83.跳ね上がる討伐料金 / 磯崎摩耶の嫌がらせ、憔悴する道夫、激怒する真美 / カルナ局長の報告
翌朝、早目に冒険者ギルドに入り、昨日目に付けていた討伐依頼書を掲示板から剥がし手にした。
そして受付オープンと同時に手続きを済ました。
今日は午後2時からクローディアさんと明日のミーティングをするので、それまでに依頼を完了して帰って来なければならない。
「よく見ていなかったんだけど、どんな依頼受けたの?」
「ここから北に6キロ先の牧場で魔獣化した牛の討伐依頼よ。かなり強暴で3級冒険者の手には負えないみたい」
「そうなんだ、牛の魔獣なら簡単に討伐できそうだね」
「でね、ユーシスここ見て、ここ」
そう言って私は討伐依頼書をユーシスに見せた。
「ふんふん、討伐条件2級冒険者または2級ハンター以上限定、討伐料30万ルブル・・・30万!?」
「驚いたでしょ!2級以上限定の仕事ってほとんどが10万ルブル以上ばかりなのよ!ああ、もっと早く気が付いていれば路銀の心配しなくて済んだのにぃ・・・」
2級以上限定のクエストとなると、討伐内容も一段と厳しくなり、その分討伐料も跳ねあがる。
今まで『安宿でも十分、贅沢は敵!』『冒険者登録は宿での身分証明用』などと思っていた私達には全くの盲点だった。
「凄いなぁ、あ、だから昨日スイートルームなんか選んだのか!」
「えへへ、そういう事!」
「じゃあ、これから泊まる宿はずっとこんな感じ?」
「それはちょっと、何か特別な時で十分だと私は思うけど・・」
「よかった、根が貧乏鍛冶屋だからあの部屋はなんか落ち着かなくてさ、ははは」
「次の街ではまた普通の安宿ね」
「でもこの依頼、クローディアさんにも言ったの? 2級冒険者は彼女だけで今まで独占状態だったんだし、ひとこと言っておいた方が・・」
「そのクローディアさんから勧められたんだから大丈夫よ」
「そっか」
私達はファイスとネロに騎乗し牧場へ駆けて行った。
スラヴ王国王都 西高級住宅街 小西道夫邸 (斎藤真美視点)
「ミッチー、また村木さんと鴨川さんが来ているんだけど・・・?」
「・・・・・」
はぁ・・
私(斎藤真美)はすっかりヘタレたミッチーを見て溜息が出た。
あの王宮の事件以来、ミッチーはずっと自室に籠りきり。
第三独立小隊も急な出張とかで、いまだ合同訓練しておらず家を出る機会が全くない。
ひきこもりの原因は、あの日以来、勇者パーティーに属していない女子達が、こぞってミッチーに接触しようとするからだ。
ミッチーは私達3人と今は遠くにいる松本朱里以外には決して心を開かない。
まあこの世界の聖女様や女聖騎士様は別なのかもしれないけれど。
対人恐怖症(ただし同郷の同級生に限る)のミッチーにはかなり厳しいみたいで朝からベッドの上で膝を抱えて固まっている。
「じゃあいつも通り適当に断るけどいいのね?」
「頼む・・」
「はいはい、ミッチーは風邪ひいてるから会えないって。またね」
「ちょっと斎藤さん!あなたいつも風邪だから会えないっていうけど嘘よね?」
「斎藤さんズルいです。私達も小西君のハーレムに入れて下さいよ!」
「は?うちら別にハーレム要員って訳じゃないんですけどー?」
「白々しい、ネタは上がってんのよ、あんた小西の情婦なんだってね」
「なっ!?誰がそんなこと言った!?」
「磯崎さんです、毎夜遅くに斎藤さんの嬌声が響いて迷惑してるって言ってましたよ」
あんのアマァァァ!この前の事、根に持ってやがんな!?
二軒隣の田中邸を見ると、2階のテラスから磯崎摩耶がニヤニヤしながら眺めているのが見えた。
「斎藤さーん、無理やり小西君押し倒して卑猥な嬌声上げるのやめてくださる?煩くて眠れないですけどー!」
磯崎が窓から大声でデマを言いふらす。
殺す!あいつは絶対殺す!
中学の時の因縁も含めて必ずぶっ殺す!
