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58.加藤弾と加藤禅の見舞い ヨシュアと小西道夫のホウレンソウ

 ユーシスとアリサが王都を脱出してから3か月近く経った頃・・



 スラヴ王国中央病院の特別棟、加藤弾(カトウダン)の病室


 一人の男が見舞いに来た。

 彼の名前は加藤禅(カトウゼン)、加藤弾の年子の弟である。


「よう兄ちゃん、元気か?」 

「・・・・」


 声をかけられた元召喚勇者加藤弾、しかし反応は無い。

 少し前まで勇者として力漲る肉体は見る影も無く、やせ細り90代の老人のように衰えていた。


「なんだよ、相変わらずだな、たまには返事しろよ」


 そう言いながらゼンは持参した花を花瓶に活け替える。

 皮肉なことにこの花を買った店は、[シーナ生花店]かつて[フラワーショップアリサ]だった店だ。

 ゼン(禅)はそのことを知りながら、わざわざシーナの店で花を買い続けている。


「よっし、ここの花は活きが良いから長持ちするんだよな。どうだい兄ちゃん、聖女アリサの店で買った花は」


「ア・・リ・・サ・・?」


「お?」


 ゼンが話しかける中で、わずかに反応するキーワードが[アリサ]と[正当防衛]と[触手]であることが分かっている。

 ただそれもほんの僅かに反応するだけですぐ反応が無くなる。


「・・・・」

「やっぱ駄目か、しゃーねーなぁ」


 “ふぅ”と溜息をつき、ゼンは鞘から剣を抜きダンの首に当てた。


「・・・・」


 アクサナ第二王女から死ねば自動的に元の世界に戻れることは聞いている。

 今日はダンに回復の見込みが無さそうなら、命を絶って先に元の世界に戻してやろうと思っていたゼンだが・・


「ま、やめとくか。5年後に仲良く元の世界に帰ろうや」


 “ふぅ”とまた溜息をつき剣を鞘に納め直した。


「それにしても聖女アリサね、勇者の股間を吹き飛ばすなんて、どんなビッチな女なんだ?」


 花瓶に活け直された花を見ながらゼンは首をコテリと傾け思案した。


「少し気になるな。どうせ暇だし探してみるか」


 ちらりとダンの方を見てゼンは呟く。


「兄ちゃんも他のやつらもバカすぎだよ、女を狙うなら顔を使い分けて秘密裡にやらないと・・」


 “にぃ“と笑みながらゼンは病室を後にした。







 王都西地区高級住宅街、小西道夫邸


「お久しぶりです、カーシャ隊長、ヨシュア副隊長」


 道夫・真美・真奈美・麗子の四人は訪れた二人に挨拶する。


「久しぶり、月一で情報交換する約束しておきながら長い間放置してすまない」


 ヨシュアとカーシャはミンバリ特別自治区トリコロール付近の調査を終え、王都に戻って来ていた。


 二人を邸内の応接室に招き入れ防音結界(サイレンスウォール)張る。


「出来るだけ早く戻りたかったが、王国諜報員の暗躍に手間取ってしまった」


 ユーシスとアリサが王都を出奔した日、王国諜報部は、聖女アリサが第三独立小隊と行動を共にしているものと考え、彼らの目的地であるミンバリ特別自治区トリコロールの街に諜報員らを遅れながらも差し向けていた。


 その第三独立小隊は、出発と同時に二つに別れて東西真逆に行動していた。

 その後、直接トリコロールに向かったアイザック率いる小隊4名と、ユーシス・アリサを見送ったあと騎乗馬に回復魔法(ヒール)を掛け捲り超スピードで追いついたカーシャ達4名がトリコロールで再び合流した。

