89.討伐完了
ラミア神殿の前でクローディアは一人佇んでいたが、キャッキャと楽しそうな声に気が付きその方を向く。
まるで周りが見えなくなったかのような、イチャイチャとこちらに向かって来る幸せそうなユーシスとアリサを見ながらクローディアは “チクン”と 胸が痛むのを感じた。
「ホント、真正勇者の魅了てのはやっかいね」
毒づきつつも彼女は切なそうにユーシスを眺める。
彼女なりにユーシスの勇者の魅了を分析してみたが、どうやら召喚勇者の魅了と違って、真正勇者の魅了は解除後も想いが残るようだ。
植え付けられたユーシスへの偽りの想いは、やがて本物の想いにすり替わり、解除後も想いは残ったままになる。
「まるで失恋した女学生のような気持ちね、ははは・・・」
彼女の乾いた笑いは、響くことなく砂風の音に混じり掻き消されていった。
魅了中の残念で軽薄な美女クローディアと違い、今の彼女は理知的で冷静な出来る美女のクローディアだ。
正確に自分自身を分析し、気持ちを隠して理知的に行動できる。
それでも胸の中の切なさは中々に彼女の心を削り取った。
「ま、時間が経てば解決するでしょ」
実際彼女はこの先1か月ほどでユーシスへの切ない想いを完全に払拭していた。
彼の魅了下だったのはホンの数日、影響は小さい方だと言える。
ただ長期に渡ってユーシスに魅了され続けていれば、かなり厄介なことになったのは間違いない。
もしかしたら想いは死が解き放つまで残り続けたかもしれない。
「「お待たせしましたー」」
「遅い遅い、君達ちょっと人前でイチャイチャしすぎでしょ?」
「「えへへ~~」」
その後アナスタシアも合流し、4人は神殿地階に降りて行った。
ラミア神殿の地階は前述の通り、多くの石柱により天井部分が支えられている大ホールで、中央に何か儀式用のモニュメントがある。
ここを中心にレッサーラミアが4体確認されている。
上のヒドラは分からないが、レッサーラミアはラミア神殿の防衛システムの一部なのかもしれない。
ここよりアリサ視点―――
「レッサーラミアの皆様。
こちらはスラヴ王国 文化庁のアナスタシアと申します。
皆様と話し合いの用意があります。
武装を解除して投降して下さい。
猶予時間は5分です。
応答無き場合は戦闘の意思ありと判断して殲滅致します。
Όλοι στη Μικρή Λαμία.
Το όνομά μου είναι Αναστασία από τον Οργανισμό Πολιτιστικών Υποθέσεων στο Σλαβικό Βασίλειο.
Είμαστε έτοιμοι να συζητήσουμε.
Παρακαλώ αφοπλίστε και ελάτε εδώ.
Ο χρόνος χάριτος είναι 5 λεπτά.
Εάν δεν υπάρχει απάντηση, είναι αποφασισμένο ότι υπάρχει θέληση για μάχη και σκοτώνεται.
Σας ευχαριστούμε που διαβάσατε μέχρι αυτό το σημείο!
