79.カミングアウト
「ん・・」
どれくらい眠っていたのだろう、まだ頭がボンヤリする。
ここは何処だろう。
目をキョロキョロ動かし辺りを確認する。
どうやらベッドに寝かされているようだ。
ユーシスは・・・見当たらない。
知らない女性が一人、あと・・・
「クローディアさん、アリサさんが目を覚まされましたよ!」
「ありがとう、彼女と大切な話があるから空けてくれないかしら」
「あ、はい。用がありましたらお呼びください」
(クローディア!?)
その名を聞いて寝ぼけた脳が一気に覚醒した!
同時にガバっと起きようとしたが、
「ふぐぅ!?」
イタタタタタタ!?
身体が!全身が!メチャメチャ痛い!?
なんで!?
「アリサちゃん!良かった、大丈夫?どこか痛い所とか無い?」
クローディアが安堵の表情で私を見つめる。
なんで?なんでそんな表情が出来るの?
あと見た通り全身が痛いんですけど。
それに此処はどこ・・・?
頭を振り、何があったか必死で思い出そうとする。
・・・・
・・・
・・
・
思い出してしまった。
全身が痛いのは無理しすぎた身体強化の反動のようだ。
そう、私は限界一杯まで身体強化をかけて、この女に勝負を挑んだ・・・
でも私は勝負に負けたんだ・・・
負けたということは・・・
ユーシスは・・・
取り戻せなかった・・・
「クローディアさん・・・」
「は、はい?」
「お願いします、ユーシスを、私のユーシスを返して・・・」
「え、ちょっと、アリサちゃん?」
「お願いします・・お願いします・・私、なんでもしますから、ユーシスを返して!」
「ちょ、ちょっと落ち着こう、ね?(今なんでもって!?)」
わあああああああ!
またしても私は泣き崩れた。
そんな私を見てクローディアはオロオロする。
「アリサちゃん、ユーシス君はもちろん返すわ。そもそも私はユーシス君を奪おうなんてつもりは最初から無いのよ」
え、ユーシスを奪うつもりない?
それじゃユーシスはどうして・・・
まさか勇者の魅了に関係なくクローディアに惚れてしまったとか・・
最悪の想像をして私は顔が一気に青くなった。
「じゃあ・・・ユーシスは・・・自分の意志で・・・クローディアさんを・・・好きになって・・・しまったんですか?」
絞り出すような声で聞く。
しかし彼女は実にあっさりと否定した。
「それも違うわ、ユーシスが変になったのは間違いなく私の勇者の魅了のせい」
「だったら勇者の魅了を解除して下さい!」
「それは・・・出来ない・・・の・・」
「 ! 」
それを聞いて私はまた怒りが沸々と沸いてきた。
結局この女は返すつもりなんかハナから無いんだ。
ただ気分に酔いたいだけなんだ。
なんて酷い人なんだろう!
「酷い、酷いよ、私達が何をしたっていうのよ、どうして私達がこんな目に!」
「だから違うの!私は本当に解除する方法がわからないのよ!
私もどうしたらいいか分からないのよ!」
そんな子供じみた言い訳をしてクローディアは頭を抱えてしまった。
「なんで!?勇者の魅了の解除なんて簡単じゃない!指を鳴らしながら解除を念じるだけでしょ!?」
「え?」
クローディアが驚いた顔で私を見てる。
なに?そのハトが豆鉄砲くらったような顔は?
「アリサちゃん、その話詳しく!今すぐ教えて!早く!」
なんだかえらく興奮しているのか私の肩を持ってガクンガクン揺さぶる。
痛い、イタタタタタタ、やめて揺さぶらないで!ぎゃああああ!
筋肉痛と神経痛の強力なやつが全身を襲い思わず顔を歪める。
それをみてクローディアは慌てて手を放した。
「ごめんなさい、でも早く教えて!ユーシス君の目が覚める前に!」
この慌てぶり、とても演技とは思えない鬼気迫るもの。
まさか・・・
「まさか、本当に解除の方法が分からないんですか!?」
「だからずっとそう言ってるじゃない!お願い!もう私、ユーシス君に抗える自信ないの!」
まさかの本当に知らなかったとか!
解除方法知らないのに、この人何やってんの!?
