60.前哨戦?
リヴニの街 冒険者ギルド
私達は天候不良の為、リヴニの街で足止めを食っていた。
ホテルはどこも満室で、冒険者ギルドのロビーで他の冒険者共々寝泊まりしている。
“ザーーーーーーーーーー”
この街に着いてからすでに5日目、雨は強く止む気配は全くない。
その間、何人の女性冒険者・女性ギルド職員がユーシスの餌食になったことか・・
ユーシスは思いつきでギルド内の人達の似顔絵を描いて路銀を稼ぐことにした。
結果ユーシスの似顔絵は大当たりし大繁盛したのだが、やはりというか何と言うかユーシスに描いて貰った客のうち、女性客全てがユーシスの虜になってしまった。
「これホントに勇者の魅了より質が悪いかも・・」
当のユーシスは単純に色々な人の似顔絵がかけて楽しそうなだけで、魅了しようなんて微塵も思ってはいない。
というかユーシスは女性達の熱い眼差しに気付きもしない。
女性客はリピーターとなり何度もユーシスに絵を描いて貰う。
その都度に彼女達のユーシスに対する情欲が強く湧いている感じがして、私は気が気ではない。
時々「私がユーシスの彼女です!」と必死でアピールしたりする。
3日もすれば、私はギルド内で女性達の目の敵となり、ユーシスは男性達の目の敵になってしまった。
“ザーーーーーーーーーー”
「早く雨が止まないかな・・・」
窓の外には止む気配の無い強い雨。
私達は当分この街に釘付けのようだ。
スラヴ王国 王都 王宮
時刻は朝8時。
第三独立小隊8名の面々は正装して王宮に集まった。
今日は王国内の全ての勇者とそのパーティーの顔合わせが目的らしい。
2019年度組の召喚勇者達について私はまだよく把握していない。
顔すら知らない者の方が多い有様だ。
去年も顔合わせイベントは有ったが、私達の小隊は王の勅命によりほとんど意味の無い遠征をさせられ不参加だった。
「それにしても誰も来てませんね」
「少し早すぎたかな」
マークとリュックが回りを見渡すが召喚勇者達は誰も来ない。
まあ10時始まりだから少し早いと言えば早いのだが・・
「「「「おはようございます」」」」
私達より10分くらい後に小西道夫パーティーが現れた。
しかし何故か完全武装している。国王出席の会議に出席するような恰好ではない、むしろ不敬にとられても仕方がないくらいだ。
「おはよう、道夫君、その恰好はいったい?」
キョトンとする道夫達。
だがすぐ言葉の意味に気が付いたようだ。
「この武装ですか?今日の会議は完全武装形態で出席するよう御達しがあったのですが・・・そう言えばカーシャさん達は普通に謁見用の正装ですね?」
なにやらきな臭い・・・
「どうやらプラン通りには行かないかもしれないな」
ヨシュアが皆に注意を促した。
元々会議終了後にミルーシャ奪還の手はずだったのだが、どうもその前に何かありそうだ。
「まあ現場に置いては臨機応変に対応だ、宜しく頼むぞ」
「「「「「「 はい! 」」」」」」
「あのヨシュアさん・・」
道夫がヨシュアに申し訳なさそうに語りかける。
二人は昨夜、プランについて話し合ったが、結局キモとなる部分はヨシュア一人が担う事になり、道夫は通用しなかった時の保険として動くことになった。
「すみません、僕が言い出しっぺなのに結局ヨシュアさん一人で被ることになってしまって・・」
「君達はいずれ元の世界に帰る身だからな、重いシガラミを課すわけには行かないよ。それでも俺が駄目だった時は頼むぜ」
「隊長~、暫く誰も来そうにないし、特にミーティングとか無ければ散歩してきてもいいですか?」
「ミッチー、私達も散歩してきていい?」
フランソワーズと麗子がそれぞれねだる。
この様子じゃ他の召喚勇者達が来るのはもっと後になりそうだ。
「じゃあ30分前には王の間に戻るように、それまでは自由にしてよし」
「じゃあ僕らも30分前集合ってことで」