 その四日後、追いついた王国の諜報員らにマークされはじめた訳だ。




「まず西城祐樹・松本朱里、およびそれ以前に行方不明になった2人に関しての情報は全く無かった」

「まあ、西城祐樹・松本朱里の件は私達よりユーシスとアリサの方が情報掴んだみたいだね、そっちにも連絡はあったかい?」


 ヨシュアとカーシャはユーシスとアリサから送られてきた手紙を広げた。

 それを見て道夫達もアリサから送られてきた手紙を広げる。



「あいつらの惚気話は無視するとして、情報内容としてはだいたい同じだな」


「正直驚きを隠せません、特に僕達の寿命の件は衝撃でした。ヨシュアさん達も召喚者の寿命についてはご存じなかったのですか?」


「ああ、初めて知ったよ。どおりで高齢の召喚者が全くいない訳だ」


「でもこれは由々しき事態です。僕達は迂闊に魔力を使う訳には行かなくなりました・・・」


 彼らにしてみれば将来的に時空魔術師斎藤真美の力が帰還の鍵になると思っている。

 その為にはレベル上げが必要になるのだが、レベル上げの為に魔力を失い廃人もしくは死んでしまうのでは本末転倒だ。


 不安そうな4人、中でも真美は悲壮な顔をしている。

 そんな空気の中、ヨシュアがニヤリと笑いながら話を続ける。


「それについては良い物がある。元々魔法剣士の真奈美君へのお土産の積もりだったんだけどな」


「私ですか?」


 コテリと首を傾げる魔法剣士 村真奈美。

 カーシャが補足の説明をする。


「真奈美は魔法剣士だろう?魔法剣士の特徴としてレベルの低いうちは有力な戦力ではあるんだが、レベルが上がると、どうしても器用貧乏な面が出始め、パーティーのお荷物になりやすくなるんだよ」


「あらら、そうなんですか?」


 いまいちピンと来ないようだ。


「そこで魔法剣士の火力不足を補うためのモノがこれだ」


 ヨシュアは土産物をテーブルの上に置く。

 1本の剣と魔石が複数。


「あの、これは?」


「見ての通り魔石を3つまで装備できる魔法剣士専用の魔剣だよ、良質な魔石を付ければ任意の魔法を剣に乗せて今まで以上の力で技を放てる。自分の魔力を一切使わずにね」


「自分の魔力を一切使わずにですか!?」


「その通り、それと他の三人も同じような事が可能だよ。魔石に対応する杖や刀、なんなら指輪でもいいから魔石を装備したものを持ち歩けばいい。魔石の魔力が空になるまでは自分の魔力を一切使わずに済む」


「よくこんな方法思いつきましたね!凄いです!!」


「まあこれ、難易度の高いクエストに挑む冒険者がよく使う手だから凄くも何でもないよ・・金持ってる冒険者限定だけどね」


「あ、やっぱり高価なんですね・・・ちなみにお幾ら万円くらい・・」


「ああ、王都で買えばな。これらはトリコロールの近くにある魔族の街で買ったものなんだよ。安くは無いが高価って程でもない」



 魔族・・ティラム世界では滅多に聞かないキーワード。

 日本に居た頃の“異世界大好きオタク”だった道夫にとって、魔族と敵対していないティラム世界の人々は違和感の塊だった。


 人族と魔族は決して共存共栄という訳ではないが、棲み分けがキッチリ出来ており、少なくとも2000年以上争う事は無く今に続いている。


 当然ながら勇者と魔族の関係も既存の知識とは大きく異なる。


 勇者と言えば敵は魔族と魔王であるのが普通。

 ところがティラム世界では勇者の仮想敵は魔族ではなく隣国やその人間なのだ。


 もちろん真正勇者達は、ティラム世界国家間の争いには一切首を突っ込まないのだが。




「こういう時に時空魔術師がいるパーティーは便利だね、レベルが上がれば瞬間移動で買い付けに行けるだろ?」


「しゅ、瞬間移動!? え、それ初耳なんですけど・・・マジですか?」


 まさにチート能力!

