78.ユーシスvsアリサ!?/アリサvsクローディア 第二ラウンド
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物語が始まる前に説明しよう。
いつもは穏やかで優しく御淑やかなアリサだが、
勇者の魅了が絡むとき、性格が過激に豹変するのである!
以上説明終わり。(富山敬風)
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「どうも、クローディアさん、お久しぶりです」
歪な笑みを浮かべながら、私は丁寧に挨拶した。
あの女は慌てて乱れた着衣を整えながらアワアワしている。
「違うの、これは違うの!」
私はウンウンと頷きニッコリと笑顔を絶やさない。
「何が違うんですか?そんなことより私のユーシスを返して下さいよ」
「そ、それはもちろん、だから私の話を・・」
「ちょっと待て!」
「「 !? 」」
突然、剣を握りしめたユーシスが割って入った。
「やあアリサ、会えて嬉しいよ」
ユーシスは殺意のこもった微笑で話し掛ける。
「あらユーシス、私もとっても会いたかったわ。でも今は邪魔だからどいてくれる?」
「連れない事言うなよ、なあアリサ、君がいると僕とクローディアは結ばれないんだよ」
「ふーん、だから?」
「だから僕とクローディアの為に死んでくれ!」
一瞬、ボッとユーシスのオーラを感じた。
身体強化を使ったようだ。
たしか今のユーシスは1.75倍まで上げれるんだっけ。
“チャキッ“
ユーシスが剣を握り直し、剣気に殺気を混ぜて当ててくる。
ああ、魅了されたらこんな風に殺意も沸くわね。
私もこんな感じだったからなぁ・・・
幸か不幸か私は魅了の経験者、ユーシスの狂気に染まった感情も理解できてしまう。
愛情が強ければ強いほど、反比例するかのように強く憎しんでしまう外法、
それが勇者の魅了。
経験したからこそ私には一切の動揺は無い。
「ところでユーシス、ダーシュ様から預かったハリセンは?」
「あれなら君が壊してくれた家の中だよ。バッグには入れてあるけど、あれじゃ探すのが大変だ」
ユーシスは殺意満々の笑みを浮かべながら答える。
そう、簡単にはいかないようね・・・
あれがあればすぐ解決するのに。
「ところでユーシス、今のあなたじゃ私には到底勝てないと思うんだけど?
無駄な悪あがきは止めたら?」
「挑発したって無駄だよ、死ね、アリサ!」
「やめてえええええええええ!」
あの女が悲痛な叫びをあげて止めようとするが、ユーシスは縮地をかけ一瞬で距離を詰め、何の躊躇いもなく、私に向けて剣を振り下ろした!
しかし・・・
ヒラリ
「くっ!?」
全身を金色の粒子を纏わせながら、私はユーシスの渾身の斬撃をあっさりと避ける。
一般に身体強化術は個人差はあるが概ね4倍が限度とされ、それ以上は肉体を崩壊させてしまう。
ここ一番の決め技の時などに瞬間的に4倍以上に上げて使うくらいしかメリットが無い。
かつてヤンマさんが一瞬だけ身体能力を18倍に上げ召喚勇者オスカー・ブラウンの腕を切断したのがいい例だ。その時も発現時間は2秒も無かったと思う。
しかし私は身体強化を4倍以上にあげ、それに伴う負荷を完全治癒回復の高速連続掛けで自己修復する。
この技法により、安定して限界を超えた力を出し続けることが可能となる。
思いついたのはつい最近のことで、まだユーシスにも教えてはいない。
今ユーシスに対しては6倍の身体強化で対峙している。
それにしても実践での初めての相手なのがユーシスなのは、なんとも皮肉な話だ。
「ぬ!?」
ユーシスは一瞬私の姿を失い戸惑う。
私はいともたやすくユーシスの背後を取った。
「ユーシス、ごめんね・・・」
トン
ユーシスの首の根本付近に手刀を当てた。
「!?・・・」
ユーシスの意識は一瞬で刈り取られ、前向きに崩れる。
崩れるユーシスを抱きかかえそっと地面に寝かした。
「しばらく大人しくしててね、
次に目が覚める頃には、きっといつものユーシスに戻ってるわ。そしたらまた一緒に旅を続けようね・・」
久々にユーシスに触れたことで、いろんな思いが一瞬で沸いて出てしまい、私はうっすらと瞳がうるんでしまった。
「アリサちゃん、いま何を・・それにその金色の粒子!?」
(あきらかにこの前の試合の時とは動きの次元が違う、これが彼女の実力?)
