56.水の女神アクアリウスから祝福を!
パチパチパチパチ
ぱちぱちぱちぱち
「ん?」
拍手は何故か二人分?
「聖女アリサ、素晴らしい声歌をありがとうございます」
私の後ろから声と拍手がして、振り返れば突如眩い光体が現れ、それが人の姿に代わって行く。
やがてそれは青い髪の美少女へと実体化した。
「ハクアの森アクアリウスの泉へようこそ、勇者ユーシス、そして聖女アリサよ。私はアクアリウス、水を守護し人々に祝福を与える水の女神です。」
“水の女神アクアリウス”その名は知っている。
童話に出てくる水の女神様で勇者の味方だ。しかも他の女神様と異なり、かなり庶民的な性格で伝承されている。
「それでは早速始めましょうか。
勇者ユーシス並びに聖女アリサ、水の女神アクアリウスからの祝福を受け取りなさい!」
そう言って水の女神アクアリウス様は両腕をいっぱいに広げ、いきなり祝福を与えだした。
「え?え?ちょっと?」
「うわ!なにを一体!?」
金色の輝きが広がり一気に私達を飲み込み、その輝きは今度は私達の中に吸収されていく。
そして元通りハクアの森と泉が元通り静寂が訪れる。
「はい、終わりましたよ。何か不具合はないですか?」
「今何をした?」
本人の了承無しにいきなり祝福されたことにユーシスはお怒りのようだ。
「えっと、女神アクアリウス・・様?私達なんの心構えもなくいきなり祝福受けて戸惑っているのですが・・」
女神アクアリウス様はコテリと首を傾げる。
「え、でもあなた達、私の前で剣技を披露し、その後に聖女の歌声で私を呼び出しましたよね? それってシキタリに法った勇者と聖女の祝福の儀なんですが?」
「そう言う事か・・」
「でもそれ困ります!」
どうやらヨシュアさん達の手の平で踊らされたらしい。
でも一体どういうツモリで・・
女神様との接触を私達が避ける可能性があると思ったのだろうか。
いや、知ってたらやっぱり避けたかな、うん。
「どうしてです?力の上限を塞がれたままでは、これ以上の飛躍は無理とは言いませんが時間もかかるし厳しいですよ?」
アクアリウス様が不思議そうに訊ねる。
「だって私達、女神様の使徒として仕えるかどうか決め兼ねています。こんな急に祝福されても困るし従うつもりも有りません!」
「アクアリウス様、俺達正直に言うと、今の心情ではどの女神様にも仕える気にはなりません。祝福は無しにして頂けませんか?」
私達は女神様の手下になることにキッパリとノーを突き付けた。
しかし・・
「えー!それ困ります!一度与えちゃった祝福は取り消しできません。それが出来るのはあなた達の場合テラリューム様だけです!」
「こっちだって困ります!」
「女神様の手下になんて絶対になりませんよ!」
「いやちょっと待って下さい。あなた達なにか勘違いしていませんか?私が与えたのは『祝福』であって、『神託』ではありませんよ?」
ん?どーゆーこと?
「いいですか?
今回の場合『祝福』は能力の上限解放です。
対して『神託』は神から人に対するお告げ、この場合は何らかの異変解決の為に女神から仕事を託されることです。
私が行ったのは祝福です。何かを頼んだり強要するモノではありません」
そういうことか、別に使徒や手下なれってことじゃないみたいだ。
それでも問答無用で祝福されたのは少しムッとする。
「例えそうであっても自分から望んだわけじゃないですし・・」
「それに有無を言わさずいきなりっていうのはやっぱり・・」
「あなた達、ちょっと面倒臭い!
言わせて貰いますけど『勇者と聖女の祝福の儀』で、私を呼び出したのはあなた方の方!
私はそれに応えて祝福を与えただけ!
