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53.激怒する女神


「いろいろ世話になった、ありがとうな」 

「こちらこそ助かったよ、ありがとう」

「もう喧嘩なんかしちゃダメだよ?」

「喧嘩なんてしてませんよ?でもありがとうございます」


「「じゃあ」」

「「じゃあ」」


「「「「いつかまた!」」」」


 俺とアリサはヤンマとマランパに別れを告げ、デボードの街を出発し、西城祐樹と松本朱里が居たと言うペルミの村に向かった。

 ペルミはルート上に存在しているとは言え、立ち寄る予定は無かった。

 その10キロメートル近く先にあるハクアの森が本来の目的で、ヨシュアとカーシャが穴場的なキャンプ地と言って絶賛した場所だ。


 パカラン、パカラン、パカラン、パカラン、


 この辺りは平地が続くので馬達も気持ちよく掛ける。

 時刻はそろそろ正午になり、自分達の昼食と馬達の草と水分補給のために休憩場所を探す。


「ん~、この先に大きな杉の木があるからそこで休もうよ」


 片手で手綱を持ちながら逃亡マップを見るアリサ。

 随分乗馬に慣れたものだ。


「いいよ、そうしよう」


 15分ほど走ると巨大な杉の木が見えて来た。

 山裾まで広がる草原の中にポツンと立っている巨大な杉の木はどこか神秘的で雄大だ。


「わあ、凄い!」


 アリサが感嘆して思わず声をあげた。

 巨大で逞しく美しい杉の木、一体樹齢は何年くらいなんだろう。

 周囲に他の樹木はなく、巨大杉はその全ての枝を自由に逞しく伸ばしている。

 その巨大杉の元で僕達は馬の脚を止め休憩する。


 ファイスとネロから鞍を外し風を当てる。

 ファイスとはアリサの白馬で、ネロは俺の黒馬だ。

 この二頭は非常に頭がよく、放牧しても逃げようとしない。

 おあつらえ向きに小さな湧き水があり、ファイスとネロは喉を潤わした。

 新鮮な草も豊富に生えていて、ファイスとネロもご機嫌のようだ。


 愛馬達の様子を見ながら俺達も昼食の準備にとりかかる。

 デボードの街で購入したパンとソーセージとレタスとオレンジ。

 魔術で軽くソーセージを炙り、レタスを巻いてパンに挟んで出来上がり。

 デザートはもちろんオレンジ。


 食べ終わってからアリサに甘えて膝枕して貰う。

 彼女に頭を撫でられ距離が無くなったことを実感させられる。


「ま、いろいろあったけど俺達きっと幸せなんだろうな」

「それ言ったの2回目よ?」

「そうだっけ」


 優しい微笑で彼女は僕の頭を撫で続けた。





 そんなイチャコラしているユーシスとアリサの遥か上空、神々の領域「天界」では・・・




「な、なんですかこれは・・・」



 ユーシスとアリサに神託を与えるべく、眠りから目覚めたこの世界の創造神が一柱、『創造の女神テラリューム』は両肩をワナワナと震わせ怒りを堪えていた。


 厄災に備え事前に神託を与えていた聖女達がほぼ全滅している恐るべき事態!

 最強の勇者&聖女コンビのヨシュアとカーシャの女神に対する懐疑的な態度!

 新時代の勇者&聖女コンビのユーシスとアリサには完全にソッポ向かれている惨状!

 そしてその根本的理由が慈愛の女神セフィース(ぽんこつ駄めがみ)召喚勇者達(ぱちもん勇者)による仕業と言うことは過去視によりすぐ理解できた。


「セフィース!セフィースは何処ですか!」


 天界にテラリュームの怒声が響き渡る!


「は、はい!先輩なんでしょう?」


 慌てて転びながらテラリュームの元に駆け寄るのはティラム世界の主神(仮)の『慈愛(自称)の女神セフィース』だ。


「この惨状を弁明なさい!」


 テラリュームの怒声が一層語気を強め、その影響で天界に雷が荒れ狂う!


 ガラガラガラ!ガガーン!


「うひぃ!」



 ----その頃下界では・・


 「ユーシス、なんか雷鳴ってるね」

 「ほんとだ、雨でも降るのかな?」


 ----



 テラリュームは女神ビジョンで過去の映像をセフィースの前で流す。


 勇者の魅了(チャームアイ)に侵され、恍惚とした表情で召喚勇者を眺める「豊穣の聖女ミルーシャ」の姿がそこに。

 その召喚勇者と聖女をニヤニヤと囲んでいる召喚勇者パーティー達。


『あーあ、聖女様もすっかり爛れちゃったねぇ、これ使い物になるの?』

『「豊穣の聖女」もこうなっちゃ終わりよねw』

炎皇斗(カオス)く~ん、もし今年農産物が不作だったらアンタのせいだからねw』

『ああ?そんなもん知るかよ、なあ聖女様?』

『は、はいぃぃぃ、勇者様のお傍にいられるなら、農民達が困ろうが国が飢饉になろうがどうでもいいですぅぅ、♡』



 ピキピキとテラリュームのコメカミが引きつる。

 ビクビクしながら様子を伺うセフィース。




 ビビっと画面が変わり、今度はとある湖で当代の聖女と新世代の聖女が素っ裸で女神を批判するシーン。



『女神のバカ野郎!聖女なんてくそっくらえー!』

『慰謝料払えー!バカ女神―!』

『召喚勇者のバカヤロー!私の安寧を返せー!』

『『私たちに強いるばかりの世界なんか滅びてしまえー!』』


 思わず卒倒しそうになるテラリューム。

 後ろからハッシ!と支えるセフィース。



 ビビっとまた画面が変わる。



『まあ聖女なんてロクなものじゃないしね、私も聖女に覚醒したときは召喚勇者どもから怒涛の魅了攻撃受けまくったし、コイツが勇者に覚醒してくれたおかげで最後は助かったけど、そうでなかったら・・・ゾッとするわ』

