88. アリサ、“くぱぁ”される / 例の二人と遭遇
「アナさん、ちょっと宜しいかしら?」
「なんでしょう?」
「その、私達は儲かるから良いのですけど、報酬に対して討伐対象がヌルくないですか?」
「と、おっしゃいますと?」
「あの変性ヒドラなんですけど、弱くもないですけどそれほど強くもなく、これまで挑んだパーティーが敗れるほどの敵でもないような・・・」
クローディアさんがアナさんに疑問をぶつける。
その件は私も感じていた。
あのヒドラは特殊だけど、1級冒険者や第一独立小隊が負けるとは思えない。
「その通りです、実はヒドラに対して騎士団と1級パーティーは一度は勝利を収めています」
ん?今気になる言い回し方だったような・・
「あのヒドラ、斬られた部位が暫くしたら再生するんですよ」
「「「んなっ?」」」
「魔法が通じにくい体質なので物理勝負になるのですが、あの弾性の皮膚に皆さん苦労されてましてね。それでも何とか全ての首を落としたり胴体突き刺したりして勝利されるんですが、そのうちニョキニョキと・・・」
「じゃあユーシスが葬ったあのヒドラも?」
「いえ、今回はユーシスさんは本体内部から焼きヒドラにしたでしょう?流石に死んだと思いますよ」
「なあんだ、よかった」
そう安心していたところ・・・
「アナさん、来てください!ヒドラが!」
「「「「 !? 」」」」
現地スタッフの悲鳴が大きく響いた。
「何があったの?」
「はい、それが現地スタッフの一人がヒドラの尾に飲み込まれました!」
「なんですって?尾?」
「とにかく来てください!」
急いで変性ヒドラの遺体に駆け付ける。
やはりどう見ても死んでいるようにしか見えない。
しかし胴体と違って尾付近は焼けていないようだ。
飲み込んだという尾の部分を確認してみた。
幾つもの房状になっている尾のうち、さらに幾つかはポッコリと膨らんでいる。
「まさかあの中に?」
「はい、一番手前のこぶ状の尾に飲み込まれました」
私は確認しようと近づいた。
その瞬間!
「アリサ!」
ユーシスの私を呼ぶ悲鳴が飛んだ!
何事かと思うとともに異様な気配を感じたが時すでに遅し。
「え?・・きゃあ!」
一瞬にして私の意識は闇に堕ちた。
どれくらい経ったのか・・目が覚めるとオロオロしたユーシスの顔が見えた。
「ユー・・シス・・?」
「よかった、生きてた!」
「え?・・きゃ!」
泣きながらユーシスが抱き着いてきた。
よく見れば私の身体は粘液にまみれてヌルヌルのベトベト状態。
私の隣でも現地スタッフの一人が粘液まみれで狼狽えていた。
「いったい何が・・・」
「ヒドラの尾に飲み込まれたんだよ!」
「え・・・ええ!?」
段々意識がハッキリとして、変性ヒドラの尾に飲み込まれる瞬間まで思い出した。
尾の一つの先端が“くぱぁ“と広がり一瞬のうちに私は飲み込まれたんだ。
「私どれくらい飲み込まれていたの・・?」
「ほんの2分ほどだよ、ほんとにビックリした。身体は大丈夫?」
「ヌルヌルで少しふら付くけど平気みたい」
完全に油断してた。
ソロだったら確実に死んでいたわ・・・
思わずブルっと身震いした。
改めてヒドラの尾を見ると、ポッコリと膨らんだ尾がまだ3本ある。
「ねえ、あれってもしかして・・・」
「ああ、らしいな」
クローディアさんが魔剣を炎属性に切り替えて尾に近づく。
尾の一つが物凄い勢いでクローディアさんを丸のみしようとしたが、一瞬のうちに魔剣の餌食となり焼き切られる。
そして例の膨らんでいる3つの尾を変性ヒドラの胴体から切り離した。
「ユーシス君、悪いけど手伝って。中を開くわ」
ユーシスはクローディアさんを手伝い慎重に尾を割いて行く。
「うっ・・・」
中からは半分以上溶解した死体が出て来た。
アナさんが真剣な目で遺体を調べはじめる。
「この着ている服、かなり昔に流行った魔術師の服のようね。もしかしたらこの神殿が発見される前に忍び込んで餌食になったのかしれない」
