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81.おかえりユーシス

「どんな具合?」 


「ああ、クローディアさん、御覧の通りですよ」


 ギルドの従業員が親指をたててクイッとやる。


 ヒモト製のサナダロープで、グルグル巻きにされたユーシスが、ソファーに横たわっていた。


「ユーシス、すぐ元に戻すからね。えっとお願いします」


 ギルド職員は気付け薬を染みさせたハンカチをユーシスに嗅がせた。


「ん、んん!?」


 気付け薬の刺激臭にユーシスは速攻で目を覚ます。


「クローディア!・・!?・・・・アリサ・・キサマ・・」


「おはよう、ユーシス。気分はどう?」


 しかしユーシスは私を無視した。


「クローディア、ロープを解いてくれ!そうしたらすぐアリサを殺すから!」


 相変わらずユーシスは私に対して殺意満々だ。


「見るに堪えないわ」

「・・・私がやってもいい?」

「おまかせします」


 クローディアさんがユーシスの前に出る。

 それを見てユーシスは歓喜した。


「ああ、分かってくれたんだね、愛してるよクローディア。さあ、早くロープを解いてくれ!」


 勇者の魅了(チャームアイ)のせいとは言え、他の女性に『愛してる』なんて言うのは流石に胸が苦しくなり切ない。

 かつて加藤弾に魅了された私を見たユーシスも、こんな苦しさと切なさを感じたんだわ。

 今更だけど、ごめんね。



「ユーシス君、酷い事してごめんね。今すぐ元に戻すから」


 パチン


 クローディアさんが指をはじいた。


「クローディア!クローディア!クロー・・・・あれ?・え?・おお?」


 魅了が一瞬で解け、しばしの混乱のあと固まり・・・


「・・・・」


 一拍間をおいてそれから、


「うわあああああああああああ!!!!!!!!!!」


 魅了中に自分が何をしたのか、そのえげつない記憶が怒涛の如く押し寄せる。


「な、なにをやってたんだ俺は・・・嫌がるクローディアさんに無理やり関係を迫りあんなことを・・・そしてアリサを・・・」


 その間、クローディアさんはユーシスを拘束していたロープを解いた。

 ユーシスは自由になった両手で頭を抱えてガタガタと震えだした。


「アリサ、アリサーーーーーー!うわあああああああああ!!!!!!!!!」


 断末魔のような大絶叫を上げるユーシス、その後彼を襲うのは・・。


「ぐふ・・うぷ・・」


 到底受け入れられない現実に脳と身体がついて行けず吐き気をもよおす。


 胃液が込み上げいよいよ吐きそうになったところで私は用意していた洗面器をスッと差し出した。


「おえぇえええ!ぐぼぉおおおおお!」


 ユーシスは洗面器に向かって盛大に吐いた。

 吐瀉物がみるみる溜まって行き、ユーシスの顔面は目や鼻から湧き出る謎液体で顔がグシャグシャなった。


「アリサちゃん、用意がいいね?」

「経験者ですので」



「あぁぁ・・アリサ・・アリサ・・」


 小さく蹲り、私の名前を連呼するユーシスを私は背後からそっと抱いた。


「大丈夫、私はここにいるから」


 そう言って私は用意していた濡れタオルでユーシスの顔を優しく拭く。

 クローディアさんは私の手際の良さに関心しているようだ。


「アリサぁ、ごめん、ごめんよぉおおお!」


 ユーシスは勢いよく振り返り私を強く抱きしめた。

 蹲っていた状態からの抱き着きなので、ユーシスの顔が私の胸に埋まるような感じになった。

 私も彼の頭を優しく抱きしめた。

 それまで平静を保っていたけど、私ももう限界のようだ。

 涙腺が完全崩壊し大声で泣いてしまった。


「ユーシス!ユーシス!怖かった、怖かったよぉぉ!ふぇぇぇん!」


 ユーシスを失った喪失感、あれは本当に恐ろしいモノだった。

 心に塞ぎようのない大きな穴があいたような寂しい感覚と、自分は捨てられ独りぼっちになってしまったことへの恐怖。

 何をするにも悪い意味での初めてに一々絶望し、

 何より彼の温もりを一生感じることが無い事への悲しさ、

 絶望と悲しさに憔悴しきる身と心、

 あんなのはもう二度と体験したくない。


 私はぐっと力を入れてユーシスを強く抱きしめ直した。



 おかえりユーシス、もう絶対に離さないからね














 あの後、ユーシスが私の胸の中で、あわや窒息死しかけて大慌てで蘇生したりと大変だったが、どうやら事件は終息しつつあった。


 残る問題はクローディアさんの家の件・・・


 クローディアさんは、さっきから隅の机でソロバンを弾いては頭を抱えている。


「倒壊した家の撤去費用が90万ルブル・・・」


 どうやら倒壊した家の撤去費用が思っていたより経費がかかるらしい。

 それとは別に新たに家を建て直すつもりでいるようだ。

 これはやはり御好意に甘えて知らないふりはできない。


 私とユーシスはどうしようかと二人で相談していたら、ギルドの女性職員さんが私達に請求書を持ってきた。

 その額120万ルブル!?


「あの、この請求書はいったい・・・?」


「アリサさん、あなたが壊してくれたドアや屋内設備に対する損害賠償ですよ」


「損害賠償?」


 なんの事だろうと思っていたけど、すぐ“あっ!”と思いだした、思い出してしまった。

 昨夜このギルドに来た際、ドアを破損して屋内で雷をぶっ放したんだった・・


「思い出して頂いたようで何よりです。さあ、支払って頂きましょうか?」

「いやでも、120万ルブルって高くないですか!?」


 ユーシスが割って入って反論してくれた。

 しかし職員さんは破損物一覧を詳細に書いた書面を見せてくれた。

 たしかに120万ルブルだった。


「払えないのでしたら分割でもいいですし、実入りの良い娼館も紹介致しますよ。どうされます?」


「「しょ、娼館!?」」


 思わず二人とも声をあげてしまった。


「「「「「「娼館・・だとぉ!?」」」」」」」


 ガタッ!


 なぜかギルド内の男性冒険者が声をあげて一斉に立ち上がる。


「よかったですねぇ、軽く見積もって20人の固定客は確実ですよ。これなら1回3万ルブルとして一人2回ほど相手をするだけで完済できますよ、ささコチラの娼館契約の書類にサインを、今すぐ早く!」


 捲し立てるようにギルド職員がサインを促す。


「じょ、冗談じゃない!払う、今すぐ払うぞ!」


「ユーシス、それじゃクローディアさんの弁償が・・・」


「それはまた考える!とにかく娼館は絶対ダメだ!」


 ユーシスは預金通帳としても使えるギルドカードを渡して支払いの手続きを済ました。


「ちっ、ユーシスさん、あなた意外とお金持ちだったんですね。娼婦紹介の斡旋料貰い損ねましたよ」


 女性職員は露骨に嫌な顔をして去って行った。


「どうするのよ、クローディアさんの方は!」

「じゃあ君、娼館で働くつもりか!?」

「それは・・嫌だけど・・」

「それにお金だってまだ十分あるじゃないか。きっと賄えるよ」


 とりあえずクローディアさんに、撤去と建直しの総額費用を聞かない事には先に進めない。


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