73.クローディアのモデル
私とユーシスは冒険者ギルドを出て馬屋付きの宿を探した。
ほうぼう探してみたけど、空いているのは一軒だけ、ただしシングルルームでユーシスとは別々の部屋になる。
人肌恋しくなっていた私には少し残念だったけど、ベッドがかなり小さいので無理やりシングルルームに二人泊まるのは厳しそうだ。
割と安い宿代だったこともあり、私達は諦めて一人一部屋ずつ部屋をとった。
よく朝6時30分頃目を覚まし、ユーシスを起こしに彼の部屋に行く。
トントン
シーン
反応が無い。
部屋を間違えた?そんなことない、いやあってる。
ドアノブを回すと“カチャリ“、鍵はかかっていなかった。
「ユーシス、入るね?」
そう言いながら部屋に入りベッドを見るとユーシスは寝息をたててまだ眠っていた。
珍しい、いつもは布団を被りながらも私より先に起きてるのに・・
でもユーシスの寝顔見れて嬉しいかな。
幸せそうな顔して、もしかしたら私の夢でも見てるのかなぁ・・ふふ、私も幸せよ・・
とニマニマしながら眺めてたら・・
「ん~、クローディアさん、モデルになってくだしゃい・・むにゃむにゃ」
「・・・・」
幸せな気分が一気に吹っ飛んだ。
「ほら、ユーシス、早く起きて!いつまで寝てんの!」
肩をつかんで豪快にユッサユッサ揺らして起こしてやった。
「あれ、クローディアさんは?」
オノレ、まだ言うか!
さすがにカチンときてユーシスの頬を“パシーン!”。
「いたい」
その後、ユーシスを引きずるようにして冒険者ギルドに向かった。
ギルドに着いて私達は依頼掲示板に向かう。
路銀稼ぎに何か手ごろな仕事は・・なるべく血をみないやつで。
〈薬草採取〉〈倉庫の荷物運び〉
〈どぶ攫い〉〈公園の花壇の植え替え〉
どれも一人8000ルーブル。
宿代くらいにはなるかな。
「絵描きのあんちゃん達、なんでそんなショボイ依頼を受けようとしてんだ?」
「なんでって、手頃だから・・」
「ダメだよ、そんなの受けちゃ。そういうのは5級以下の冒険者に回してあげないと、あんたらはコッチ!」
〈巨大怪蛇アオダイショー!!大秘境ヒモト! 底なし沼に恐怖の河童は実在した!!〉
〈巨大怪奇地底都市!!美少女フィギア発見!幻の黄金宮殿の謎を追え!!〉
〈暗黒の魔境アコック大陸奥地3000キロに幻の原始魔族を追え!!〉
〈緊急特報!魔族領奥地の生き残りスラヴ聖国兵を追え!!〉
〈衝撃!魔境オリヨール奥地に幻の巨大獣人娘を追え!!〉
〈伝説の探検者!!ヒロ・シ・カワグーチの軌跡を辿れ!!〉
「さすがにネタだよな・・・」
「ヒロ・シ・カワグーチ・・て誰?」
「すまん、そりゃ冒険者じゃなくて探検者向けのクエストだった。こっちだ」
〈死の森のアンデッドの討伐〉〈北のダンジョン6階層のマッピング〉
〈原人ヒババンの捕獲〉〈野良ワイバーンの討伐〉
〈グリーンドラゴンの鱗三枚以上〉〈ラミア神殿調査員募集〉
〈南の強盗団の人質救出〉
「「強盗団・・」」
私もユーシスも忌まわし記憶が呼び覚まされた。
どうせクエストを受けるなら・・・
「その強盗団の件なら20人ほどの共同クエストだぜ、15分後に出発予定だ」
「時間はどれくらいかかりそうです?」
「たぶん昼過ぎには余裕で戻れると思うぜ」
結局、強盗団クエストを受け、そつなく完了し昼前には戻って来た。
一人当たり60000ルブル、二人で120000ルブルの報酬。
花屋の頃と比べて金銭感覚がおかしくなるなぁ・・
ユーシスの方はどうなんだろうか。
鍛冶屋さんは結構高額商品扱うから、金銭感覚に変化はないのかもしれない。
午後2時。
私達は一旦外に出て食事と買物をした後、冒険者ギルドに戻って来た。
明日のクエストで良い物が無いかと掲示板を見ると、探検者向けクエストが二件無くなっていることに気が付いた。
あれ、ネタじゃなく本当の依頼だったようだ。
どんな人が受けたんだろう・・・
結局クエストの更新は明日の朝でないと行われないようだ。
「あれ、ユーシス君達、そちらのクエストはもう終わったんだ?」
見ればクローディアさんが大きな袋を担いでクエストから戻って来た。
「クエスト無事達成ね。あとこれ途中で魔獣化したヒグマの頭部と肝臓ね、適当に換金して振り込んでおいて。よいしょっと・・」
そう言って袋ごと受付カウンターに渡した。
面倒な手続きも顔パスで済ませクローディアさんがこっちに来る。
「昨日はありがとうね。なんせこのギルドのクエストって魔獣メインだから人間タイプと戦う事って滅多にないのよ。今日はあったみたいだけどね」
「ああ、だから試合を求めたんですか。でもそれなら他の冒険者でも良かったのでは?」
「それがこのギルドって私を除けばトップランカーは3級中位の人なのよ。だから弱くて私の相手は務まらないの」
だから私達に試合を申し込んで来た訳か。
どおりで最初会った時に3級なのに駆け出しって点に食いついた訳だ。
「さてと、それじゃ行きましょうか」
「へ?どこ行くんです?」
「ん?私の家だけど?他がいい?」
「ギルド内で描くつもりだったから・・」
「でも、ここでたくさんの女の人描いたんでしょう?背景とか変える方がよくない?」
「いいんですか?」
「もちろん、ていうか家に来てくれないと困るし・・ダメ・・かな?」
ちょっとクローディアさん!
