55. ハクアの森の泉にて
ペルミで昼食を食べた後、私達は食料品等を買い足してハクアの森に向かった。
「お勧めのスポットって言ってたけど何があるんだろうね?」
「中央の泉まで行くように書いてあるけどな」
ペルミからハクアの森までは大体10キロメートルくらいなので1時間ほどで着いてしまった。
「ここがハクアの森・・」
「結構な規模だな」
中々の規模の森林で、地図によれば中央の泉までは5キロメートルくらい。
鬱蒼とした森の中に泉への路があり、私達はゆっくり馬の脚を進めていった。
この森林は中央に向かって緩やかな丘陵になっているようで幾つもの小川が森林外延部へと流れていく。
「着いた、ここが中央の泉らしいぞ」
「泉と言うより小さな湖ね。わぁ、水の透明度が凄い!」
絶え間なくコンコンと湧く清らかな水。
無色透明だけど、少し離れて見るとエメラルドグリーンを帯びる不思議な泉。
「ねえ、ちょっとだけ水浴びしていい?」
「いいけど、カーシャのメモによると剣技の訓練するよう書いてあるぜ?」
え?どゆこと?剣技の訓練?
「ん~、汗かくこと考えたら先に訓練かな・・」
「じゃあ10分ごとに攻守交替で・・先に俺が攻撃していい?」
私はオッケーして守りの準備に入る。
「身体強化3倍!」
私は自身の身体を3倍まで高める。
ユーシスには身体強化は掛けない。
この状態で訓練に入る。
「じゃあ行きまっせ!」
縮地で急接近するユーシス!
いきなり力を込めた斬撃が私を襲う!
ガキン!
でも私はユーシスの渾身の一撃を軽々と受ける。
続いて連撃が来る。
ヒョイヒョイ、スラリ
んー、一撃一撃は鋭いけど、少し単調な感じがする。
「えい」
少しいたずら心で剣の平で頭をコツーン・・
ガツっ!
「ぎゃぶ!」
べしゃ!
「あ、ごめんなさい、力加減間違えちゃった」
「いつつ、やってくれましたわね、アリサさん・・」
あ、これ少し怒ってる。
「刮目せよ!これが俺が新たに手に入れた必殺技!」
し、新必殺技?、いつの間にそんなものを!?
「身体強化1.625倍だぁぁああああああ!」
「え?え?ちょっと?」
ゴゴゴゴゴゴゴオ!
ユーシスの身体に1.65倍の気が満ち溢れる!
でも、なんか微妙なパワーアップでモヤモヤする!?
「おりゃあああああああああ!」
ユーシスが剣の平で本気でしばきかかる!
「えい」
コキン
そんなユーシスの渾身の一撃をアッサリ受け弾く。
あー、びっくりした。いつの間に身体強化の技を・・
「ぐぬぬ、やっぱり1.625倍じゃ3倍のアリサには勝てないかぁ・・」
「でもビックリしたよ。いつの間に身体強化なんて」
「前々から習得しようと思っててさ、この前ヤンマにコツを教えて貰ったんだ。でも最大で1.625倍までしか上がらないんだよなぁ・・」
「そうなの?私が掛けると何倍でもいけるのに・・」
「アリサは聖女で、剣士で、植物使いで、雷撃使いの花屋だからじゃないの?
俺なんて基本は鍛冶屋とその関連スキルで元々戦闘職じゃないし・・」
ユーシスがちょっと拗ねた。
しゃがんで地面に「の」を書いてる。
「勇者になるかもしれない人が何言ってるの!次交代ね」
そう言って今度はユーシスに身体強化3倍を掛ける。私はもちろん掛けない。
さっきまでとは違い、余裕で私の攻撃をヒョイヒョイ躱すユーシス。
「んー、一撃一撃は鋭いけど、少し単調な感じがする」
さっき私が思った事と同じ感想を述べてくれました。
「---------------!」
意地になって突っかかって行ったら、
「ほい」
ガツっ!
「きゃいん!」
どしゃ!
剣の平で頭を叩かれてしまった。
いつつつつ・・・
「ねえ、ちょっとだけ魔術絡めて戦ってもいい?」
「いいけど、泉や森に被害が出るようなのは駄目だぜ?」
「OK♪」
仕切り直して、
「たああああああああああああ!」
ユーシスに向かって突撃!
「むっ!」
構えるユーシス!
そのまま斬撃!・・と見せかけてバックステップ!そこから、
「鋳薔薇の触手!」
四方八方から鋳薔薇の触手がユーシスに襲い掛かる!
「な、なんだこりゃ!?」
思わずハイジャンプで避ける・・が、
「鋳薔薇の牢!」
「げ☆」
着地地点に全周囲から鋳薔薇の牢が二重三重と現れ、ユーシスがスッポリと飲み込まれる。
「それで上級雷撃魔法を落としたら私の勝ち。やったー、三倍のユーシスに勝ったぁ♪」
「ぐぬぬ・・」
本気で悔しがるユーシス。でも本当は分かってる。
本気のユーシスなら身体強化かけなくても鋳薔薇の牢を破って出て来るし、上級雷撃魔法だって根性で耐えると思う。
こんな小手先の技なんかきっと通用しない。
でも今は、本気で悔しがるユーシスの姿を見られたから大満足だ。
「これがアリサの植物魔法か、初めて見た。これ使えばオスカー戦で、もう少し有利に戦えたんじゃないの?」
「どうかな、ユーコさんと模擬戦したことあるけど、剣を軽く振っただけで粉砕されちゃったからね」
結局これが通用するのは一級冒険者クラスまでなんじゃないかな。
人外レベルの召喚勇者にはきっと通用しないと思う。
「じゃあ水浴びしてくるね。ユーシスもどう?」
「行きたいけど荷物と馬の番しないと・・一人で楽しんでおいで」
着ているものを全て脱いで泉に足を着ける。
思った通り結構冷たい。でも心地いい。
もう少し進んだ所で肺に空気を一杯吸い込んで仰向きになって浮かんでみる。
「ふぅ・・」
浮かんでいられる分を下回らないよう、ゆっくり息を吐いて確かめる。
後は心を無にしてただずっと浮かんでいるだけ。
青空と森の緑とエメラルドグリーンの清らかな水に包まれてながら全身の力を抜く。
それだけで浄化と癒しで身も心も清められていく。
ふと陸の方に目をやればユーシスがスケッチブックに絵を描いている。
流石に距離があるから昨日みたいにゾクゾク感じることは無い。
私はまた頭を空っぽにして浮き続けた。
陸に戻って衣類を着ている間、ユーシスは野営の準備をしてくれた。
私もすぐ今夜の夕食を準備する。
一通り今夜の準備が終わったところでユーシスが「一曲歌ってよ」とリクエストしてきた。
カーシャさんのメモに夕暮れ時に泉に向かって歌うよう指示書きされていたからだ。
「なんだろう、歌うと何かあるのかな?」
「泉の女神か精霊女王でも現れたりして」
私は泉の水際で歌う
「~~♪~~~~~~~~♪~~~~~♪」
ハクアの森に歌声が響き渡り、
遍く生きとし生けるものが私の歌声に聴き寄せられる。
「~~~~~~~~♪」
歌い終えユーシスの方を向く拍手で迎えてくれた。
パチパチパチパチ
ぱちぱちぱちぱち
「ん?」
拍手は何故か二人分だった。