あの女が驚愕の眼差しで私を見る。
「さてと、それじゃ話し合いをしましょうか、魔法剣士のクローディアさん。いいえ、違ったわね?」
「勇者クローディア!」
「 !? 」
明らかに動揺するクローディア。
どうやら自分が勇者であることは絶対に秘密にしておきたかったらしい。
「な、ななな・・」
「驚いたり動揺したりするのは後にして頂けます?まずはユーシスを勇者の魅了から解放して頂戴!」
「で、出来ない・・」
「は?今なんて?」
「私、勇者の魅了を掛けることは出来ても解除することはできないの・・」
「はぁぁぁ?」
何言ってんの、この女?
そんな嘘までついて私のユーシスを奪うわけ?
「そんな見え透いた嘘が通用するとでも?いい加減にしてくださいな!」
「嘘じゃない、本当よ!勇者の魅了だって今回初めて使ったから勝手が分からないのよ、信じて!」
クローディアの子供のような言訳にいい加減辟易してきた。
「この泥棒猫!まだそんな口から出まかせを!
散々返す・戻すとか言って、結局返す気なんかないんでしょ!」
「違う、そんなことない!」
はぁ・・・思わず溜息が出た。
「もういいわ、そこに転がっているあなたの剣を拾いなさいな。さすがに道具無しの者の首を刎ねるのは心苦しいわ」
「アリサちゃん!?」
「これ以上問答無用!
身体強化10倍!プラス完全治癒回復連続がけ!」
ボシュ!ゴゴゴゴゴ!!
10倍まで強化された私の身体は、身体の部分部分が負荷に耐えきれず、破れた毛細血管から霧のように血が噴き出し、目から血の涙が零れ景色は朱に染まる!
それと同時に完全治癒回復が損傷個所を瞬時に回復させ、肉体は超高速で崩壊と回復を繰り返す!
しかしこの技法でも10倍を超える身体強化の発動中は、全神経が塩の柱に変わったかのような激痛に襲われ続ける。
全身を血霧と金色の粒子さらには雷をも纏い、その上に血の涙を流しながら、私は改めてクローディアと対峙した。
「10倍の身体強化術!?信じられない・・
しかもその金色の粒子と回復魔法・・・アリサちゃんって、まさか聖女!?」
「だったらなに?それより覚悟はいいかしら、勇者さま?」
「くっ!」
クローディアも腹を括ったようだ。
剣を握り臨戦態勢に入った!
「その命もらい受ける!死になさい!」
縮地を使うまでもなく、一瞬で間合いを詰め、クローディアの首を容赦なく刎ねにかかる!
ガキン!
「くあ!」
辛うじてクローディアは剣を合わせ、首が飛ぶのを防いだ。
しかし私の勢いには勝てず真後ろに吹っ飛ぶ!
ダン、ダーン!
床を転がりそれでもすぐに臨戦態勢をとる・・・が、
「遅い!彗星斬!」
膨大な雷を乗せた一撃で袈裟切り!
