68.一応の決着 / 魔法剣士クローディア
リヴニの街 冒険者ギルド 裏の倉庫
「誰?」
私は拍手の元を見た。
「そんなに警戒しないで、私は冒険者のクローディア。宜しくね」
「・・・・」
銀色に煌めく長い髪に、整った切れ長の目と通った鼻すじ、耳が尖っていればエルフと間違えそうな長身の美女が自己紹介してきた。
「私はアリサ、旅の冒険者です」
私は警戒を解かない。
このギルドに来てから女性冒険者や女性職員の嫌がらせに合い、女性は敵にしか思えなくなっていた。
その原因は私達自身にあるのだけど・・
「ふふふ、まだ警戒してる?さっきあなたが三人組に連れていかれるのを見かけてね、何かあったら助けようと思ったんだけど、必要なかったみたいね」
あれ、この人はなんか違う?
もしかして普通に良い人なんじゃ・・
「さ、ギルドに戻りましょ。ここは冷えるわ」
クローディアさんに手を引かれて私はギルド屋内に戻ると、ユーシスの周りは人だかりが出来ていた。
もちろん女性ばかりで。
「ユーシス!」
私が大声でユーシスを呼ぶと、助かったとばかりにユーシスがこっちに来た。
女性達は“チッ”っと舌打ちして解散した。
「えっと、彼氏さん?私は2級冒険者のクローディアといいます。宜しくね」
合流したユーシスにすぐクローディアさんが挨拶する。
「あ、初めまして、僕は・・」
ユーシスは挨拶しかけて途中でフリーズした。
「ユーシス?」
「え、あ・・すみません。あまりにも凄い美人だから思わず・・ユーシスと言います。旅をしている3級冒険者です。」
ユーシスが他の女性に見とれるなんてとこ初めて見た。
いい気はしないけど、クローディアさんなら仕方ないかも。
私から見ても絶世の美女だし。
―トゥクン♪
「あら美人だなんて嬉しい、胸が鳴っちゃうわ。で、冒険者・・ですか?ごめんなさい、てっきり婦人画専門の画家さんかと・・するとジョブは?」
「一応魔法騎士で登録してます。クローディアさんは剣士ですか?」
「うーん、ハズレ。私は魔法剣士で登録してるわ。アリサさんは魔術師でいいのよね?あれ、でも帯剣してるし・・?」
「私も魔法騎士で登録してます。駆け出しですけどユーシスと同じく3級冒険者ですよ」
「駆け出しなのに3級?ということは最低でも3級の実力、実際は3級以上かもしれないってことだよね?」
駆け出しが冒険者登録する時は、どんなに実力があっても上限は3級までという規約がある。
私達の話のやり取りを聞いて周囲が騒めいた。
(魔法騎士?ユーシスって画家じゃなかったの!?)
(ポーター名目で奪おうとしてたのに魔法騎士!?)
(女の方も魔法騎士でしかも3級だって?)
(道理で勝てないわけだ、騙されたわ、ちくしょー!)
(でも私達、魔術でコテンパンに撃退されたけど・・なんで!?)
ざわざわ・・
ざわざわ・・
ギルド内は私とユーシスの件で持ち切りになった。
居心地が凄く悪い。
そんな中、誰かが外を見て呟いた。
「あ、雨が止みそう!」
いつの間にか止みそうになかった雨が、今は小雨に変わり遠くでは陽光がさしていた。
王宮 王の間(謁見の間)
なんとなく話がまとまり、結局全ては逆賊【謎の男】を炙りだすための芝居ということで召喚者達には無理やり話を通した。
もちろんそんなことを納得するものなど誰も居ない。
その上、この国の影の最高権力者は実はアクサナ王女ではないのかと思い始める者も出始めた。
ヨシュアとカーシャ達に対しては、絶対に歯向かってはいけない存在であることを、召喚者達は魂にまで刻みこまれた。
それまで俺TUEEE!とばかりに好き放題していた召喚者達にとって、ヨシュア達の無双ぶりには心底怯えさせられた。
最後までパニックに陥らず自分を保っていられたのは桐生院菫と加藤禅を含むほんの数名だけだった。
あと途中で気絶した田中カオスは、ヨシュア達の一番恐ろしい所を見なかったので、ある意味幸せかもしれない。
なおこの日の召喚者達の失禁率は82%にまで登ったらしい。
召喚勇者内では最弱と思われていた小西道夫達が、実はかなりの実力上位者であることが分かり、その上ヨシュアやカーシャ、さらにはアクサナ王女と何らかの繋がりがあることが発覚したおかげで彼の株は急上昇!
