第20話 もう悪いことしないにゃ!
「開店準備しようか」
「うん」
ハンニバルと子猫を見送り、風花と阿修羅とカデンが店の掃除を始める。
風花とお揃いのエプロンと三角巾を身に付けたカデンは可愛らしく、常連客からも評判だ。今日も繁盛するだろう。
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ハンニバルの父であり、上司である将軍の前に差し出された子猫。
「その猫が先月、討伐した西のオロチの成れの果てだと?」
「この猫は、そう主張しています」
「……。」
無言で睨み返す子猫
「神官の皆さんに来ていただこう」
――― 神官たちにあれこれ調べられた結果、確かに普通の猫では無かった。
「普通の猫でないことは確かですが、特にこれといった力もないようですね。討伐されたからでしょう」
「危険はないのか?」
「現在のところは、ほとんど何の力も無いようです」
将軍の問いに答える神官たち。
本当に力を失っているようだ。
「ですが再び力を蓄えた時、討伐されたことを恨んで何をするか分かりません。今のうちに殺ってしまいましょう」
スラっとハンニバルが短剣を鞘から抜く。
「お前…こんなに小さな猫ちゃんを前に、
気持ちがぐらついたりしないの?」
「父さんこそ、いつもなら躊躇わずに首を折っているはずですが?」
将軍の手の中でカタカタと子猫が震える。
「確かに討伐されたことを恨んではいるようですね。」
…ガクブル
冷静な神官の言葉に悲しそうな顔を向ける将軍とビクついて震える子猫。
「では」
ハンニバルの短剣がキラりと光る。
「待て! 待て! 待て!」
なぜ止めるのか? 不満を露わにするハンニバル。
「神官の皆さんに聞きたい。この猫ちゃんが再び巨大な魔物になって、樵や、山越えの商人たちを襲うようになるには、どのくらいかかる?」
「数百年はかかりますね」
「ここまで力を失っては蛇の姿を取れるようになるにも数年はかかるでしょう」
「しかし見逃すのはやめた方が良いでしょう」
「後の世代に面倒を残すだけです」
「神官たちがドライ過ぎるぞ!」
1人も味方の居ないことに涙目の将軍。
「大きくなっても尻尾で人間を玩具にして虐めたりしないって約束するから殺さないで欲しいにゃー!」
将軍の手の中でガクブルと震えていた子猫のオロチの身体が光を放つ。
「精霊の誓い……」
「成立しちゃいましたね……。」
「待ってください。誓いが成立したのは、尻尾で人間を玩具にして虐めたりしないという一点だけです。あらゆる方法で人間に害を為さず、自然を破壊しないとは言っていません」
神官たちが再び殺気をはなつ。
「人間を害さないし自然も破壊しないにゃ!」
子猫の身体がペカーと光を放つ。
「人間を襲う魔物は退治しても良いのですよ」
神官たちが怖い顔で迫る。
「悪い魔物は退治するにゃー!」
子猫の身体がペカー!と光った。
「人間以外の動物にも優しく!」
「動物にも優しくするにゃ!」
ペカー!
「精霊の誓い……」
「…成立しちゃいましたね…」
「…オロチって魔物じゃなくて、はぐれ精霊だったのですね…」
「……。」
「見逃してよろしいのではないでしょうか」
「良かったな〜、オロチちゃ〜ん」
デレ顔で子猫に頬ずりする将軍をハンニバルと神官たちが冷静に眺めていた。