「すみませーん、小西君の家はここで合ってます?私達もハーレムに入れて欲しいんですけどぉ」
「おーい小西―、ハーレムに入ってやりに来たぞー」
今度は小森さんと山上さんか。
次から次へと・・・
ガチャ、パタパタパタ・・
「はいはい、みんな解散して、うちは道夫君入れて4人で手一杯なの。パーティーメンバーを増やす予定はないわ」
「だいたいあなた達、元の世界にいた時は道夫君のことバカにしてたじゃん。そんな人達を道夫君が快く受け入れてくれると思う?」
私一人じゃ分が悪いと思ったのか、屋敷から真奈美と麗子が助太刀に来てくれた。
「快く思ってなかったとしても、一度肌を合わせれば思いも変わるって、さあ早く呼んでよ!」
彼女達の頭の中ではパーティー=ハーレムらしい。
素行は良いとは言えなかったけど、決してビッチじゃなかったのに・・・
「悪いけど、あなた達のレベルじゃミッチーの足手まといにしかならないわ。せめてもう少し役に立つようになってからまた来なさい」
真奈美はそう言うと魔法剣を一振りした。
その瞬間物凄いブリザードが発生して押しかけた彼女達を凍えさせた。
「うう、覚えときなさいよ、西村さん、巽さん、そして斎藤さんも!」
彼女達は歯の根をガチガチ言わせながら帰って行った。
こんな日があの事件以来ずっと続いている。
「ミッチー、追い返したわよ」
「ありがとう・・」
「ちょっとミッチー、しっかりしてよ、明後日には王女さんと謁見なんでしょ?」
「うん・・」
クラスメイトの女子達に目を付けられた道夫は、元の世界で小ばかにされていた事を思いだし、もっともヘタレた時代のミッチーに退行していた。
「本当に大丈夫かな」
スラヴ王国 王宮 アクサナ第二王女執務室 (アクサナ王女視点)
「殿下、情報局カルナ局長が来られました。謁見を求められていますがどうされますか?」
カルナ局長が?
午後からこちらから出向く約束だったけど、はて?
「かまわないわ、通してちょうだい」
カルナ局長はアポもとらず、行き成り押し掛けるような不作法な行為を嫌うタイプだったはず。
ならばよほどの要件なのか?
「失礼します殿下」
「カルナ局長、こちらから出向く予定でしたのに」
「申し訳ございません、私の部屋では盗聴の可能性がありますので、誰にも話を通すことが出来ませんでした」
「盗聴?」
私は少し考えた後、アビゲイルとベティ、それにステンラも同席させることにした。
防音結界を張り直す。
「それでカルナ局長、盗聴とは穏やかではありませんが詳しくご説明いただけますか?」
「はい、まずはこのリストをご覧ください」
それは名前と部署だけが書かれもので、これだけでは何のリストかわからない。
その数5名。
「これは?」
「まだ確定ではありませんが、王宮内に潜むスパイまたは工作員と思われる者のリストです」
「なんですって!?」
改めてリストを確認する。
その中には情報局内に一人と、あろうことか2週間前にうちに配属になったばかりの秘書の名も連ねていた。
「この五名は偽ガバナス宰相と何らかの繋がりがあった痕跡が確認されました。まず間違いないと思います」
「それで、この者達は何者なのですか?どこの国が送り込んだスパイなのです?」
「まだわかりません、許可さえ頂ければすぐにでも尋問致します。ですが自分としてはもう少し泳がせておきたいのですが」
私もカルナ局長と同じだ考えだ。
敵の行動パターンをもう少し見極めたい。
「カルナ局長、私も同じ考えです。そちらの主導でもう少し泳がせて備に調べてください」
「わかりました。何分こういった状況ですので、最も秘密性の高い殿下の執務室に押しかけたことご理解願いたい」
「それはもちろんです。こちらこそ気遣いにお礼申し上げねばなりません。それと偽ガバナス局長の件ですが、何かわかりましたか?」
今回の事件の中心人物、偽ガバナス宰相の正体について、いまだ報告に上がってこない。
「彼奴は未だに口を割りませぬ、ただ一つだけ気になることが・・・」
「なんです?」
「彼奴はこの世界のいかなる人種・魔族も纏う事のないモノを纏っておりました」
私はカルナ局長に言い回し方にピンと思うことがあった。
5年前の悪夢が脳裏に浮かぶ。
「まさか・・・放射能ですか?」
「その通りです、殿下。
彼奴は、大魔術師バミアと同じくエスカトロジー世界の突然変異体と推測されます」




