普通の可愛い女の子だもん!」
「お前、雄だろ!」
「ワンちゃんのバカ! それは言っちゃダメなんだから!」
阿修羅の指摘に涙目の尻尾娘。
「姿を偽って人間に迷惑かけようとしてるんじゃなくて、マジなやつか…」
尻尾娘がこくんと頷く。
「ごめん、俺が悪かった」
「ワンちゃん……」
神である阿修羅の目を欺く事は出来ない。
しかし神も本当のことだから何でも言って良いわけではない。考え無しに指摘し、尻尾娘を傷つけてしまった。
『俺が間違ってた、こいつは雌な!』と周囲に言い聞かせる阿修羅と、肯くばかりの大人たち。
「それで話は戻るけど、お前のツレは?」
「……。」
「ツレと喧嘩したのか?」
「……。」
「契約した人間は?」
「……いない」
「はぐれ精霊か」
困ったなという雰囲気が漂う。
「俺、砦に帰るところだからお前も来いよ! そのまま彷徨ってたら退治されるぞ。」
「……。」
「壁、壊したしな。他にもいろいろ壊したんじゃないのか?」
尻尾娘が震えながら視線を泳がせる。
間違いなくやらかしている。
「一緒に来たら悪い事にはならないぞ、たぶんだけど。勘助が考えてくれると思う。この間の“はぐれ”はハミルカルの家で可愛がられてるし」
「ちょっと待って! 僕はこの街の町長なんだけど、ハミルカルってあのハミルカル将軍?」
「たぶんそのハミルカルだな!」
「お嬢さん、このワンちゃんを信じても大丈夫だと思うよ。ねえ、僕も同行してもいいかな?」
「いいぜ!」
尻尾娘の返事を待たず、勝手に決まった。
「ほら! 行くぜ」
阿修羅と町長に促され、尻尾娘も歩き出した。