なに上目遣いで頬を赤く染めてるんですか!
て、よく見たら、熊の返り血で頬が赤く染まっていただけですね。
それはそれとして、
「ストーーップ!、いくらなんでもいきなり家に連れ込んで二人きりって、何考えているんですか!」
「いや、もちろんアリサちゃんにも来て貰うつもりなんだけど・・?」
「え、あ・・そうなんですか? でもワザワザ家までいかなくても・・」
最近、神経過敏になってしまったせいか、どうも良くない方向にしか考えが行かない。
でも家までワザワザ行くほどのモノでもないでしょ?
ここでいーじゃない。ちゃっちゃと描いて帰ろう?ね?ユーシス。
「いやほら、熊の頭と肝臓背負ってきたから獣臭が染み付いちゃってさ、服も血が付いてるし、これで絵のモデルってのはちょっと・・」
「うぐぅ・・たしかに・・」
「それに家に戻ればいろんな服があるしさ、ユーシス君のお好みの服を着てあげるよ!」
あー、これはもうダメだ。
こうまで言われてユーシスが断るわけがない。
結局三人でクローディアさんの家に向かった。
「さあ、入って!」
「お邪魔します」
クローディアさんの家は街の一番奥にあって、周囲に他の家がない一軒家。
1階はリビングダイニングキッチン、2階は寝室とクローゼットらしい。
「とりあえず飲み物置くね。好きに飲んでて。
獣臭いから先にシャワー浴びてくるから」
そう言って彼女はシャワーを浴びに行ってしまった。
それにしても、うん、なんだろうこの部屋・・少し甘い香りがする。
女性とは言え冒険者にはおよそ似つかわしくないような・・・甘いフェロモン臭?
なんだろう、凄く不安だ・・
「おまたせ、じゃあ服選びにいこうか」
アダルトな桜色のバスローブに身を包んだクローディアさんが2階のクローゼットに向かおうとする。
しかしユーシスがそれを止める。
「あの、そのバスローブ姿でもいいですか?」
「いいけど・・でも下着だけ履きにいっていい?」
いやこれもうワザとだよね?絶対誘惑してるよね?
ああ、案の定ユーシスが真っ赤になって固まってるし!
「ユーシス君?」
「あ、はい、もちろんでしゅ・・す」
「くす・・色は何が好みかなぁ?黒とか?」
いやいや、絵を描くのに下着の色は関係ないでしょ?
それにユーシスの好む下着の色は昔から白一色なんだから!
ユーシスのことなら私なんでも知ってるんだから!
「じゃあ黒でお願いします」
「・・・・」
とりあえず明日黒い下着を買いに行こう、そうしよう・・・
「それで、どんなポーズがいいかな?」
下着を履いてきたクローディアさんが尋ねる。
「じゃあソファーの上で足を組んで頂いて・・そう、そんな感じでお願いします」
組んだ脚がローブの切れ目から露出する。
物凄く淫靡な雰囲気なんですけど・・・
「じゃあ始めます」
「はい、よろしく」
いよいよ始まった。
今日は鉛筆画によるラフスケッチのようだ。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
「ねえ、ユーシス君、描かれながらお話することとか大丈夫かな?」
「顔描いてるとき以外なら大丈夫ですよ」
「ん、了解」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
「ねえ、もしかして今って胸まわりとか描いてる?」
「よくわかりますね、その通りですよ」
「やっぱりねー、なんか胸まわりがサワサワと感じたもん。なるほどー、こんな感じかぁ」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
「ん~、今は露出した脚を描いてるかな?なんかゾクゾクきたけど」
「ほんとに良くわかりますね、正解ですよ」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
「今は首筋から顎あたりかな?」
「ああ、すみません今は動かないで下さいね」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
「はい、お疲れ様でした。終わりましたよ」
「おお、見せて見せてー!すごーい!」
クローディアさん、全然平気そうだ。
魅了耐性って本当なのね。
描いた絵を見て普通に喜んでる。
健全だ。
「クローディアさん、ありがとうございました!」
満面の笑みで喜ぶユーシス。
「あはは、こっちも楽しかったよ。私、夕食後ならいつも暇してるから良かったらまた二人で遊びにおいで」
「はい、喜んで!それじゃ今日はこれで失礼します!」
「クローディアさん、ユーシスの我儘に付き合わせてすみません、ありがとうございました」
結局全ては私の杞憂だったわけだ。
不安が解消され、張っていた気が無くなり、いきなりどっと疲れが出て来た。
はぁ、もうこの街出て早く次の街に行こう。
しかし後日、私は思い知らされる。
杞憂は杞憂でなかったことを。




