91.祐樹と朱里の軌跡 / 新しい仲間
「――――という感じの旅でした」
「大変だったんだな」
「そんな苦労をしていたなんて・・・」
西城祐樹さん・松本朱里さんと合流を果たした私達は、お互い自己紹介した後、食事を取りながら話はじめた。
もちろんクローディアさんとアナさんには席を外して貰った。
彼らは王都を出奔して早々に犯罪に巻き込まれ、所持金のほとんど失ってしまった。
その上、運の悪いことに朱里がデボートの街の手前でスラヴ風邪に感染して倒れた。
デボートの街では感染拡大を防ぐために朱里は街には入れて貰えず、街から少し離れた場所で野宿を余儀なくされた。
朱里の具合はどんどん悪くなり、祐樹はヒモト刀を安くで売り払い、そのなけなしのお金で薬と食料を買い与え、朱里の具合は快方に向かった。
しかし今度は祐樹がスラヴ風邪に感染してしまい、残ったお金を全て祐樹の治療と食費に使い切ってしまった。
かろうじて回復はした祐樹だったが、再び所持金は底をつき、暫く河原で魚を取って暮らしていたが、このままでは浮かぶ事は絶対にできないと思い、通報覚悟でデボートの街の総合ギルドに冒険者登録しに行った。
意外にも冒険者登録はすんなり終わったが、武器もなく病みあがりで栄養状態も悪く、着ている服もすでにボロ着と化していた二人には、実技試験を受けることなど叶うはずもなく、無級冒険者として登録した。
仕事は無級では実入りの良い収入は無かったが、それでも草むしりや清掃や害虫駆除といった仕事を続け生活を立て直した。
宿の方は宿代を惜しんで牧草小屋に安く出仮住まい。
時々ミーメ(ギルド受付嬢)の計らいでギルド建物に寝泊まりもした。
その後、召喚勇者パーティーと取り巻きの騎士団が街を訪れる噂を聞きつけデボートの街を出る事を考える。
考えた末、開発中で労働者を大量募集しているペルミに向かうことにしたが、出発直前に、オスカー・ブラウンに声を掛けられた。
オスカーは黒髪の二人を見て、もしや召喚された日本人ではないかと思い、声をかけたようだ。
ラミア神殿のことはその時にオスカーから聞いた。
アース世界の事を語り合った後、二人はオスカーと別れペルミに向かった。
ペルミの開発地で日雇いの仕事をし、十分な旅費を稼いだ後、再び東に向かって旅を続けた。
幾つかの街や村を通り、途中で窃盗団に襲われもしながら、命からがらリヴニの街に到着。
早速、冒険者ギルドで無級の仕事を求めたが、あいにく無級の仕事は無かった。
その代わり、新に発見されたラミア神殿調査員募集の案内を見つけ、近くにラミア神殿があることを知る。
当然無級では募集要件には合わなかったが、それでも受付に頼むも、そもそもそのボロボロの身なりでは、どの仕事も任せることは出来ないと言われ、あえなく撃沈。
やむなく単独で入ったところで、あえなくヒドラの餌食になってしまい今に至る・・・ということらしい。
「まさかユーシスの言った通りだったとはねぇ・・・」
「俺もまさか俺の言った通りだとは思わなかったよ」
「何がですか?」
「ヒモト刀を失った理由。ユーシスが推理した通りだったのよ。祐樹さん達がスラグ風邪の治療費に充てたんじゃないかって」
「えっと、その“さん”付けは出来れば止めてもらえないかな。呼び捨てかせめて“君”付けでお願いします」
「じゃあお互い呼び捨てで。アリサもいいだろ?」
「私はかまわないわよ。むしろ親しみやすいからその方がいいかな」
祐樹と朱里の性格が良く、歳が近いこともあって私達はすぐ打ち解けた。
「そうだ、俺アレを取って来るよ」
「アレ?ああアレね」
「「アレとは?」」
「まあ楽しみに待ってて」
その時ユーシスと入れ違いにクローディアさんが入って来た。
「そろそろお話は一段落ついた?頼まれてこれ持って来たんだけど」
そう言って渡したのはスッタフ用の作業服だった。
白基調の清潔感があり、割りと良い生地を使っている。
「「エルフ!?」」
祐樹と朱里が声を揃えて驚いた。
