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第29話 ワシらのランチもレベルアップ

――― 阿修羅とハンニバルが、お弁当を持って出勤した。


「なあ、今日もデスクワークか?」

「今日はない。週に一度まとめて処理しているが、午前中に終わる量だ。例外は遠征がある場合で、出かける前と戻った後に大量のデスクワークが発生する。1日中デスクワークになるか、それ以上かかるな」


「じゃあ今日はダンジョンか?」

ワクワクと尻尾を振る阿修羅。


「ああ、早速ダンジョンの話を聞きに行こう。勘助! いるか?」

軍師の執務室をノックする。


「早いなハンニバル、そちらが戦神の阿修羅殿か。僕は軍師の勘助だよ、よろしく。この子は風の精霊のウェンディ」

肩に乗る人型精霊を紹介する。


「うす! ダンジョン行こうぜ!」


「ははは、気が早いな! ダンジョンにもいろいろあるんだ。まずは説明を聞いてくれ。その後で申請になるから今日すぐに潜れる訳じゃない」


「えぇー!」

すぐにもダンジョンに向かうつもりだった阿修羅は不満そうだ。ぐるぐる回っていた尻尾が勢いをなくす。


「堪えて欲しい。なにしろ阿修羅殿は戦神だ。阿修羅殿と同時に一般の冒険者が同じダンジョンに潜っていると危険に巻き込まれる可能性があるので、阿修羅殿が潜る時は他の人間を全員退避させたいんだ」


「そういうことなら仕方ないな!」

「理解があって助かるよ」

ありがとうと言いながら王都の地図を広げる勘助。


「これは王都の地図。いま僕らがいるのはここ。赤い三角の印がダンジョン」

「結構たくさんあるんだな!」

阿修羅の尻尾が嬉しそうに揺れる。


「三角の中の数字は難易度ね。1が最もレベルが低くて初心者用。数字が大きくなるにつれて難易度が上がる。王都周辺だと最強でレベル5」

「レベル1が多いのな」

「うん、王都に限らず都市の近くはレベルの低いダンジョンしかないよ。あまり危険なダンジョンの近くに住むことは禁じられているんだ。もしもの時のために高難易度のダンジョンの近くには砦が築かれているし、兵站のための街道も整備されているけどね」

「なるほどな!」


「阿修羅殿は好みの戦闘タイプってある?火魔法が得意な魔物より氷魔法が得意な魔物の方が戦いやすいとか。そもそも魔法タイプは苦手とか」

「特に苦手はない!得意なのは力比べだ」

神だからな! と得意げに胸を反らす。


「うーん…この辺りだと、レベル3からスタートしてみてもらうのがいいかなあ。」

「阿修羅には低すぎないか?」

「うん、そうなんだけどね。ここを見て」

勘助が王都郊外を指し示す。


「王都から近い順にレベル3、レベル4、レベル5が固まっているな」

「うん、まとめて冒険者を退避させるから、レベル3→レベル4→レベル5の順に試してみて欲しいんだ。バルだけじゃなくて僕も同行するので、阿修羅殿が物足りなさそうな様子を見て、次に潜るダンジョンを提案するよ」

「サンキュー!」


「それにレベル3→レベル4→レベル5の順に試してみたら、1レベルごとに、どのくらい難易度が上がるか阿修羅殿も肌感覚で分かるだろう?」

「俺が希望を言ってもいいのか?」

「うん、でも完全に満足してもらえるレベルのダンジョンは存在しないと思うよ」

「人間用だもんな!」

「そういうこと。悪いね」

「いいってことよ」


「おっと、そろそろ昼だね。午後は自由に過ごしてくれ。明日は朝が早いから早めに帰って休むことを勧めるよ」

「サンキュー! また明日の朝な!」

「ああ、よろしく」


「勘助って良いやつだな!」

「ああ、俺とは同期の入隊なんだ。っと、行き先は食堂でいいのか? 俺たち2人とも弁当を用意してもらったので、どこか景色の良い所で食べるか?」

「食堂がいい! みんなでワイワイ食べるのが楽しいんだぜ」


「阿修羅殿!」

「阿修羅殿も昼ですか?」

「よろしければお取りしましょうか?」

阿修羅を見つけたパリピ3人組が声をかける。

女性にも動物にも優しい。モテるパリピはハンニバルと違う。


「サンキュー! でも今日はいいんだ!」

「食べないの?」

「今日はお弁当があるんだぜ!」


――― ドッグフードかな?


ボフン!

阿修羅がインベントリから重箱と水筒を取り出した。

「ハンニバル! 俺の水入れに水筒のお水入れて! スープジャーの蓋も開けて!」


ハンニバルが水を注ぎ、重箱の蓋を外してやると周囲から歓声が上がる。

ホカホカと湯気をたてるホットドッグにコールスロー、デザートにイチゴが詰められていた。


「いただきまーす!」

美味しそうに食べる阿修羅。ホットドッグはプレーンとチーズが1つずつ入っている。

みょーん! とチーズが伸びる様子に兵士たちの喉が鳴る。


「ま、まあ阿修羅殿は神だからな。」

「俺たちには食堂があるからな!」

「この量、外で食べたらかなりの料金になるぜ」

「これが無料って、ありがたいな!」

一般兵士が強がりながら食事を始める。


「阿修羅くんもお弁当組だったの?」

「僕らもお弁当なんだよ」

「彼女の手作り弁当」

パリピ3人組は恋人の手作り弁当だった。


その他の隊員たちの悔しそうな視線をものともせずにハートが散りばめられたお弁当を広げるパリピ3人組。彼女が変わるたびにお弁当箱が変わるため、パリピ3人組の恋のサイクルは周囲に丸わかりだった。もちろん予想通り恋人のサイクルは短い。



その他の隊員たちがやけ食いのように食堂のメニューをモリモリと食べる中、モテない仲間であるはずのハンニバルがインベントリから、阿修羅と同じ弁当を取り出して食べ始めた。

モテない組代表であるハンニバルの裏切りに食堂が騒然となる。


「ズルいぞ! ハンニバル」

「父上…。」

「ワシも風花ちゃんのご飯がいい!」

マッチョなイケオジが駄々をこねる。


「食堂の予算を上げて貰えれば解決ですね。この食堂の料理人たちは皆、向上心があって研究熱心。それなりの材料や設備、人手があれば、もっと美味しいものを提供できますよ。」


「それは……そういうモノに予算がおりにくいって知ってるくせに!」

イケオジ涙目。


「阿修羅と俺は今後も弁当です」

「やめて! ワシらのヤル気が削がれちゃうから!」

「予算の獲得、頑張ってください」



――― 息子が冷たい。


しかし部隊の士気が急激に落ちたため、前例のないスピードで予算がおりた。



・ 兵士たちの士気を下げて−マイナス2,000ポイント

・ 食堂の環境改善に一役買って+プラス500ポイント



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