召喚勇者パーティーに属さないクラスメイトの女子達が目を付け、あわやハーレム状態になりかけたが、これはまた後日の話。
「アクサナ殿下、ミルーシャの件でお話があるのですが」
ピクッ
ヨシュアからミルーシャ絡みの話・・
アクサナにとってミルーシャは触れて欲しくない件だった。
元々始祖の勇者からしてそうなのだが、勇者は聖女を求めるよう創造の女神テラリュームがプログラムしていた。
それを改変・劣化し実装したのが慈愛の女神セフィースの召喚勇者達である。
召喚勇者達は本能的に聖女を奪おうとするよう作られているのだ。
その上、召喚者達は活動時には軽い興奮状態になるよう王国側がコントロールしていた。
そうしないと召喚者達は“魔物の命を奪う事を躊躇いレベル上げがままならない”からだ。
その影響が悪い方向にも出て、ただでさえ聖女に対して異常とも言えるほど偏執的かつ残虐的な彼らは輪をかけて酷くなった。
そしてミルーシャも実にあっさり奪われてしまった。
ただそれでも、近年アクサナ王女が引き継いでからは、随分マシになった方だと言える。
2年前、召喚事業の前任者である宮廷魔術師長エウロパ17世より、奪うように引き継いだのがアクサナなのだ。
アクサナは元々異世界人強制召喚・勇者召喚には反対の立場を表明していた。
と言うより今も心情的には何も変わっていない。
話を元に戻し、ミルーシャの件だが、実はミルーシャの拉致には召喚勇者だけでなく、テラリューム教聖堂騎士も一枚かんでいた。
~
ミルーシャを拉致同然に警護していたあいつ等、
“我ら女神テラリューム様の加護を受けた聖堂騎士団こそ最強!“
そう豪語していた神殿の奴らは一体何だったのか?
結局のところ加護とやらは自称の紛い物集団でしかなかった。
あれならうちの騎士団の方がずっとマシだ。
~
アクサナ王女は心の中で毒づいた
こういう話はスラヴ王国だけの話ではなく、召喚勇者保有国全ての国が頭を抱える問題であった。
ちなみに本能的に聖女を求める影響は、召喚される前に(斎藤真美のパワハラによって)性格性質を変貌させられていた小西道夫にも多少現れていて、女性が苦手な道夫ですら聖女に対しては悪くない印象を抱いている。
流石に襲ったりすることは無いが。
ヨシュアに対し、一呼吸してから応じるアクサナ王女。
「伺いましょう」
「田中カオスが手籠めにしている聖女ミルーシャですが、今後はこちらで保護します。これはお願いではなく、確定事項だと思い下さい」
アクサナ王女にとってヨシュアの話は意外としか言い様が無かった。
そんなことをすればどうなるか、真正勇者であるヨシュアには分かって当然だからだ。
「それは・・こちらとしても有りがたい話なのですが、その・・彼女の生い立ちを考えると、田中カオスの魅了下から解放されるとほぼ間違いなく自害することが確認されております。私達には破滅の未来を視る者がおりますので確実に分かるのです」
「丁度いい、その者に僕がミルーシャを保護した場合、彼女が破滅に向かう未来があるか確認してもらえませんか?」
アクサナ王女はベティ・ライカーを呼び、ヨシュアがミルーシャを引き取った場合、ミルーシャが破滅の未来を辿るかどうかを調べさせた。
結果はミルーシャには破滅の未来は無かった。
ただそれが幸せな未来なのか不幸な未来なのかまではわからなかった。
ベティが未来視をするにはあまりにも小さな問題だったからである。
「大丈夫のようですね、それではヨシュア様の命令のままに従います。ミルーシャを連れて帰って下さい」
アクサナ王女は深々と頭をさげヨシュアの話を受け賜わった。
「勝手に決めないでくれるか?ミルーシャを渡すなんて俺は許可した覚えは無いぞ」
道夫にぶん殴られ今の今まで気絶していたカオスは、目が覚めるなりミルーシャが勝手に奪われようとしていることに激怒した。
「申し訳ございませんが、あなたにこれ以上豊穣の聖女様をお任せすることはできません。あなたの世界でDVと言うのでしたっけ?聖女様を殴りつけるような者に、どうしてお任せできましょうか?」
「へーそうかい、だったら王女様、アンタが新しいペットになってくれよ!勇者の魅了!」
ギパァ!っとカオス目が開き、至近距離からどす黒いオーラがアクサナ王女のつぶらな瞳に捻じ込まれようとする!
