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80.ブーメラン

 私はとりあえず全身の痛みを抑えるために完全治癒回復(セイクリッドヒール)を掛けた。

 クローディアも無理な身体強化をしたらしく同じく回復させた。



「そういえばユーシスは勇者の魅了(チャームアイ)を何発目で堕ちたんですか?」


 どうしても気になる事なので先に聞いてみた。

 アリサの場合は10発目で堕ちた。

 ユーシスは何発目で堕ちたんだろう、まさか一発目で堕ちたんだろうか・・・


 クローディアはちょっと考えて・・・


「たしか13発目だったかしら?

全然効いてる様子が無くて、あれー?って思いながらついつい・・・」


「へあ!? 勇者の魅了(チャームアイ)を13発ぅ!?」


 思わず変な声が出てしまった。


「あああああ、ごめんなさい!ごめんなさい!」


 そっか。

 ユーシスは13発も耐えたんだ。


「じゃあ堕ちるのも仕方ないかな、ふふふ」


 少しは留飲が下がったような気がした。

 あれはたった一発でも貰えば、術者にトキメキを感じてしまい、逆に想い人から心が離れようとする。

 私の場合は10発重ね掛けされて堕ちた。

 それをユーシスは13発まで耐えた。

 凄いなんてものじゃない。あり得ない事だと思う。



「それでアリサちゃん、さっきの話なんだけど、そのアレの解除方法を・・」


「ああ、はいはい。と言っても私は掛けられていた方だから・・・でもまあ、解除するよう念じて指を鳴らせばいいと思いますよ?」


「指を鳴らす?」


「そう、こんな感じに」


 パチン♪


 指を鳴らして実演してみせた。


「や、やってみる!」


 スカッ


「あれ?」


 スカッ、スカッ、


「あれ?あれ?」


スカッ、スカッ、スカッ、

 

「あれ?あれ?あれ?」


 スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、

 スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、

 スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、

 スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、スカッ、


「どどど、どうしよう、どうしても指パッチンが鳴らない・・・」

 彼女は半べそかいて狼狽してる・・

 なんか見てて頭痛くなってきた。

 人のこと悪くは言いたくないけれど、この人ホントにダメすぎる。

 私は本当にこの人に負けたのだろうか・・・


「大丈夫ですよ。他にも方法がありますから。しかも確実な方法が」


 私はユーシスのバッグを取って来て貰うように頼んだ。

 数分後、私の手元にユーシスのバッグが来た。

 中を確認するとダーシュ様特性のハリセンがちゃんとあった。

 もうこれで大丈夫だ、これさえあればユーシスが私の元に戻って来る!


 バックの中から大魔術師ダーシュ様特製・状態異常を速攻回復させるハリセンを取り出した。



「えっと、クローディアさんも魅了の影響出てるんですよね?じゃあちょっと失礼して・・・」


 彼女の後ろにまわり、頭にハリセンを一閃!


 パシーン!


「うぶっ!?」


「どうです?」


「------ほとんど魅了の影響が消えたような気がする・・」


 ほとんど?

 おかしいな、真正勇者のユーシスの魅了は、やっぱり召喚勇者とは違うものなのかな・・・


「でももう大丈夫みたい。頭も凄くスッキリしたし、あとは時間が解決してくれそうね」


(ん?)


「それじゃユーシス君を魅了から解放しにいきましょうか。彼は隣の部屋で寝ているわ」


(あれ?)


「どうかした?」


「あ、いえ・・なんか急に雰囲気変わったような・・」


 さっきまでの狼狽しまくってオロオロしていた残念な美人の彼女はどこへやら。

 今の彼女はキリッとした表情で出来る女の雰囲気を醸し出している。

 こんな彼女を私は知らない。

 これはもしや、まさか・・・いや、多いにありうる・・


 もしかして、無意識とは言え先に魅了したのは、実はユーシスの方なのでは?

 ユーシスの魅了の影響のせいで冷静な判断力が出来なくなり、クローディアは暴走した可能性も・・・

 もしそうなら彼女は加害者ではなく被害者ってことに!?


「あ、あのクローディアさん、ユーシスになんかトキメキめいたモノとか感じました?こう“トゥクン”って胸が鳴ったりとか・・・」


「ん?ああそうだね、初めて彼と挨拶したとき、凄い美人とか言われて思わずトゥクンって胸が鳴ったかな、ははは」


 それだ・・・多分その時からクローディアは・・いやクローディアさんは少しずつユーシスの魅了に蝕まれていたんだ・・・

 どうしよう、これ・・・打ち明けるのが怖い、家まで壊しちゃったし。


「どうした?顔が青いようだけど・・・?」


「あの、可能性の一つとして聞いて頂きたいんですが・・・」


「?」


 私は恐る恐る打ち明けた。


 彼女は最初驚いた表情だったが、やがて声をあげて笑い出した。


「ははははは、

なんか君達と会った直後から自分が少し浮ついてる感じはしていたんだけど、そっか、そうだったの」


 ああ、もうこれ間違いない。

 さっきまでと違い、今のクローディアさんからは“残念な美人”など微塵も感じさせない。


「それで、家の方の弁償はお幾らくらいでしょうか・・・」


 ビクビクしながら聞いてみる。

 王都を出る時、家を売ったからそれなりに持ってはいるけど、

 うう、いくら位請求されるんだろう・・


「うん、まあそれはもういいわ。私も自分の魅了耐性を過信してた所はあるしね。それに本当のところは分からないでしょ?」


「それはそうですが、だからと言って何もしないわけにも・・」


「それにね、私が魅了されて無かったとしても、やっぱり剣を交えた瞬間アリサちゃんを求めたたと思うよ?まあ流石にユーシス君を巻き込もうとはしないと思うけどね。だから私に対しては気にしなくて大丈夫だから、ね?」」


「でも流石に家一軒分の損害となると・・・」


 どうしよう、本当にどうしよう。

 ご厚意に甘える訳にいかないよね、ちゃんと弁償しないと・・・


 泣きそうな私を見て、クローディアさんはクスリと笑ったあと助け船を渡してくれた。


「どうしても気になるのならユーシス君と相談してから決めたらどうかな?彼に相談も無しに一人で決める事じゃないでしょう?」


「すみません、そうします・・・」


「さ、私の家なんかより今はユーシス君を元に戻しましょう、ほらほら、半べそかかないの!」


 クローディアさんに背中を押され私は部屋を出た。


 “パチン“


 音がして振り返ると


「なんだ簡単に鳴るじゃない」


 クローディアさんはいとも簡単に指を鳴らしていた。


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