Με αγάπη από τον συγγραφέα. 」
アナさんが地下に降りてすぐメガホンを取り出し、暗闇に向かって標準語と古代語で注意勧告する。
「レッサーラミアには知性はほとんど無いのでは?」
「一応見た目は人間に近いので、マニュアルに法り注意勧告しなきゃ駄目なんですよ。それに万が一意思疎通が出来れば、この神殿の謎解きが一気に進むじゃないですか」
なるほど、御役所の事情なだけではないのね。
「あとユーシスさん、魅了だけはくれぐれも注意して下さいね」
「大丈夫です。なるべく目を見ないようにしますよ」
「ユーシスさん、ダメです、全然わかっていません。レッサーラミアは目もそうですが、胸でも魅了するんですよ!」
「え゛」
「正確には『相手の目を見ちゃダメなんだからオッパイを見るのは仕方がない』ってガン見している間にやられてしまうか、『オッパイを見ちゃダメだ!』ってシャイな童貞が目を逸らしてやられるんです」
「そんなアホな!」
「アホも何も第一独立小隊の皆さんは、胸のせいで全滅したようなものです。ほんと気を付けてください」
「(第一独立小隊の童貞率が高いという噂は本当だったらしいな)」
ユーシスが何か思案している・・・きっと対抗策が浮かばないんだわ。
確かに今回はユーシスには厳しいかもしれない。
レッサーラミアは下半身は蛇だけど上半身は絶世の美女、しかも巨乳ときている、
相手の顔を見てもダメ、胴体を見てもダメ、それでどうやって敵と戦えばいいのか。
いっそここで待機して貰った方がいいのかもしれないけど・・・
この後、私は本当にユーシスを置いてくるべきだったと激しく後悔することになる・・・
「5分過ぎたわ」
レッサーラミア達は予想通り呼びかけには応じなかった。
家の修理代の方はベヒーモス討伐ですでに賄えるはずだから、これ以上は戦いたくなかったのだけど仕方がない。
あと正直下半身が蛇とは言え上半身が人間というのは攻撃しづらい。
できれば呼びかけに応じて投降して欲しかった。
「アリサちゃん、またお願い」
クローディアさんの要請にコクリと頷く。
「聖光球体!」
白色光の明るい球体が複数個空に現れ周囲を照らす。
しかし多数の石柱のせいで影の部分がかなり多い。
天板への高さは6mくらいあるだろうか。
「奥に見えるあれがモニュメントですか?」
「そうです。もっとも正確には何なのかわからないけれど・・・」
「死角が多いわね、とりあえずあそこまで慎重に進みましょう・・」
クローディアさん、私、アナさん、ユーシスの順に進む。
ひんやりと動かない空気が気持ち悪い。
モニュメントまでかなり近づいてきた。
あのモニュメントをレッサーラミアが守っているのだとすれば、近づけば何らかの攻撃を仕掛けてくるはず。
――ふわっ
微妙に空気が動いたような気がした。
どうにも嫌な気配がする。
私達は歩くのを止めて警戒した。
「ユーシス、後ろ何かいない?」
「・・・・」
しかしユーシスの返事は無い。
「ちょっと、聞いてるの?ユーシ・・ス・・」
振り向いた私はギョッとして体が固まった。
ユーシスは黒髪ロングのレッサーラミアに巻きつかれ巨大な双丘に顔を埋めダランと力なく絶えていた。
フフフフフ・・・
レッサーラミアが勝ち誇った顔で笑ったあと、シャシャシャーとユーシスを抱きしめたまま石柱の影に消えて行った。
「いやーーーーーーー!ユーシスーーーーー!」
私は慌てて後を追った!
しかし石柱の影にはレッサーラミアもユーシスも姿はなかった。
「そんな・・・ユーシス!うわああああ!」
地階に私の絶叫がこだまし、その返答とばかりに
うふふふふふ・・・
あははははは・・・
と、レッサーラミアの淫靡な笑い声が帰って来た。
「リタイアするの早すぎ!」
クローディアさんが呆れたように言葉を吐く。
「アリサさん、残念だけどユーシスさんの貞操はもう・・」
ワザとらしく、くっ・・と拳を握りしめ歯を食いしばりながら首を左右に振るアナさん。
ねえ、もしかして二人とも楽しんでいませんか!?
「ふざけてる場合ですか!こうしている間にもユーシスが!ユーシスがぁ!」
「大丈夫よ、これくらい想定の内だから(最悪の想定だけど)」
「アリサさん、安心して下さい。レッサーラミアは捕まえた男をすぐ殺しはしませんから。ただこんなにアッサリと拉致されるとは思いもしませんでしたが」
それを聞いてとりあえずは安心・・・できるかー!
それでもユーシスは無事の可能性が高いことを聞いて少し落ち着きを取り戻す。
「じゃあ、なおさら早く助けにいかないと!」
「大丈夫です、ユーシスさんなら十中八九彼の方からやって来ますわ」
「そうなんですか?」
「キッチリと魅了されて敵の駒として現れることでしょう」
「レッサーラミアの魅了はそう強くないから、頭に強い衝撃を与えるか、気絶させてから起こせばすぐ解けるわ。だからアリサちゃんにユーシス君を任せるわね」
「またこのパターンですか!?」
はぁ、またユーシスを〆めなきゃならないのか・・・
ていうか、クローディアさん、さりげなく私に押し付けてません?
いや、いいんだけど。
あれ?そういえば十中八九ユーシスの方から来るって言ってたけど?
