66.アクサナ第二王女のターン
「こ、この役立たずがあああーーーーーーー!」
パシーン!
ミルーシャを平手打ちした音が王の間に響いた。
「きゃっ!」
まるで容赦のない平手打ちにミルーシャは脳震盪を起こし倒れてしまった。
「おいミルーシャ!勝手に寝るんじゃねえ!」
気を失ったミルーシャをなんの躊躇もなく往復ビンタの嵐!
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
ミルーシャの美しい顔がみるみるうちに赤く腫れあがって行く!
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
道夫は一瞬で距離を詰め、カオスの顔面を渾身の一撃でぶん殴る!
ズガッ! ダン! ズザザザザ! ガン!
殴られ、床に叩きつけられ、転がり、壁にぶつかり、カオスは意識を失った。
「カオス君!」
カオスのパーティーメンバー、元担任女教師にして現女騎士・木下友里が悲鳴を上げながらカオスの元に駆け寄る。
そして醜く歪んだ顔で道夫を睨みつけた。
そんな友里に対し悲しく微妙な思いを感じつつ、ミルーシャを抱き上げカーシャの元に走る。
「カーシャさん、お願いします」
「回復!」
瞬時にしてミルーシャの腫れあがった顔が元の美しい顔に戻る。
「殿下、どうやら来たようです」
アビゲイルがアクサナ王女に声をかけた。
アクサナ王女は驚愕の表情で窓の外を見据える。
「こんなモノがこの世に存在するなんて!」
そのまま窓に駆け寄り改めて外の様子を見て、さしものアクサナ王女も腰を抜かしそうになった。
30メートルを優に超える巨大な白銀の聖竜!
それが8匹も威風堂々と空を飛び回っている。
およそこの世の出来事とは思えぬ情景、それが私達に牙をむく!?
絶望と言うには生ぬるい絶対的な死・・“絶死“が見えてしまった。
アクサナ王女は逃れられない“絶死”を受け入れるべく観念した。
今はまだこちらを攻撃してこない。
おそらくヨシュア達のコマンド待ちなのだろう。
だがそれも時間の問題だ。
-----アクサナは思った
ステンラは間に合わなかった。
しかし間に合わなかった彼女を責めるつもりはない。
だけどこの絶死はあまりにも理不尽だ。
なぜ、どうしてこうなった?
そんなの決まっている、あの国王・第一王子・宰相のせいだ!
三バカ達の軽率な行動が国を崩壊させる?民の幸せが壊される?
そんなこと許されていいはずがない!
アクサナ王女は全ての魔力を集中させ国王・第一王子・宰相に狙いを付ける!
彼女の最大の爆炎魔法“ロイヤルフレア”!両の手に魔力が増大していく!
あの三人を殺したところで結果はおそらく何も変わらない。
そんなことは分かっている。だがそれでも!
「死ね!愚かなる為政者ども!ロイヤルフレ・・」
しかしその言葉はアビゲイルによって遮られる!
「殿下、お待ちください!来ましたよ!」
「なんですって!?」
「あそこです、殿下!ステンラが来ました!」
上空を旋回する聖竜など臆することもなく、ステンラ筆頭諜報員がこちらに向かって一直線に走ってくる!
アクサナ王女は思わず窓から身を乗り出し、必死で走るステンラを確認した。
「ステンラ、ここよ!」
アクサナ王女に気付いたステンラが大声で応える!
「殿下、証拠を!確実な証拠を掴みました!」
“確実な証拠!待ち望んだ言葉が現実に!
ああ、ステンラ、ありがとう、本当にありがとう!“
「殿下、これを・・」
アビゲイルがアクサナにハンカチを渡す。
絶望と怒りと歓喜の涙でアクサナの可憐な顔はグジュグジュになっていた。
「殿下、まだ未来は二つあります!【破滅の未来】と【平常の未来】です!」
ベティの希望となる力強い言葉を耳にしながらアクサナは顔を拭き整える。
バン!と裏扉が開きステンラが飛び込んできた!
「殿下、お待たせして申し訳ございません!証拠と説明を致します!」
ステンラの証拠を受け取り、説明を聞き入れるアクサナ王女、瞳が希望と活力に満ちはじめる!
アクサナはアビゲイル、ベティ、ステンラに向き合い感謝と檄を飛ばす。
「みんなありがとう。さあ、ここからは私達のターンよ!」
アクサナ王女は踵をかえし阿鼻叫喚の地獄絵図と化した王の間を見据えた。
「お、おい、外を見て見ろ!」
「な、なんだありゃ!?」
「ドラゴン!?」
召喚者達が外を飛び交う巨大な聖竜に気が付き騒めく。
「ドラゴンじゃと!?」
「まさか本当に聖竜が!?」
騒ぎを聞きアドリアン王とレイモンド王子は窓の外を見る。
飛び交う聖竜に瞬きするのも忘れ、二人はそのまま固まった。
そんな騒めきをヨシュアは耳障りと思ったのか軽く右腕を振る。
その瞬間、
ゴアアアアアアアアア!
聖竜達が一斉に咆える!
さらに
ガラガラガラ、ドシャーン! ゴロゴロゴロ・・
8匹の聖竜達が一斉に落雷を落とした!
凄まじい轟音と閃光!
空気がビリビリと震えた。
「ぎゃああああ!」
「助けて!助けてぇ!」
「死ぬ・・殺される・・」
パニックに陥った何人かが走り逃げようとした。
しかしそれは叶わない。
ザンッ!ザンッ!バキャッ!
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
「ごおおおお!」
突然逃げようとした者達の四肢が吹き飛んだ。
「ひいいいいいいい!」
「父上、謝りましょう!謝って慈悲をお願いしましょう!」
壇上のアドリアン王とレイモンド王子、もはや王族の威厳もなくガタガタと震え慈悲を乞う事しか頭にはなかった。
「父上、兄上、無駄ですわ、真正勇者が聖竜まで呼び出した以上、もはや慈悲はありません」
震える二人の後ろからアクサナ王女が話かける。
「ここから私にお任せください。
お二方は私を信じて合わせて頂けますようお願いします。
手順や言葉に少しでも間違いがあれば、今日のうちに国が滅びるものと覚悟してください。
では・・」
アクサナ王女はそう伝えて二人の愚か者から離れた。
「アビィ、ガバナス宰相が逃げようとしたならすぐ拘束なさい。無理なら殺しても構いません」
「御意」
「ベティ、全ての扉を封印しなさい。誰一人外に出さないよう、もちろんガバナス宰相もです」
「御意」
「ステンラ、一緒に来なさい。これからガバナス宰相を断罪します」
「了解!」
「さあ、勝負を賭けるわよ!」
アクサナ王女とステンラ筆頭諜報員は、血にまみれた王の間中央に向かって歩き始めた。




