82.2級パーティー登録
クローディアさんはクエスト依頼の掲示板の前で一人ブツブツ言っていた。
「あのクローディアさん、家の弁償の件で相談が・・・」
「うーん、ヒドラとラミアか、やれないことは無いけど条件がねぇ・・」
「あの・・?」
「この3名以上のパーティというのがネックか・・ブツブツ・・」
どうやらクエスト依頼で何か悩んでいるみたいだ。
私の声が届いていないみたいなのでもう少し大きな声で呼んでみる。
「クローディアさん!」
「わ!なんだアリサちゃん・・・・と、ユーシス君・・・」
「ど、どうも・・・」
クローディアさんとユーシスはお互いまだ気まずそうだ。
「あの、俺・・・トンデモナイことしちゃって・・・ほんとすみません・・・」
「あ、うん。もう済んだことだし、私も悪かったから・・・」
お互い目を見て話すことができない。
流石にこの二人の関係?は簡単にはいかないようだ。
「それでクローディアさん、弁償の件なんですけど・・・」
「ああ、その件ね。さっきも言ったけど、こっちにも非はあるんだし、別にいいよ」
「そう言うとは思っていましたけど・・・だけどそのまま甘える訳にも・・・」
「クローディアさん、総額幾らかかるんです?」
「安く見積もっても1100万ルブル・・・」
1100万ルブル・・・
数字が重く圧し掛かる。
「どうしよう、私やっぱり娼館に行った方が・・」
「馬鹿言うな、アリサにそんな事させるくらいなら俺が男娼になる!」
ガタッ! ガタタッ!
男女を問わず、私達の会話が聞こえた冒険者達が過剰に反応した!?
「やめてちょうだい、そんなことして稼いだお金なんて気分よく使えないでしょ?」
そう言い切ったあと、クローディアさんはまたクエスト掲示板に目をやる。
そして何やら悩んでいた。
「あの、さっきから何を悩んでいるんです?」
「ああ、この依頼受けられたら家なんてすぐ建てられるのになぁっ・・て、思ってね」
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ラミア神殿魔物討伐依頼
場所:リヴニの街 東20キロメートル小砂漠内 地下ラミア神殿
討伐対象
変性ヒドラ1体
レッサーラミア4体
(なおレッサーラミアは増殖している可能性有り)
討伐報酬
レッサーラミア1体あたり300万ルブル
変性ヒドラ1体あたり600万ルブル
特典
討伐税及所得税全額免除
クエスト失敗のペナルティーは無し
条件・参加資格等
・2級冒険者または2級ハンターを含む2級以上のパーティーである事。
・パーティーは必ず3分の2以上が女性を含む事。
詳細
此度新たに発掘されたラミア神殿内にて調査を行った所、レッサーラミア4体、ヒドラ1体が確認されました。
この為、調査がままならず難攻しております。また近隣に辺境街リヴニがあり、安全確保の為にも早急な討伐が必要です。
冒険者ならびにハンターの皆さまには、何かとご迷惑をお掛けしますがご理解の程宜しくお願い申し上げます。
現在以下の団体がクエストに失敗しております。
十分ご留意・ご検討の上、討伐参加にご協力して頂けますよう宜しくお願い致します。
・リヴニ青年団
・リヴニ自警団
・3級冒険者パーティー 銀狼
・3級冒険者パーティー ヤリパー
・2級冒険者パーティー 禁色夜叉
・2級冒険者パーティー ネット・リーマ
・1級冒険者パーティー 統一スラヴ
・1級ハンターパーティー キングスワン
・スラヴ王国騎士団第一独立小隊第二軍
スラヴ王国文化庁
スラヴ王国特別災害委員会
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「え、破格の討伐料じゃないですか!」
「これ達成したら家建ててお釣りがきますよ!」
「そうなんだけど、私は常にソロだから受けるに受けられないんだ、それにこのギルドにはヒドラやラミアに太刀打ち出来そうな冒険者は私だけだし・・」
「じゃあ私達と一時的にパーティー組みましょうよ!」
「そうだ、それで解決ですよ、どうです?」
「全員が2級冒険者ならいきなり2級パーティーの登録もできるけど、アリサちゃん達は実力は特級でも書類上は3級でしょう?だから最初は3級パーティーからなのよ」
そういう事か。
でもなんとかならないのかなぁ・・
「一応ギルドに聞いてみましょうよ、何か裏技あるかもしれませんし」
ユーシスの提案でギルド長に聞いてみると・・・
「特例ならあるよ、2級以上の資格を持った試験官2人に認められれば2級パーティーとして登録できる」
やった!
これで2級パーティーとして申請登録できる!