私と道夫がそれぞれ告げたあと、各自それぞれに散って行った。
残ったのは私とヨシュア、道夫に真美の4人。
「あの昨日はすみません・・」
バツ悪そうに斎藤真美が頭を下げる。
昨日、取り乱した事を謝っているのかと思ったがそうではないようだ。
ミルーシャ救出のキモの部分を道夫が被らない事が決まり、真美は深く安堵した。
同時にヨシュア一人が背負う事になったことに激しく罪悪感に苛まれていた。
「君達はいずれ帰る身だからな。それにミルーシャ救出は女神テラリューム様の使徒たる我々の仕事だ。何も気にしなくていいよ。むしろこんな方法を思いついてくれた事に感謝したいくらいだよ」
ヨシュアは真美に心配無用とアピールしたあと、今度は道夫に話しかけた。
「ただ気になるのは君達の級友の田中炎皇斗だ。出来れば殺したくはないが、どうしようもないときは済まないがヤツを処分させてもらう」
「殺してほしくはありません。ですがヤツは狡猾だから勝ち目が無いと判断すれば、頭をすぐ切り替えて応じると思います」
「どうも君達と接触しだしてから少し調子が狂うよ。前までなら問答無用で首を刎ねていたからね」
私は苦笑いしながら道夫と真美を見た。
彼らは少し嬉しそうに“にしし”と笑った。
「ここに掛けていた絵が代わってるね」
「そうだっけ?前は何の絵だったかな」
「たしかペンギンが3つの勢力に別れて派閥争いしている様子の絵だったような・・」
「ああ、ペンギン三国志の絵ね、面白い絵だったよね」
私とユーコは王宮内の絵画を見て回っていた。
アンドレアン王が1年少し前から王宮内の装飾、主に像や絵画に力を入れ始め、そこいらの美術館顔負けの品を取り揃えている。
「こんなの買うお金あったら税金を少しでも安くすりゃいいのに」
「まったくだ」
ペンギンの絵から置き換えられた“創造の女神テラリューム様の絵”を見ながら私達は心底思った。
別にテラリューム様に対して悪意はない。本当だ。多分。
「そうそう、こんな年増女神より“慈愛の女神セフィース”の方がいいよね」
「でもお姉さんたちの方がずっと可愛いよな」
突然見知らぬ男・・と言うかガキ2人から声を掛けられた。
とりあえず無視する。
「え?無視しちゃうの?ショックだなー」
「お姉さんたち王宮の人?それとも勇者パーティーに入ってる人かな?」
歳はユーシス君や道夫君と同じくらいだろうか。
にしてもチャラくてウザいな・・
再び無視して歩き出そうとすると両腕を広げて行く手を阻まれた。
「お姉さーん、ワザワザ僕達が声かけてあげてるのに、そりゃ無いんじゃないの?」
「まあまあ、で、お姉さん達どこの人?」
流石に王宮内で剣を抜くわけにもいかず、溜息を付きながら少しだけ相手をする。
「はぁ、人の事聞きたかったら、まず自分から名乗れば?」
「私達の事を知らないアンタらの方が誰って感じなんですけどー」
「あ、えっと有名な人かな?もしかして会議の後に呼ばれたイベントコンパニオンとか?」
「その服装、コスプレかな?似合ってるよね。でも大人がコスプレって恥ずかしくない?」
白基調に金色の刺繍と黒のポイントが入っている聖騎士の正装を知らないようで、意味不明なことを言う二人。
ニヤニヤ顔が余計苛立たせる。
三たび無視して去ろうとするがシツコク絡んでくる。
「わあ、待った待った!お姉さん達随分失礼だね。まあいいや。勇者の山下五郎でーす」
「同じく勇者の河原田幸四郎でーす。で、お姉さん達は?」
「スラヴ王国騎士団第三独立小隊所属、フランソワーズ・パラディンヌだ」
「同じくスラヴ王国騎士団第三独立小隊所属、ユーコ・カンザキ・パラディンヌ」
「騎士団の人か!てことはお姉さん達フリーだね、今日から僕のパーティーに入れてあげるよ」
「早く来てみるもんだな、年上美人騎士をゲットだぜ!」
何を言っているんだこいつら?
というか、こんなのが勇者でいいのか?
