61.アクサナ王女の憂鬱
スラヴ王国 王宮 第二王女執務室
「殿下、判明いたしました」
そう言って私アクサナ第二王女に報告に来たのは、第二王女直属の若き筆頭諜報員ステンラ・アクター(女性)だ。
執務室には私の他にアビゲイル・ライカーとベティ・ライカーもいる。
「ご苦労様、かまわないから報告して頂戴。国王と第一王子、宰相は今日何をするつもりなのかしら?」
紅茶を飲みながらステンラに報告を促す。
一昨日、今日の王宮会議で招集する勇者とそのパーティーメンバーを正装ではなく武装して来るようにと通達があったらしい。
その理由をステンラに調べさせていた。
「はい、結論から言うと第三独立小隊の解体・除名とその場での公開処刑です」
「ブハッ! は? 今なんて?」
「ですから第三独立小隊の解体・除名とその場での公開処刑です」
流石の私も盛大に紅茶を拭いた。
慌ててベティが吹いた紅茶を片付けてくれる。
「彼らの罪状は?」
「聖女アリサを誘拐した罪人ユーシスを幇助した件ですね」
「証拠は?」
「怪しくはありますが何もありません。そもそも聖女アリサが行方不明になる前に、第三独立小隊は王の勅命によりトリコロールに向かった事が確認されております」
「はぁ?そんなじゃ立件できないでしょ?うちは王政だけど法治国家のつもりなのよ!?」
「どうやらアドリアン王とレイモンド第一王子がガバナス宰相に唆されてしまったようです。お二人は以前からヨシュア殿とカーシャ殿、その子飼い達を廃除したがっておりましたから。お三方は全召喚勇者パーティーをぶつければ勝てると判断したようです」
なんてこと!
きっと昨年の召喚者が豊作だったことで調子に乗ったんだわ。
「うん、まあ分かる。私もどちらかと言えば邪魔っけに思ってたから。だからって実行に移す!?仮に勝てたとしても戦力の低下は免れないでしょうに。そうなれば帝国や連邦が黙ってはいないわ」
東には東スラヴ帝国が、南にはアドレア連邦が虎視眈々と我が国の隙を狙っている。
こんなの奴らにとって絶好のチャンスどころかボーナスゲームでしかない。
「その通りです。恐らくヨシュア殿とカーシャ殿に勝とうが負けようが王国は戦力を大幅に消失し、その後は帝国と連邦に対する国土・利権の切り売り、王国のガレージセールが始まるでしょうね」
アビィが淡々と最悪の未来を予想する。
うわー、最悪!マジ最悪!
必然として国が亡ぶのは仕方がない。
でも国王・第一王子・宰相の暴走で国が亡ぶとか勘弁してほしい。
私は滅多に噛まない爪を噛みながら考えた。
このアホな悪だくみの実行を決定したのは国王だけど、情報を与えるのは宰相。第一王子は勢いに任せて背中を押すだけだろう、バカだから。
正確な情報を把握しているのなら、あの宰相がこんな愚かな決定を許す訳がない。
許すには何か訳があるはず・・・
「ステンラ!」
「はっ!」
「大至急宰相とその配下を調べなさい。部下達が偽情報を流しているかもしれない、もしかすると宰相そのものが敵国のスパイの可能性があります。あと召喚勇者のうちまだ信用できそうな者をピックアップしといて!時間が有りません、悪いけど事が起こるまでにお願い!」
「御意!」
ステンラは踵を返し部屋を飛び出して行った。
「ベティ、今どんな未来が見えてる?」
「申して宜しいので?」
「あなたが含みのある言い方をする時は、決まって悪い事なのよねぇ。いいから話してみて」
「はい、現在のところ4つの未来が見えております」
ベティ・ライカーはアビゲイル・ライカーの妹で「時空召喚士」であると共に、「破滅の未来視」を得意とする。そのため宮廷内では「破滅の預言者」とも呼ばれていた。
元々は姉妹共々隠者であり、アクサナ王女の魔術の教師として王宮に招かれたのが付き合いの始まりだ。
「一つはヨシュア殿に一方的に蹂躙され王室が壊滅し、王家の一族は火あぶりの計にて公開処刑されます」
「一応聞くけどその中に私も?」
「もちろんでございます」
「最悪」
「もう一つはヨシュア殿に一方的に蹂躙されはしますが王室は健在する未来です」
「そ、そう。もうその辺で手を打つべきかしら」
「その場合、戦力を失った王国は半年後に帝国と連邦の侵攻を受け、国土の70%を失います。さらに1年後には世界地図から王国が消えます」
「これも最悪」
「もう一つはヨシュア殿の逆鱗に触れ、創造の女神テラリューム様の力を行使し、王都がその日の内に灰塵と化し、即日で国が滅びます」
「ちょ、一番駄目じゃん」
「ヨシュア殿、カーシャ殿、そして聖騎士達が8匹の聖竜を操り王宮を焼き払い、雷を落とし、灰塵と化し、阿鼻叫喚の中を逃げ惑うアクサナ殿下の元気な姿が見えますね」
「細かい実況ありがとう・・て、聞きたくないわ!」
「申し訳ございません」
「あーこれもう、どう転んでも絶望ね。短い人生だったなぁ・・」
「最後の一つですが、話しますか?」
「あー、うん。一応聞いておくわ」
「最後の未来はヨシュア殿が激怒し聖竜が飛来するものの、ほとんど損害を与えずに引き上げます。翌日から王国はなんら変わらず平常運転です」
「え、そんな未来があるの!?」
「はい、ただしこれは一番確率の低い未来です」
「どうすればその未来に辿り着けるのかしら?」
「殿下のこれからの動き方次第です。まずは情報を集めないと」
国王・第一王子・宰相のせいでとんでもないことになった。
なんで私が尻ぬぐいしなきゃならないのよ!