「すみません、十中八九来ると言ってますけど、万が一来なかった場合はどうなるんです?」
「・・・・」
「・・・・」
「なんで答えてくれないんです?」
「来ない場合・・・」
「最悪レッサーラミアの体内に新しい命が宿るかも・・・」
「いやあああああああああああああ!」
またしても私の絶唱が地階に響き渡った。
え、ちょっと待って、その場合レッサーラミアがユーシスの奥さんになって、ユーシス一家は家族仲良く暮らして、私は愛人ポジションに落ちちゃうとか!?
「落ち着いて、多分精を吸い尽くされて干物になるだけだから大丈夫ですよ」
「どの辺が大丈夫なんですか!」
どうしようもなく狼狽する私にクローディアさんがドスの効いた声をかけた。
「安心して、どうやら来たみたいよ」
「 !? 」
コツーン・・・
コツーン・・・
奥の方から足音が近づいてくる。
奥を見据えると5匹のレッサーラミアを引き連れたユーシスが来た。
目に光はなく魅了というよりも洗脳に近いようだ。
「一体増えてますね」
「どうやら討伐に失敗した冒険者の子を孕んで産んだようです」
「討伐料は?」
「もちろん出ます」
「殺さずに生け捕りにしても?」
「討伐料は出ますけど可能ですか?こちらとしては生きて捕獲してくれるとありがたいですが」
「その場合、討伐料の上乗せは?」
「一体あたり50万ルブルで」
「了解!」
などとクローディアさんとアナさんが討伐料の話をしている間に、魅了されたユーシスが突撃してきた!
ガキン!
私は剣を合わせ、ユーシスの斬撃をはじき返す!
レッサーラミアに魅了されたユーシスの動きは単調で何のひねりもない。
身体強化をするでもなく、炎を纏うでもなく、ただ剣をぶつけてくるだけ。
ああ、だからクローディアさんは、あまり慌ててなかったのか。
少し様子を見るツモリで相手をしていたけど、もういいや。
「えい」
ガン!
ユーシスの頭頂部を剣の平でぶっ叩いた。
「いってえええええええええ!」
衝撃でいともあっさり魅了から覚めた。
とりあえずヒールを掛ける。
「あれ?もしかして俺魅了されてた?」
「うん、いともアッサリと」
「最後の記憶は?」
「おっぱい」
「聞くんじゃなかった」
ユーシスを魅了から解き放った頃、クローディアさんの方は――
「チェンジ氷の魔剣!
はあああああー!!」
バヒュッ! カチーン ――
氷の魔剣の凍撃でレッサーラミアはまとめて凍らされ活動を停止した。
「まあ、所詮は変温動物の亜人崩れ、凍らせばチョロいものよ」
実にあっさりと無血でレッサーラミアを捕獲したクローディアさん。
“ああ、これは本来ならクローディアさん一人で片付く案件なんだな“とシミジミ思った。
討伐を完了した私達は背伸びをしながらラミア神殿の外にでた。
まだ日は明るく、討伐にあまり時間が掛からなかったのが分かる。
アナさんはすぐスタッフに魔術師と魔獣使いの手配をするよう指示する。
クローディアさんはホクホク顔だ。
「いやぁ、こんな美味しいクエストって初めてよ。これもあなた達がパーティー組んでくれたのと、今まで失敗してくれた冒険者達のおかげだわ!」
「今までが男性100%のパーティーばかりでしたからね。今回から女性比率を多くすることを条件にしたんですけど、こんなにアッサリと討伐されてしまうとは・・・」
アナさんは討伐料を跳ね上げて募集したことを少し悔しがっているようだ。
ただ少し疑問に思う事もある。
レッサーラミア、これはまあわかる。
恐らくはこのラミア神殿のセキュリティのために存在しているのだろう。
ならば変性ヒドラとベヒーモスの役割はなんだろう?
変性ヒドラはまあこれもセキュリティーの一環なのかもしれない。
しかしベヒーモスの方は大いに疑問だ。
このクラスの神殿にベヒーモス三体(恐らく四体)は明らかに過剰すぎる。
ベヒーモスを使ってでも守らねばならないモノがあるのか、あるいはベヒーモスそのものが何らかの役割を持たされていたのか・・・
まあここからはアナさんや学者たちの領分だし、私達は討伐料さえ滞ることなく貰えればそれでOKだ。
クローディアさんの家の弁償代の目途がつき肩の荷が軽くなった気がした。
あとは例の二人の件を・・・
私とユーシスは西城祐樹さんと松本朱里さんのいる天幕へ足を向けた。