「俺、ユーコさん貰いー!なんか名前も日本人みたいでいいね!」
「じゃあ俺はフランシスさん頂き!今夜が楽しみだな、ジュルリ・・あ、拒否権は無いからね、僕達誰でもパーティーに入れる権限を国王から貰ってるから」
フランシスじゃない、フランソワーズだ!
だいたいフランシスは男性名だろ!
「ねえ、ユーコ、召喚勇者ってやっぱり頭悪くてクソだね」
「道夫君達以外はやっぱりこんなもんなんだよ、ただただ気持ち悪い」
召喚勇者達の顔色が変わる。
「誰に向かって言ってるか分かってる?そんな口きいてタダで済むとでも?」
「お姉さん達にはちょっとお仕置きが必要なようだね」
それを受けて私達は完全おちょくりモードに入る。
「えー、タダで済まないのぉ?わたしお金持ってませーんww」
「いやーん、こんなクッソガキにお仕置きされちゃうのぉ?ユーコ、ドキドキして方腹が痛くなっちゃうwww」
「僕ちゃん達、分不相応な力を持って威張り散らして我儘放題するのはどんな気分でちゅかー?www」
「いいでちゅねー、いろんな人に我儘言って迷惑かけて、勇者様の精神年齢はきっと三歳児くらいでちゅねーw」
「ユーコ、そりゃ三歳児様に対して失礼ですわよ?」
「あら失礼、ついうっかり・・一歳児くらいの精神年齢・・いやそれでも一歳児に対して失礼ですわね?」
「あ、でも股間のサイズはきっと一歳児くらいですわ」
「あらいやだ、フランさんの ス ケ ベ ☆」
「「 おほほほほほ 」」
「てめえ、思いっきり後悔させてやるぜ!今から性奴隷確定だからな!」
「謝ったってもう遅いからな、せいぜい後悔しやがれ!」
「きゃー!もしかしてアレが来るのかな?かな?かなかなかな?」
「きっとアレですよ、アレ!召喚勇者と言ったらやっぱり・・」
「「この腐れビッチが堕ちやがれ!、勇者の魅了!」」
「「キターーーーーーーー!」」
“ギパァ!“
召喚勇者の眼が開き、悍ましいオーラが迫る!
“グサッ”
瞬間、私とユーコは二人の召喚勇者の首を剣で刺し貫き壁に縫い刺しにする。
「「な!?」」
「はーい♪ちょっとでも動くと頸動脈が切れて死んじゃうよぉ」
「どうする?動いてみる?動いてみようか?♪」
私とユーコは手をワキサキさせながら召喚勇者に近づく。
「バカな・・!?」
「なんで勇者の魅了が効かねえ!?」
「「さあ楽しい正当防衛の始まりだぁ!」」
私とユーコは召喚勇者の耳に息を吹きかけながら体中を擽ろうとする。
「「 レッツ我慢退会~♪ 」」
「「 や、やめてくれー! 」」
首を貫かれた剣があと少しズレれば頸動脈がプッツンする!
召喚勇者達が悲鳴をあげ股間から湯気が昇った。
「お前達、何をしている!」
声のする方を向けばカーシャ隊長とヨシュア副隊長が歩いてやってきた。
あー、ゲームは終わりかぁ・・
私達は剣を引き抜き鞘に納めた。
「おまえら、これマズイだろう」
「壁に剣痕付けちゃって、ああ・・これ相当怒られるぞ」
壁の剣痕を見ながら“わっちゃー”という顔をする隊長と副隊長。
“ちがう、そっちじゃない“という訴えの眼差しの召喚勇者ども。
「だって仕方ないですよ、勇者の魅了使ってきたから」
「そうそう、正当防衛ですから」
「なら仕方ないな」
「いや、そうだけどそうじゃないから」
それからカーシャ隊長は腰を抜かした召喚勇者に向かってヒールを掛けたあと
「おまえら今回は見逃してやる。床を掃除してから早々に立ち退け」
そう言い放った。
私達は王の間に向かって移動した。
ペンギン三国志の元ネタ
黒猫ツバキと魔女コンデッサ
「第35話36話 黒猫ツバキ、クーデターに遭遇する」
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