だから私に落ち度はないもん!」
「「もんって・・」」
あ、まずいアクアリウス様のキャラが崩壊して半泣きになってキレかけてる。
「あの、本当に女神様に仕えるとかじゃないんですよね?」
「そこの所、重要なんでもう一度確認したいんだけど・・」
「同じこと何度も言わせないでよ!本当にただの祝福だもん!」
かなり庶民的な性格で伝承されてきた水の女神アクアリウス様。
でもこれ庶民というより子供って感じが・・
この後二人で必死でご機嫌を取った。
「こほん、お見苦しい所をお見せしました・・」
「いえいえ、こちらこそスミマセンでした。これ、良かったらこれシチューです」
「ありがとう、頂くわ」
なぜかアクアリウス様と一緒に夕食のシチューを食べながら雑談する。
「あの、アクアリウス様、セフィース様から祝福される召喚勇者とか何とかなりませんかね?」
「私達や他の人達に多大な迷惑かけてのさばっているんですよ。なんであんなのを勇者にしたんです?」
「ああ、あれはセフィースが勝手に作った劣化模造品なのよ。
私やエリシューム(山の女神)が“止めとけ!”って散々言ったのにあのバカ聞きやしない。
あれでも一応は主神(仮)だから無理に止めることが出来なかったの」
「「くわしく」」
アクアリウス様は元年から現在まで流れを説明してくれた。
「勘弁して下さいよ、お聞きした限りではセフィースって女神の器じゃないですよ!」
「アクアリウス様が主神をされる訳にはいかないのですか?」
「私じゃ能力不足でね・・見て」
アクアリウス様は天空に浮かぶ輪を持つ月を指さす。
「わかる?あの月の輪が。あの輪を作る一粒一粒が地上を徹底的に破壊するほどの巨大な岩なのよ。主神(仮)のセフィースは、あれが地上に落ちるのを防いでいるわけ。私やエリシュームじゃそんな力は無いから・・」
アクアリウス様は悔しそうに呟いた。
神々の世界もいろいろ事情があるらしい。
「ところでテラリューム様は、私達にどんな神託を与えるつもりなのでしょう?」
私達の運命を狂わせた勇者と聖女の祝福、テラリューム様は何を私達にさせようとしているのか・・
なぜ私とユーシスが選ばれたのか・・
「ああそれはね」
「「ごくり・・」」
「私も知らないわ」
“ガクッ“
「だって、テラリューム様は普段眠っておられるから・・緊急事態でもない限り、叩き起こすわけにはいかないでしょ」
神々の世界には“ ホウ レン ソウ ”は無いらしい。
「だけどつい先日、テラリューム様は、あなた達に神託を与えるべく目覚めたわ」
「え、でも俺達神託なんて受けていませんよ?具体的にはいつです?」
「雷が鳴りまくっていた日があったでしょ、あの日に神託を与えるツモリの様だったけど延期になってね」
「延期?何故です??」
「原因はあなた達よ。今の状態で神託を与えても、絶対受けて貰えないと悟って延期されたの」
「「あー、なるほど」」
「でも何を神託されるツモリだったのかしら」
「過去の例から何か思い当たる事とかありませんか?」
“うーん“と少し考えてから
「国家や種族の枠を外れた世界共通の敵の討伐・・かな、やっぱり」
スケールが大きすぎて、そんなの私達でどうにかなるなんてとても思えない。
「でも実際は事が起きる前に解決することの方が多いのよ。だからあなた達は最悪のケースのための保険なの。前回のバミアの件はイレギュラー中のイレギュラーと言っていいわ」
「じゃあ神託を受けても何もしないケースも?」
「もちろんあるわ。むしろそっちの方が多いくらい」
“神託を受けても何もしないケースも多々ある”
その一言で幾分気が楽になったような気がした。
「ところで、さっき言った事なんだけど祝福受けてから何か不具合出てない?」
不具合?特に何もないような・・というよりどこが変わったのか分からない。
「身体強化!」
唐突にユーシスが立ち上がって自分に身体強化をかけ始めた。
「こおおおおおおおおおおお!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!
ユーシスの身体能力がどんどん上が・・る?
「アクアリウス様、1.65倍までしか上がらないんですが・・」
悲しそうな声で訴えかけるユーシス。
「当たり前よ。私は上限を開放はしたけどパワーアップまではしてないわ。そういうのは自分で鍛えて力を付けないと」
「(意外とせこい)」
ボソっと呟くユーシス、しかしアクアリウス様は聞き逃さなかったようだ。
「労せずチート能力を手に入れる輩は嫌いなのよ♪」
そう言ってアクアリウス様はユーシスにバチコーンとウインクした。
「さてと、私はこの辺で失礼するわ。これから“うひひ”なことするんでしょう?」
この人は本当に女神様なんだろうか。
「あ、ちょっと待って下さい。記念に姿絵を描かせて下さいよ!」
「ユーシス!?」
いや、分かってる。ユーシスに悪気は全くない。だから余計に質が悪い。
ユーシスの写生は勇者の魅了より危険かもしれない!
「ええ?私を描きたいのぉ?仕方ないなぁ」
まんざらでもないアクアリウス様。
腰をクネらすのやめて下さい。
「じゃあ泉と月を背にして・・そうそう手を広げてそんな感じでお願いします」
そう言ってユーシスは描き始めた。
今回は透明水彩のようだ。
カリカリカリ・・・塗り塗り塗り・・・
30分後。
「ふしゅう・・♡」
女神様をもあっさり陥落させるなんて、やっぱりユーシスの絵は普通じゃない。