たしかにクローディアさんの美貌はエルフと間違われても仕方がないレベルだ。
ユーシスも思ったくらいだし。
「違う違う、耳が尖ってないでしょ?」
そう言ってクローディアさんは髪をかき上げる。
「すみません、あまりに凄い美人だったもので・・」
祐樹が謝る姿を見て、私は既視感を感じた。
うん、やはり思う事は皆同じみたい。
「あの、間違っていたらすみません。もしかしてアザミー・ノアさんでは?」
唐突に朱里が口に出した名前にクローディアさんが一瞬ビクッと反応する。
「―― どうしてその名前を?」
「やっぱり!元フェンシング世界チャンピオンのアザミー・ノア選手!私、子供の頃大ファンだったんです!」
「あなた、地球からの召喚者?」
「はい!松本朱里といいます!日本人です!」
思わぬ所でクローディアさんの過去が暴露された。
どうやら彼女は元の世界では相当な有名人だったらしい。
「ごめんなさい、その名前はもう好きじゃないの。クローディアと呼んでくれる?」
「え、あ・・・はい、ごめんなさい・・・」
何か思い当たる事があるのか朱里はシュンと大人しくなってしまった。
そう言えば、クローディアさんは元の世界に戻る事には興味が無いみたいなことを言っていた。
よほどの込み入った事情があるのかもしれない。
「気にしないで、こちらの事情だから。じゃあ服は確かに渡したからね」
そう言ってクローディアさんは天幕から出て行ってしまった。
「この服貰ってもいいの?」
「どうぞどうぞ」
そう言ってから私は天幕の外に出た。
祐樹と朱里は天幕の中で一緒に着替えている。
(ふーん、やっぱり同じ室内で一緒に着替えるくらいの仲なんだ)
暫くしてから天幕に入り開口一番 ――――
「その服、中々似合ってるわ。ところで二人は付き合ってるのよね?」
ズバリと聞いてみた。
二人はいきなりの質問にアワアワするも
「いいえ、付き合っていません!」
―――― と、言い切った。
「???」
異世界人はよくわからない。
割と真剣にそう思った。
「お待たせ、持ってきたぞ」
ユーシスが帰ってきた。
手に持っているモノを祐樹を朱里に渡す。
「これ、俺達の刀!」
「どうして・・もう二度と手に戻らないと思ってたのに・・・」
さすがに二人は大きく驚いた。
なぜこの刀を私達が持っているのか不思議でならないようだ。
「ペルミで見つけてさ、刀の証明書みたら前所有者に二人の名前があったんで買っておいたんだ」
「これ、ミッチーからの・・俺の親友から貰った大切な刀なんだ」
「まさかこの刀を私達に?」
「どうぞ、最初からそのツモリで買っていたから遠慮はしないで」
「買い戻した時、少し錆びが来てたから研ぎ直したけど大丈夫だよな?」
二人は涙を流して喜んだ。
親友からの贈り物を手放した事に多少なりとも罪悪感があったのかもしれない。
「それで割と真剣な事を聞きたいんだけどいいかな?」
ユーシスが真顔で祐樹と朱里に問いかける。
彼らの答えによっては私達の旅に変化が訪れるかもしれない。
「二人はこれから何処に向かうつもりなんだ?」
一瞬彼らは顔を見合わせてから答えた。
「「逃亡者の都、ダバスへ!」」
やはり目的地はダバス。
方角といい、彼らの置かれている立場といい、そうじゃないかと思っていたけど・・・
「奇遇ね、私達もダバスに向かうのよ。良かったら一緒にどうかな?」
「「いいの!?」」
「いいも悪いも、道夫さんの親友を無視して旅を続けるなんてあり得ないわ」
「「???」」
「アリサは道夫君の信奉者なんだよ」
「「???????」」
彼らは割りとガチで混乱した。
その後、いろいろ話し合い4人で旅することが決まった。
旅にあたってのルールなども決めたりした。
「まあ、これから一つ宜しく!」
「こちらこそ頼む!」
「朱里、仲良くしようね!」
「ありがとうアリサ!」
まだ遠いダバスへの道程。
その途中で私達は新しい仲間を迎え入れ旅を続けるのだった。