これをクローディアは転がりながら間一髪で避ける。
「へー、逃げるのだけは流石ね、勇者さま」
「はぁはぁ、甘く見てたわ。まさか魔法騎士じゃなくて戦える聖女だなんて・・・でも、これで私の精神がおかしくなったのも合点がいったわ」
「そっちの理由や都合なんてどうでもいいわ、もういい加減死になさい!」
「身体強化を限界以上かけながら回復魔法使い続けるなんて、聖女ならではの変態技ね、悪いけど手加減しないわ、もうそんな余裕ないから」
「今まで手加減してたんだ、いったい何様のツモリよ!」
「光栄に思いなさい、私が本気で戦うなんて、この世界ではあなたで二人目よ! 身体強化3倍!」
ゴゴゴゴゴ・・・・
地鳴りのような響きがして、クローディアの力が一気に膨れ上がる!
「 !? 」
「さあ、戦いはまだまだこれからよ。聖女さま」
「はあああああああああ!」
「やあああああああああ!」
ガキン!ヒュン!ヒュン!
バシュ!キン!ズザザザザ!
ドゴーン!
それはまさに人外の者同士の戦い!
もう私もカーシャさんに近いステージで戦える!
この女と戦いながら、私はふと思ってしまった。
それにしてもこの女は強い。
かつて戦った王国の召喚勇者加藤ダンでもきっとこんなに強くない。
でも目の前のこの敵は確実にダン以上に強い!それも何倍も!
それでも徐々にクローディアの方が押し始める。
全身を襲う激痛に、徐々に精神の方が自壊していく。
その上、全身の毛細血管から吹き出す霧状の流血でだんだん貧血に陥っていく。
もう集中力を切らすと激痛と貧血で意識が飛びそうになる。
それでも・・・
「くっ、身体強化12倍よぉ!」
ドンッ!ゴゴゴゴ!
「つ、ぐぅううううう!」
さらなるパワーアップ!しかし上乗せした分の激痛がさらに襲う!
「ここに来てさらにパワーアップ!?」
「まだまだこれからよ!」
「しつこい!いい加減に大人しくなりなさい!」
戦いは完全に拮抗した・・・かのように見えた。
しかし私はさらに大量の血を失い徐々に動きが鈍くなる。
もう勝負を仕掛けて終わらせないとすぐに身体が持たなくなる!
覚悟を決め私は勝負に出た!
「勝負! 雷帝彗星斬!」
これまでにない狂気の破壊力を乗せた雷帝彗星斬!
真横一文字にクローディアを無慈悲に襲う!
「身体強化5倍!ジゴブレイク!」
しかしクローディアもさらに身体を強化させた。
身体強化の負荷に肉体が崩壊しはじめ破れた毛細血管から血が噴き出す!
5倍の身体強化で勇者の固有の剣技、ジゴブレイクで迎え撃つ!
どちらも雷撃絡みの必殺剣技!
爆音と共に途方もない電気エネルギーのぶつかり合いに、とてつもない大閃光が走る!
バリバリバリ、ガガーン!
ゴゴゴゴゴ・・・
大閃光の後、放電と燻りがやがて治まり、最後に立っていたのは・・・
残念ながら私ではなくクローディアだった・・・
「そんな・・・ユーシス・・ごめんなさい・・」
私の意識はそのまま闇に飲まれた。
「はぁはぁはぁ、あ、危なかった・・・ほんの少しタイミングがズレていたら負けていたのは私だった・・・」
そして私は、力が抜けガクンと腰が落ち、地面にへたり込む。
限界を超えた身体強化に身体の彼方此方が悲鳴をあげている。
特注の魔剣に組み込まれていた5つの魔石のうち2つが輝きを失せていた。
「帝国最強の召喚勇者と呼ばれた私を、ここまで追い詰めるだなんて思いもしなかったわ。でもよかった。アリサちゃんはなんとか無事みたいね、本当によかった・・」
傍らで倒れているアリサちゃんの頬を触りながらホッと安心する。
やがて騒動を聞きつけ街の人々がやって来た。
ユーシス君とアリサちゃん、それに馬二頭と荷物を拾い集め、集まって来た人達に冒険者ギルドに運んで貰うようお願いした。
「はぁ、明日からどこで暮らそうかしら・・・」
倒壊した我が家を見て、私は頭を抱えながら冒険者ギルドに向かった。




