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第30話 はじめてのダンジョン

――― 昨夜はハミルカル将軍がオロチと一緒に風花一家を訪ねてきた。いつものように大量の肉を持って。


「昨夜の肉、美味かったな!」

「今日の朝食も弁当も昨夜の残りで良かったのか?」

「ハミルカルの肉は美味いから! それに俺たちの都合で今日はいつもより早起きじゃん」

今日は早く出るからお弁当は用意しなくて良いと、昨夜の夕食時に今日の朝食とお弁当用に多めに肉を焼いてもらいインベントリに収納しておいたのだ。


昨日の夕食、今日の朝食、昼の弁当、すべてポークソテーだ。

同じメニューが続いても気にせず尻尾を振りながら機嫌良く歩く阿修羅は贅沢や我儘を言わない気の良い神だ。


今日は朝が早いので勝手に出掛けるから寝てて欲しいと伝えたのに、父の誠一が「野菜も食べなさい」と、スープジャーを渡して見送ってくれた。朝ごはんも作ってくれた。


なんだかんだで風花もレミも誠一も阿修羅を家族として大切にしてくれている。阿修羅も両親と風花のことが大好きだ。


「俺、この国を守るのが天職だと思う!」


「それは、ありがたいな」

後ろで勘助の声がした。


「よう!」

「おはよう、阿修羅殿」

「早くからすまないな」

「なんのなんの、僕も楽しみにしていたんだよ」


「まずはレベル3だね。昨日も話したけどダンジョンのレベル1は初心者向け。冒険者登録したばかりのルーキーが手こずりながらも倒せるレベル」

「スライムしか出ないんだろ!」

「その通り。鉱物ダンジョンとか植物ダンジョンとか、ダンジョンによってモンスターがドロップするアイテムが変わるんだけど、大抵のルーキー向けダンジョンは植物ダンジョンだね。見晴らしの良い草原タイプのダンジョンで出現する魔物は主にスライム、野菜やフルーツ、薬草なんかをドロップするよ」


「レベル2は虫と爬虫類がでるんだろ!」

「そう、カタパルトとかリザード系とかスネーク系の魔物ね。ドロップ品は薬草やポーションなんかの消耗品が多いかな。ある程度の戦闘経験がないと危険だ」

「虫も爬虫類も色んな種類がいて、いろんな攻撃してくるんだろ?」

「その通り。攻撃力は高くないから昏睡中に袋叩きにでもされない限り死なない。一定のステータスがあれば入場許可が出る。毒や麻痺には注意ね」


「レベル3で人型の魔物が出るんだろ?」

「そう。ゴブリンやコボルト、オークが出る。人型を倒すのは覚悟がいるよ」

「俺は平気!」

「頼もしいよ」

「さっそく入ろうぜ!」



阿修羅を先頭にダンジョンを進む3人。先頭は阿修羅だ。尻尾を振りながら進む姿はお散歩を張り切る愛犬のようだ。


「なあ、右でいいだろ?」

二股の分かれ道で阿修羅が振り返る。

「どちらに進んでも次の階層に行けるけど、なぜ右なんだい?」

「左にはモンスターがいないから!」

勘助の質問に笑顔で答える阿修羅。


「右にはいるのかい?」

「5分後に3体とエンカウントする! 全部俺が倒してもいい?」

「ああ、大丈夫だと思うけど気をつけて」

「任せろ!」


答えるやいなや駆け出した阿修羅をハンニバルと勘助が追いかける。

脱走した飼い犬を追いかける飼い主のようだ。


「ハンニバル! 勘助!」

2人が阿修羅に追いつくと、魔物は粒子になって消えた後で、阿修羅の目線の高さにドロップ品が浮かんでいた。


「あの距離で気配察知が働くとはさすがだな」

実際には、もっと遠くまで把握している阿修羅だった。


「どんどん倒しながら進んでいいだろ?」

「ああ、ここは1フロアが比較的狭くて3階までしか無いから」

「よっしゃ!」

答えるやいなや駆け出した阿修羅をハンニバルと勘助が追いかけ、1時間後には3階のボスを倒して外に帰還していた。もちろんノーダメージだ。


「次、行こうぜ!」


レベル4もサクサクと攻略し、午前9時にはレベル5ダンジョンの前にいた。


「いよいよレベル5だね。さっきのレベル4より手ごたえを感じると思うけど……」

「俺の敵じゃないぜ!」

「だよねー」


――― 阿修羅の敵では無かった。


サクサクと攻略を進め、夕方にはボスを倒し、解散した。



「ただいまー!」

阿修羅が帰宅するとお店の方が騒がしかった。

「なんだろな?」

「行ってみるか?」

お店に行く前に浄化魔法で自分たちを洗浄した。これでダンジョンのホコリも綺麗さっぱりだ。


「順番になります、並んでください!」

「はい、どうぞ。落とさないように気をつけてね」

風花とカデンが大忙しだった。

行列には、ハンニバルの部下もいた。


「あ、隊長!」

「ホットドッグ、美味かったっす!」

「俺たち全員、プレーンとチーズ両方買っちゃいましたよ!」

美味うまかったー!」


「もう一度並んでるのか?」

かなりボリュームがあるので、さすがに食べ過ぎを心配するハンニバル。

「いえいえ、ホットドッグは美味いけど腹一杯ですよ!」

「今度はソフトクリームですってば!」


「はい、どうぞ」

「ありがとう、カデンちゃん」

「……うっまーい!」

「クリーミー!」

「じゃあ隊長、また明日!」


美味い美味いとワイワイしながら部下たちが帰り、一息着いたのでみんなで閉店作業だ。



「おかえり、阿修羅」

「ただいま風花!」

阿修羅がぴょこんと風花に抱きつく。


「ダンジョンはどうだった?」

「楽勝だった!」

「そっか、楽しかった?」

「楽しかった! また行きたい」


「カデンも繁盛していたようだな」

「うん! バルの部下の人たちが来てくれてね。その人たちが美味おいしそうに食べてるのを見た人が買いに来てくれるの!」

「そうか、良かったな」


「おかげで今日はパンや焼き菓子の売り上げも良かったのよ。おかえり阿修羅ちゃん」

「ただいま母ちゃん!」

「阿修羅の食べっぷりが美味おいしそうだったから我慢できなかったと言っていたぞ」

「ただいま父ちゃん!」

「おかえり阿修羅、今日の夕飯はポークビーンズだよ」


誠一のポークビーンズは香辛料がたっぷりと効いていて美味しかった。

美味うまーい!」

「ああ…美味おいしい……」

美味うま美味うまいと大騒ぎの阿修羅と、しみじみと美味おいしさを味わうハンニバル。この2人で大鍋半分以上を食べた。


「父ちゃん!」

食後、ぴょこんと誠一に飛びつく阿修羅。

「スープ、サンキューな! 美味うまかった」

「ああ、綺麗に食べてくれて嬉しいよ」

「これ、お土産!」

ドサドサとインベントリから取り出したのは、今日のドロップ品の肉類全部だった。剣や盾などのドロップ品は食べられないので興味がない。インベントリに死蔵だ。


「すごいな。これはオーク肉で、こっちはワイルドボア、コカトリスにホーンラビット。どれも質が良い」

「これでご飯作って!」

「ああ、これ全部いいのかい? 売ったらいい値段になるよ」

「いい! みんなで食べたいから売らない! 全部、美味おいしく食べたい。ハミルカルも呼んで皆んなでペロリだぜ」


ダンジョンで暴れて美味おいしいご飯を食べてご機嫌な1日だった。

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