遺体を見て、一歩間違えば私もこうなっていたのかと思うと、もう一度ゾッとした。
ユーシスとクローディアさんが続けて残り二つの尾を開く。
「生きてるぞ!」
「こっちも生きてるわ、大丈夫?しっかりして!」
見つかったのは私と同じくらいの男女だった。
とりあえず二人を天幕まで運ぶ。
「すみません、私が彼らを拭いておきます。あと私も着替えますので・・」
そう言ってアナさんと現地スタッフを追い出す。
その上で〈聖なる強力洗浄〉を掛けた。
3人の粘液まみれの身体が強力洗浄され汚れ一つ無くなる。
さらに二人に〈完全治癒回復〉をかける。
横たわる二人を見てハッとした。
「ユーシス、ちょっと来て!」
私の緊張した呼び声にユーシスが急いでやってきた。
「どうかしたか?」
「この二人よく見て」
ユーシスが横たわる二人を観察する。
二人とも黒髪でヒモト人のような顔つき・・
ユーシスの目が一瞬大きく開く。
彼も気が付いたみたいだ。
「西城祐樹さんと松本朱里さんだわ」
ラミア神殿と聞いて彼らと遭遇する可能性もあるとは思っていたけど、
まさかこんな形で遇うことになるとは。
それにしても、着ている服とかボロボロじゃないの、と言うかこれは服と呼べるの?
いったいどんな苦労をしてきたんだろう・・・
いろんな想像しているところに現地スタッフの方が入って来た。
「失礼します。彼らの持ち物と思われるバッグを見つけました」
「中を見ても?」
「疑うわけではありませんが、私の見てる前でならどうぞ」
「ありがとう」
バックの中にはパンの耳と自分達で作ったと思われる魚の干物。
彼らの世界の靴と服。
所持金は6000ルブル。
無級の冒険者カード。
〈すまほ〉とか言う彼らの世界の記録装置とそれに付随するモノ一式。
「ギリギリの生活を送っていたみたいだな」
「そうね、主食がパンの耳と自作の干物なんて・・」
所持金が6000ルブルじゃ宿にも止まれないわね、ずっと野宿だったのかな。
保存食もソーセージや干し肉は一切無し。これで長旅はかなり厳しいわ。
刀を失ったせいで動物を狩ることも出来なくなったのかも。
そもそも彼らに狩猟の習慣はあったのかしら?
「二人とも栄養状態は良くないわね」
「もしかしてスラヴ風邪に罹ったのかもしれないな。それで刀を売り払って薬代にしたとか」
「いくらなんでもそれは想像の飛躍じゃない?」
「そうかもね、でも当たらずとも遠からずかもよ」
「あなた達の知り合いなんですって?何か分かった?」
アナさんが状況の確認に入って来た。
「はい、ああ、えっと、正確には友人の知人なんですが」
「そう、それでせっかくのところ悪いんだけど、そろそろ神殿地下に行きたいのよ」
「あ、はい。・・アナさん、すみませんが彼らが目覚めたら十分な食事を与えてくれませんか?できれば衣類も見合うものが欲しいのですが。お金はもちろん払います」
「食事の方はスタッフに伝えておくわ。衣類の類は国の所有物だから割高になるけど、それでいい?」
「結構です、宜しくお願いします。」
「わかった、準備させておく。あとで入金伝票にサインだけ頂くわね。あいにく領収書はここに無いの」
「スタッフさん、もし彼らが騒ぎだしたら〈コニシ ミチオ〉の知人がすぐ戻ると伝えて下さい」
「かしこまりました」
「お待たせしました、それじゃ地下に行きましょう」
「・・・・」
「なに?どうかしたの?」
なぜかユーシスが私の顔をチラチラ見る。
「いや、よくもまあ、こんなにテキパキと気が利くもんだなと感心してた」
「そんなことないよ、こんなの普通だわ」
「いやいや、今朝、俺に脚を絡めて寝坊した人とはとても思えない」
「なっ!なんでそれ今言うの!?ねえなんで!?」
「なんでかな~♪」
私は顔を真っ赤にしてユーシスの背中をポカポカ叩きながら、神殿の前で待つクローディアさんの元へ向かった。