・・・・・・
しかしまあ当然と言うかアクサナ王女には通じなかった。
逆にカオスの首を鷲摑みする!
「殿下は王位継承権第一位です。そのために御身を犠牲にし学問・知識・高等魔術・体術を徹底的に学び鍛えられて来ました。その殿下に対し勇者の魅了などという外法が通用する訳がありません。さらに言えば殿下は召喚勇者如きに後れを取る程弱くはありませんよ」
未来視で呼ばれたベティが頼まれもしないのに解説役を買って出た。
「あら、先生にそう褒められると、なんだかこそばゆいわね。さて本来なら私に不敬を働いた罪でロイヤルフレアで消滅させても良いのだけど・・」
「殿下、おやめください。ロイヤルフレアは最大摂氏2000万度です。この者どころか王宮そのものが融解してしまいます」
「冗談よ。ロイヤルフレアなんて使う訳ないじゃない」
「でも先ほど国王陛下と王子殿下に向かってロイヤルフレアを打ちかけましたよね?」
ベティがツッこむ。
「ごほ、そうだっけ?そんな昔のことは忘れたわ。
まあ他の者の目もあるし、何より私達が呼び出した責任もある。
今回は見逃してあげるからミルーシャの勇者の魅了を解いて去りなさい」
アクサナ王女はそう言ってカオスの首から手を離した。
「クソ、今に見てやがれ!」
捨て台詞を残しつつもミルーシャの勇者の魅了を解除し去って行った。
「殿下、ミルーシャがまだ起きないよう、どなたかに睡眠魔法を重ね掛けして頂きたいのですが」
「それなら私でも大丈夫です。
その代わりと言う訳でもないのですが、召喚者達の能力を復活させて頂けませんか?
他国にこの状況がバレると、明日にでも宣戦布告されてもおかしくないので・・ユシュア様が代わりに戦って下さるなら話は別ですが」
アクサナ王女にとって、これはかなり切実な問題だった。
ガバナス宰相に化けていた工作員は確かに捕らえる事が出来た。
しかし、工作員は彼一人とは限らないのだ。むしろ複数紛れ込んでいると思う方が妥当だろう。
そいつらが、もしも自分達の国なり組織なりに連絡を入れたら・・
そう思うとアクサナは気が気ではなかった。
「それならとっくに元通りです。先ほどの者も勇者の魅了を使っていたでしょう?」
そう言えばとアクサナは先ほどのカオスを思い出して納得した。
それから気を失っているミルーシャに強睡眠魔法を掛けなおした。
「それと我々の今後なのですが、悲しいことに無職になってしまったので、明日からの生活が・・」
ヨシュアの傍でシュンとした表情のカーシャが項垂れている。
大慌てでアクサナ王女が答える。
「いやいやいや、あれはあくまでも敵を炙りだすための演技・お芝居ですから!本当に解体解雇なんてしませんから!」
第三独立小隊の隊員から安堵の声が漏れる。
特に妻子持ちで最近マイホームを購入したアイザックは嗚咽を漏らして喜んだ。
アクサナにしてみれば、隊員達が職失って露頭に迷うことなんかより、あれほどの力を持つ者を野放しにすることの方が問題だった。
コントロールはできないものの、せめて自分の近くに置いておきたい。
為政者としては当然の思考である。
「アクサナ王女様、今日でなくていいのでお時間頂けませんか?僕達の事で大事なお話があります」
ヨシュア達の話が終わりかけた頃、道夫はアクサナ王女に謁見のお願いをした。




