75.ありがとう、さよなら
「アリサちゃん、今日のところは帰って。
ユーシス君興奮して話し合いにならないから・・必ずアリサちゃんの元に返すから、ね?」
「クローディア、僕は本気だ!本気で君のことが!」
「ユーシス君、ちょっと黙ってて!ね、アリサちゃん。明日ギルドで会いましょう。それまでになんとか落ち着かせるから、ね?」
なに?
私は一体なにを見せつけられているの?
ユーシスが他の女に寝取られる?
違う、ユーシスが他の女を寝取ろうとしてる?
その寝取られそうな女が私を庇う?
なにこれ、なんなのこれ?
理解が全くできない!
“ぐにゃぁ~“
視界が歪み、平衡感覚おかしくなる。
胃液が逆流して込み上げてくる。
「ううう・・・うぷ・・」
「アリサちゃん!?」
「ぐぷっ・・うげええええ・・・」
情報と感情に脳の処理が追い付けず、状況を拒絶するかのように、私は吐瀉物をまき散らした。
「おい、こんな所で吐くなよ!」
「ユーシス君、黙って!アリサちゃん、大丈夫?」
バシ!
背中を擦ろうとするクローディアさんの手を払いのけ、私は吐きながら外に飛び出した!
違う、あれはユーシスじゃない!
私のユーシスはあんな酷いことは言わない!
いつも思いやりがあって優しくて暖かくて・・・あんなゴミを見るような目で私を見たりしない!
こんなことが現実であるわけない!
・・・・
・・
でも、あれはやはりユーシスなんだ、私はユーシスに捨てられたんだ・・・
「いやああああああああ!!!!!!!!」
深夜の静寂な街に、私の断末魔のような絶叫が響き渡った。
翌日早朝、私は一睡もできないまま冒険者ギルドに向かった。
すれ違う人々が、吐瀉物まみれ異臭を放つ私を奇異な眼で見る。
「ホーリーウォッシング・・・」
汚れを落してからギルドの建物内に入る。
そしてユーシスとクローディアさんが来るのを待った。
刻々と時間が過ぎ、夕方になってしまったが二人はとうとう来なかった。
ずっと待ち続ける私を見て、流石にギルド職員が声をかけて来た。
「あの、本日の業務はこれで終了しますが、このままここに居るおつもりですか?」
私はコクリと頷く。
「ではすみませんが、こちらの帳面にお名前とギルドナンバーを記帳下さい・・はい結構です。それでは・・」
その日の晩も私は一睡もできなかった。
翌朝、いつものようにギルドに仕事を求めて冒険者が詰めかける。
そして私の姿を見て流石にヒソヒソと囁かれる。
夕方になったが今日も二人は現れなかった。
「今日もここにお泊りですか?」
私はコクリと頷く。
「では帳面にお名前とギルドナンバーを記帳下さい・・はい結構です。それでは・・」
私はまた石のように固まり二人を待つ。
もうクローディアさんの家に詰めかけた方が良いのだろうが、もし二人が一線を越えている現場に遭遇した時とか想像すると脚がすくんで動けない。
そんな私を不審に思い、いつかの3級冒険者3人組に突然話しかけられた。
「ねえアンタ、もしかしてユーシスにフラれたのかい?」
ビクッ・・カタカタカタ・・
その一言に、身体が跳ね上がりカタカタと震えだす。
涙腺が膨らみ涙が零れそうになるのを必死で堪える。
「え、まさか図星かい!?こりゃいいや、ザーマーミロだw」
「ざまぁw」「ざまぁw」
「「「「「 ざまぁw 」」」」」
突如女性冒険者達から沸き上がる“ざまぁコール“。
「女は怖いな」
「ああ、全くだ。どれ、助けて来るか」
名も知らぬ男性冒険者がニヤニヤしながら近づいてきた。
「おい、おまえら、はしゃぎ過ぎだ!ちょっとは相手の身になってやれや!」
男性冒険者はそう一喝して女性冒険者達を黙らした。
「悪かったな、あいつ等も普段はそんなに悪い奴らじゃないんだが、なんせここ数日のアンタの行いがな・・・いや、アンタは全く悪くないんだが、その分かるだろ?」
「・・・・・」
「なあ、もしかしてアンタ昨日から何も食べてないんじゃねーか?
それじゃ身体壊すぜ、良かったら一緒に飯でも食いに行こうや。
話くらい聞いてやれるぜ。
ここに居たって仕方ねーだろ、な?
アンタの心に開いた穴を俺が埋めてやるからよ、なあ」
男性冒険者が私の肩に手を回し身体を引き寄せる。
私は流されるままに身体を預けてしまった。
男性冒険者はニヤリと笑い、
「よっし、それじゃ行こうぜ!」
と言いながら強引に連れて行こうとした。
「あーあ、あの子可哀そうに。確実に寝取られるな」
誰かがそう呟いたのが耳に入ったと同時に、昔ヤンマさんとマランパさんが言ってた言葉がフッと頭に湧いて出た。
『しかもそんな心境の時って寝取られやすくなるし』
『俺が独り身ならチャンスとばかりにアリサちゃんを寝取るね、間違いなく』
「 ! は、離して!」
一瞬にして我に返り男性冒険者を突き放す!
「いてぇ、何しやがるこのアマ・・!?」
男が振り向くと同時に抜剣して喉元に剣を突き立てる!
フーッ、フーッ、
威嚇する猫のような息をして男性冒険者を見据えた。
「ひぃ、わ、悪かったよ、ほんの出来心なんだ!勘弁してくれ!」
そう言って男はソソクサと逃げていった。
わ、私は今なにをされようとしていたの!?
何を受け入れようとしていたの!?
流されかけた自分の行動に思わずゾッとした。
あんな下衆な冒険者に流されそうになるだなんて、よほど憔悴している証拠だ。
ヤンマさんとマランパさんの言葉のおかげで助かった・・
今ので一瞬だけ頭が冴えた。
少し考え、私は意を決してクローディアさんの家に行くことにした。
最悪の幕引きだったとしても構わない、兎に角自分の時計を進めないと駄目になる!
そう決意したはずなのに・・・
ギルドの正面ドアを開け外に出たとき、ユーシスとクローディアさんと鉢合わせしてしまった。
ユーシスはクローディアさんの腰に手を回し引き寄せて、二人はこれ以上ないくらい寄り添っていた。
「アリサちゃん、違が・・」
「なんだ、まだ居たのか」
冷たいユーシスの声に、身も心も完全に凍えてしまった。
終わった・・
今度こそもうダメだ。
私の心は完璧に砕かれてしまった。
「ユーシス、今までありがとう。わたし王都に帰るね・・・
クローディアさんとお幸せに・・さよなら」
踵を返しその場を立ち去ろうとした。
「待って、アリサちゃん、話を、話を聞いて!」
クローディアさんが必死で呼び止めようとする。
「もう私に構わないで!」
私は逃げるように走り去った。