修繕費の捻出もできる。
しかしクローディアさんは肩を落とした。
「じゃあダメですね、このギルドで2級以上は私とギルド長だけだから・・・」
典型的な上げて落とすだった・・
「クローディアさん、ごめんなさい・・・」
「ま、そんなモノよ。世の中思い通りばかりに上手くいく訳ないんだから」
「・・・・」
「いやいやいや、特例や裏技なんか使わなくても2級パーティーくらいすぐ獲得できるだろ?」
そう言ってギルド長が“何言ってんだ、こいつら?“的な目を向けて来る。
「「「え?」」」
「ユーシス君とアリサ君が3級返上して2級資格取ればいいだけのことじゃないか」
あ、そうか。
正攻法で私達が2級資格取ってパーティー組めばいいんだ。
なんで気が付かなかったんだろう。
「この前の試合を公式扱いにすれば、実技試験も免除になって、今日のうちに2級資格と2級パーティーの登録可能なんだが、どうする?」
「「是非お願いします!」」
私達はすぐ手続きに入った。
パーティー名をどうするか悩んだが目的に適った名前がいいということで何故か〈御家の為に〉という後から見たら意味不明な名前にしてしまった。
ラミア神殿には文化庁からの見届け人と合流してからとのことで、出発は明後日となった。
この流れでラミア神殿攻略のためのミーティングまでしたかったけど、私達もクローディアさんも宿探しをしなければならないので今日はこれで解散した。
軽く外で食事をしてから今夜の宿を探し始める。
私は普段利用する宿より3ランクくらい上の“ホテル”を選び、ユーシスの手を引っ張って突撃した。
「すみません、スイートかダブルの部屋は空いていませんか?2泊お願いしたいのですが」
スイートと聞いてユーシスの顔がこわばった。
「今でしたらスイートルームに空きがございます。大きい目のダブルベッドが一つになりますが宜しいですか?」
「それでお願いします。あと馬を2頭お預けお願いしたいのですが」
「かしこまりました。料金は2泊で9万ルブルでございます」
「では、キャッシュで前受け金を・・・」
「ちょ、ちょっと待った!」
ユーシスが慌ててストップをかけた。
「アリサ、きみ正気か!?普段利用している宿の5倍以上は高いぞ!?」
「ねえ、ユーシス、私達この街に来てから10日近くになるのに、まだ一度も肌を合わせてないよね?」
「それはそうだけど・・・だからってこんな高いところでなくても・・」
「昨夜なんて街を飛び出して野宿までしかけて、寒いし心細いし、寂しくて辛くて怖くてイッパイ泣いちゃった」
「いや、あの・・・・」
「この部屋でいいよね?」
「はい・・・」
「それではご案内します、こちらへどうぞ」
部屋に通され荷物を置き、まずは聖なる強力洗浄で身体を清める。
それから部屋に備え付けのガウンに着替えて、まずは寛いだ。
「は~、さすがスイートルーム、いつもの安宿と比べたら別次元ね、そう思わない?ユーシ・・ス・・?」
ユーシスの方を向いた瞬間、彼は私の眼の前で土下座をした。
「え、ちょっと何やっているの???」
「すまない!」
額を床にグリグリ擦り付けて謝るユーシス。
「ちょとやめてよ、顔を上げて?ね?」
「勇者の魅了の影響とはいえ浮気なんかしてすまない!」
「・・・・」
ユーシスはユーシスで今日一日ずっと悔いていたんだ。
うんまあ、分かる。私も経験したから。
だから許せる。
勇者の魅了にかかればもう自分ではどうすることも出来ない。
「頼む、どうか見捨てないでくれ!」
「ユーシス、あなたを見捨てる訳ないでしょ、さあ立っ・・・!?」
ユーシスの肩に手をあてて私はびっくりした。
彼はガタガタと震え、床に擦り付けた顔面の下からどんどん涙が流れていく。
ユーシスは私に見捨てられる事を本気で怯えていたらしい。
これはアレね。
表現の仕方は全然違うけど、私と同じ・・・いや、私の場合は露見して見捨てられる前に、逃げ出そうとしたんだけど・・・
「ユーシス、分かったから、もう何も怒ってないから。だから今まで通り・・ね?」
私達はお互い同じような目にあったんだ。
あの時私を受け入れてくれたユーシス、
今度は私が受け入れる番なんだわ。
「俺は君の見ている前でクローディアさんとキスしてしまった・・」
「私だってあなたの目の前でダンとキスしかけたわ」
「君の事を本気で殺そうと剣を向けてしまった・・」
「私だってあなたを本気で殺そうと蹴りまくったわ」
「冷酷な態度で君の心を抉った・・」
「私だってあなたの心を抉る様な事をしたわ」
「見捨てられても仕方がないことをした・・」
「あなたは私を見捨てず受け入れてくれた」
「この前はユーシスが私を受け入れてくれた。今度は私が受け入れる番なのよ。それでいいじゃない」
「アリサ・・・」
「じゃあ一つだけお願い、もう私を一人にしないで、ね?
私、あなたに捨てられて本当に怖かった・・本当に・・あんな思い二度としたくない」
「本当に怖かったんだから・・」
「怖かった・・」
街を出て一人になった時の恐怖がフラッシュバックする。
「本当に、本当に怖かったんだからぁ、ユーシスのバカぁぁ!!」
ずっと平静であるよう演技してきたけどもうダメだ。
とうとう感情のままに爆発させてしまった。
「もう私を一人にじないでぇぇぇ、わああああ!」
「ごめん、もう絶対離さないから!」
結局あの後二人して泣き明かし、二人ともそのまま泣きつかれて朝まで泥のように眠ってしまった。
せっかく高い料金払って泊まったスイートルームなのに、初日のユーシス成分補充計画は失敗してしまった。
ユーシス成分=ユーシスの気とかオーラとか温もりとか愛情みたいなやつ。