でも一応確認しておかないと・・・
「あのー、クローディアさんは本当にユーシスを奪うツモリは無いんですよね?」
「も、もちろん!」
「じゃあ、なんでユーシスに勇者の魅了使ったんですか?」
「う・・・」
口ごもった。
視線そらした。
あやしい。
「もしかして性の捌け口にユーシスを飼おうと・・・」
「ちょ、そんなこと絶対しないし、最後の一線だけは越えなかったわ!」
「じゃあ最後の一線手前までは色々したんですね?」
「・・・・」
沈黙は肯定と同じ・・・どこまでしたんだろう。
〇○○の○○とか○○○○とか○○○○○とかはしちゃったんだろうか・・・
凄く気になるけど聞いてしまえば冷静でいられなくなるのは間違いなさそうだ。
「と、とりあえず置いときます。じゃあ何故?」
「あのね、まず知って欲しいんだけど、私は女で同性愛の趣味はありません。もちろん痴女でもありません」
「はい?」
この人いきなり何言い出してるの!?
そんなこと誰も聞いてないんだけど。
「私が欲しかったのはユーシス君じゃなくアリサちゃんだったの・・」
「え゛」
一瞬完全に思考が停止した。
ちょっと待って、一旦落ち着こう。
多分私の聞き間違えに違いないから。
「アリサちゃんが欲しくて欲しくて堪らなかったの!」
聞き間違えじゃなかったー!
ごめんなさい、そのお気持ちに応えるのは無理です。
無理無理無理無理、他を当たってください!
あとにじり寄らないで!
「でもアリサちゃんとユーシス君が凄いラブラブだったのは感じてたから、告白しても無駄だろうなって・・・
だからユーシス君をちょっとだけ魅了して3人で暮らせないかなぁ・・って。
そうすればなし崩し的にアリサちゃんを・・・」
「ぜ、ぜ、全力でお断りします!何考えているんですか、信じられない!」
全身鳥肌が立った。
本当にこんな人いるんだ。
思わず自分で自分を抱きしめるようにして身を守る。
まずい、全身激痛が走りまくる今の状態じゃ簡単に手籠めにされてしまう!
「安心して。
どうしてそんな気持ちになったのか原因がわかったから。
もうアリサちゃんが欲しいなんて言わないし思わないから」
「-----どんな原因ですか?」
懐疑的な目でクローディアを見ながら次の言葉を待つ。
「試合で剣を交えた瞬間から、あなたを欲しくて欲しくて堪らなくなったんだけど、その時は自分でも理由がわからなかった。それで理性を欠いて暴走してしまったわ。でも後からアリサちゃんが聖女だと分かって納得した」
「・・・・」
「私達召喚勇者は聖女を激しく求めようとする。例えそれが同姓だったとしても・・・」
「ああ・・なんとなく分かるような気がします・・・」
召喚勇者達の聖女に対する異常な固執は知っているつもりだった。
しかしまさか同姓まで守備範囲だなんて思いもしなかったわ。
言っている事が本当だとしたら、女神セフィースの勇者は、もはや呪われていると言ってもいいくらいだ。
「三点確認させて下さい。
一つ、ユーシスを返してくれる意思はある。
二つ、でもユーシスを正気に戻す方法がわからない。
三つ、私を手籠めにするつもりは無い。
間違いないですね?」
「うん、それで間違いないわ、でも一つ付け加えるとがあるの。
今の私は間違いなくユーシス君の魅了の影響を受けている。
悪意は感じられないから無意識の発動だとは思うんだけど・・・
彼の魅了は私の魅了耐性を易々突破してくるのよ、次に迫られたらきっともう抗えないわ」
話を聞いて流石にギョッとした。
ユーシスが無意識に勇者の魅了を・・・いえ真正勇者のは勇者の魅了って言うんだっけ?この際どっちでもいいけど。
でも最近のユーシスの様子を見ればその可能性は十分ある。
「ねえ、アリサちゃん、ユーシス君ってもしかして勇者じゃない?」
「・・・・」
「沈黙は肯定と同じ意味よ。やはりそうなのね」
私は“はぁぁ・・”と深い溜息を付いた。
どうやら隠し続けて問題解決するのは難しそうだ。
「・・・クローディアさん、お互いこの件は秘密にしませんか?
私達、実は王国から追われている身なんです。
たぶんクローディアさんも帝国から追われているのでしょう?」
「ええ、その通りよ。
だから今の件は私の方こそお願いしたかったくらい。
もちろん了承するわ」
「じゃあ、ここからはお互い前向きに問題を解決していきましょう」
正直に言うと私は留飲が全く下がらない。
私を苦しめ続けた核心部分が、こんな凄いくっだらない事だったなんて・・・
怒りを通りこして乾いた笑いすら出てこない。
でもどこかで折り合いを付けないと、このグダグダ劇は終わりそうにない。