私は冷えた紅茶を一気飲みした後、国王アドリアンの執務室に向かった。
国王執務室
「アクサナです。大至急父上にお会いしたいのですが」
応対に出た侍女に謁見を求める。
「どうぞお入り下さい」
「お父様!」
通された執務室にはちょうどいいことに国王・第一王子・宰相が揃っていた。
「おはようございます、お父様。それにお兄様にガバナス宰相もおはようございます」
「おお、アクサナか、どうした?」
こんな朝早くからこの三人が集まるなんて普通あり得ない。
やはりステンラの情報は間違いなさそうだ。
「お父様、本日の会議、何やら召喚勇者達に戦姿で来るよう命じたようですが何故ですか?武闘会でも開催するのでしたら、このアクサナも参加致したいのですが」
それを聞いて国王・第一王子・宰相は顔を見合わせたあと大笑いした。
「はははは、アクサナは勇ましいな。女であることが勿体ないぞ」
「殿下、残念ながら武闘会はございませんよ。それに殿下には武闘会ではなく舞踏会の方がお似合いです」
「アクサナよ、実は今日の会議で罪人を裁き処刑するのだ、彼らにはそのために武装して来てもらっておるわけだ」
「罪人とおっしゃいますと?」
私は人差し指を顎にあて、コテリと首を傾げた。
「第三独立小隊の奴ら全員だ、彼らは聖女誘拐の大罪人ユーシスと共犯であることが判明した。よって此度の会議中に彼らを断罪し、その場で処刑致すことにした」
「カーシャ殿達が罪人に手を貸したのですか!?なんと恐ろしい。そのような者ならば女神テラリューム様に代わって私達が鉄槌を下さねば成りませんね!」
私は国王・第一王子・宰相に同調する振りをしながら表情を観察する。
バカ父とボケ兄は私が同調したことに上機嫌で大笑いした。しかし宰相の笑い方は愚か者をバカにする時の笑みであることを見逃さなかった。
「しかしそうなりますと大変ですね、何しろ罪人ヨシュアは5年前に我が国の召喚勇者全員をたった一人で瞬殺するほどの猛者。他の者にしても召喚勇者を遥かに凌駕するほどの達人と聞いております」
「ああ、その件はただの誇張であることが分かっている。宰相に調べさせたから間違いない」
「作用でございましたか、いらぬ心配を失礼しました。ならきっとあの話もデマでしょうね」
「あの話とは?」
「いえ、3ヶ月前の事ですが、召喚勇者と女聖騎士が争いまして、召喚勇者は一瞬にして四肢をバラバラにされたという話を聞いたものでしたから」
「召喚勇者が女聖騎士如きに!?」
「そうなのか?宰相??」
ガバナス宰相は一瞬顔を引きつらせたあと言った。
「はて、そのような話は報告に上がってきておりませぬが?やはりデマで間違いないでしょう」
「だそうだ。何も心配はいらぬぞ」
「全くアクサナは心配性だな」
「それだけ殿下はお優しいのですよ、陛下」
「あら、恥ずかしい・・ぽ」
「「「「あはははははは」」」」
「それでは私は失礼致します、皆さま後程・・」
ああ、気持ち悪い!
あんなのと会話したらバカがうつりそう。て言うか絶対うつってる!
でもハッキリした、宰相は嘘を付いている。クロ確定だ!
三か月前の召喚勇者と聖騎士に関する報告書を宰相に上げたのは私なのだから知らない訳が無い。
でも私の報告書の件だけじゃ証拠としては弱い。
もっと強力な証拠さえあれば断罪できる。
会議まであと2時間、ステンラお願い!なんとしても証拠を見つけて!
リヴニの街 冒険者ギルド
私達は相変わらず天候不良の為、リヴニの街で足止めを食っていた。
ホテルはどこも満室で、冒険者ギルドのロビーで他の冒険者共々寝泊まりしているのも相変わらずだ。
“ザーーーーーーーーーー”
この街に着いてからすでに6日目、今日も朝から雨は強く止む気配は全くない。
私はテーブルに伏せながら、真剣な表情で似顔絵を描いているユーシスをぼんやり眺める。
「あの真剣な眼差しが駄目なんだよね・・・」
あんな眼で10分以上見つめられたらどんな女の子でも堕ちない訳が無い。
「あんたユーシスの女なんだろ?ちょっと顔貸してくれない?」
突然背後からドスの聞いた女性の声がした。
振り向くと3人の女性冒険者が立っていた。
どうにも嫌な予感しかしない・・・
ステンラのモデル
プリンプリン物語
アクタ共和国ルチ将軍の側近ステッラさん