 真美が目を大きく開けて驚く。


「時空魔術師は勇者や聖女以上にチートだからねぇ、がんばってレベル上げな」

「まあ魔力の枯渇の件はとりあえず解決だ」




「それで西城祐樹と松本朱里の件だけど、どうやらユーシスとアリサのコースと極めて近いコースを辿っているようだ」


「僕達にはまず二人の生存が確認出来ただけでも嬉しいです。ありがとうございます!」


「それで、二人が無事でこのコースで行くとすれば最終的にはダバスに落ち着くと思う」

「そう遠くない日にユーシスとアリサから発見の知らせが来るだろうね」


 四人は本当に嬉しそうに喜び合う。

 ずっと今まで手がかりが無く気が気ではなかった。

 二人だけで行かせたことも後悔していた。


「ただ彼らは装備一式を失っているようで路銀稼ぎに必死なようだ」


「いったい裕樹達に何があったのか・・」


 結城達は渡したヒモト刀を手放していた。

 武器にはちゃんと譲渡証明があり、奪われたものではなく自ら手放した事が分かる。

 旅をする上で身を守る武器を売り払うなどよほど切羽詰まった何かがあったのだ。


「それともう一つ気になることがある。手紙にあった例のラミア神殿の件だが」


「ラミア神殿・・・そもそも存在するのですか?」


「ラミア神殿自体は世界各地にある。近い所ではリヴニの街で最近新たに発見された神殿がある。またダバスに近い環状砂漠内にも特定の条件下で出現する大神殿もあるらしい。それぞれのラミア神殿内には転移門もある。しかし転移門の多くは現在ほとんどが機能していない。それに機能していた頃の資料を見ても異世界への出入りの記録は無いのだよ」


「ラミア神殿には魔物が巣くっているから、調査が不十分の可能性はあるけどね。もしかしたら未発見の転移門があるかもしれない」


「ひょっとして身体半分が蛇の女の魔物ですか?」


「よく知っているな」


「僕達の世界でも神話やゲームに登場していますから」


「ミッチー、私達もラミア神殿に行く?」

「俺達は弱すぎて長旅なんてとても無理だ」


小西パーティー全員顔に縦線が入りズーンと沈む。


「いや君ら弱くないだろう?レベル上げはどうした?」


「無理です。もう生物を殺したくありません・・」

「何かを殺さずにレベルアップできる方法って無いですかね・・」


 道夫達のメンタルは限界だった。

 アビゲイルの洗脳下にない彼ら4人の倫理観は日本にいた頃となんら変わりはなく、魔物とはいえ生物を殺してレベルアップすることに激しい嫌悪感と罪悪感に苛まれていた。


「まあ、あるけど・・」


「そうですよね、そんなのあるわけ・・・・・・て、今何と?」


「だからあるよ」


「「「「あるの!?」」」」


「厳密にはレベルは上がらないけれど、身体パラメーター向上や新スキルの習得なんかは可能だよ」

「ただ普通のレベル上げと違って時間はかかるけどね。根気も必要だし」


 ヨシュアの言う方法はなんてことはなく、普通に訓練して地道に力を付けるだけのことだ。

 これにより身体パラメーターは必然的に向上する。そうすれば自身のキャパが広がりレベル前倒しで新スキルも訓練して獲得できるようになる訳だ。

 もっとも訓練するにも自身に見合った相手が必要だし、やはり時間はかかる。


「私達は王都にいる間はヴォルガ河の畔で毎朝訓練しているが、なんなら一緒に訓練してみるかい?このカーシャ様が直々に鍛えてあげましょう!」


 珍しくドヤ顔を決めるカーシャ。

 そのカーシャを瞳キラキラさせながら崇める道夫パーティー一同。


「いいんですか?」

「「「やったー!もう何も殺さなくて済む!」」」


「じゃあ決まりだな。明日は王宮会議があるから明後日から始めようか」


「「「「はい!」」」」



(生物を殺す事に抵抗がある異世界人・・もしかしてこれが本来の姿なのだろうか?)


 残虐非道な召喚勇者共を思い出しながら、ヨシュアとカーシャはふと思った。


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