『現役の聖女様を前にしてアレだけど、ほんと聖女なんてなるもんじゃないよな、あと勇者も・・』



 ビビっ



『まあ神託が下れば嫌でもわかるから』

『と言うか、神託が下っても拒否しちゃえって!』

『それ、聖女であるカーシャが言っちゃっていいの!?』

『いいんだよ、幸せを踏みにじられてばかりの聖女役なんて糞くらえだ!』

『俺も女神様には一言いってやりたいぜ、ちょっとは考えて人選しろって』



 ビビっ



『これから先、お前たちには創造の女神テラリューム様から神託が下る。

それが今日なのか、明日なのか、半年後なのか、1年後なのか、もっと先なのか、それは分からない』

『だが神託が来ても絶対に無視しろ、お前たちはお前たちの為だけに生きてくれ、頼む!』



 ビビっ



『・・・!謝罪だってするな!それは兄貴達がすることじゃなくて、女神がしなきゃならないことだ!筋が違うだろ!』

『ユーシス、戦に赴く勇者と聖女ってのは・・』

『うるさい!神託がどうのこうのは女神が何か言って来てから決めりゃいいだけの話だ!』



 ビビっ



 『俺は加藤ダン、王国の勇者だ』

 『・・・で、私に何の用かしら』

 『聖女様をお迎えに上がりに来ました・・ぐふふ・・

今この時を持ってオマエを俺の奴隷コレクションに加えてやるから感謝しろ、グハハハハハ!』




 そして作中に登場していないその他大勢の聖女達が、召喚勇者共に壊されて行く映像が延々と続く。



「あ、あはははは・・」

「・・・・・」


「あの・・・先輩?」

「・・・・・」


「・・・・・」

「・・・・・」


「セフィース・・」

「は、はい」


「正座・・」

「はい?」


「早く正座なさい!」

「はいぃいい!」



 ピカ!

 ガラガラガラ!ガガーン!

 ゴゴゴゴゴゴ・・



 テラリュームの怒声が厄災級まで強められ、その影響で天界はおろか地上にまで怒気が雷となり荒れ狂い落ちた。








 ティラム歴元年。

 このティラム世界に未曾有の大災害が発生した。

 それは天空に浮かぶ月が壊れ、この世界の全ての生命を刈り取る程の規模のものだった。


 その大災害から遍く命を守るため、

「創造の女神 テラリューム」

「破壊の女神 ディスタツィオーネ」

「海神 カナロア」

 及び、その他の眷属達は、その持てる力のほとんどを使って、この世界の生命を辛うじて存続させることに成功した。


 大災害後の破壊された世界は混沌としていた。

 生き残った人々には希望が無かった。


 テラリュームとディスタツィオーネは、人々の希望の象徴であり守護者である者、「勇者と聖女」を人々に与えた。


 そして力を使い果たした神々は長期の休眠に入った。

 一部の女神達を除いて。



 当時の見習い女神であったセフィースは、女神としては余りにも素行が悪く、大災害時は幽閉されていた為に力を使う事はなかった。

 力を失うことの無かった彼女は、最低限世界を維持できる程度の能力はあるので、テラリューム達が休眠中の間、世界を託される事になった。


 ティラム世界の主神がセフィースに移ってから200年ほどして、世界に新たなる秩序が出来上がった。


 そんな頃に最初の異世界の人間がやって来た。

 それは誰に召喚された訳でもなく偶発的なものだった。


 彼にはこの世界の人にはない圧倒的な力と膨大な魔力を持っていた。

 ただ魔力を行使するための方法が彼には無かった。


 セフィースは注目した。彼を見逃す訳が無かった。そして思った。

 「異世界人を利用すれば私にも勇者と聖女が作れるのでは?」と。


 慈愛の女神セフィースの研究が始まった。

 どうすれば異世界人を呼び寄せることが出来るのか?

 どうすれば異世界人にジョブやスキルを付与させられるのか?

 テラリューム達の勇者と聖女を徹底的に解析しなければいけない。

 同じ能力を付与させるのは果たして可能なのか?


 セフィースの研究はわずか200年ほどである程度完成した。


 勇者の破壊能力と聖魔法の多くはセフィース自身の力を与えることで解決した。

 勇者の魅了(ハートアイ)は解析不可能だったため、バンパイアやインキュバスの魅了をアレンジした勇者の魅了(チャームアイ)を実装させた。(ただし召喚者の共食いを避けるため異世界人同士には効かない仕様にした)

 自動治癒回復(ランニングヒール)と勇者武器生成については諦めた。


 聖女の解析は勇者ほど難航はしなかった。テラリュームの聖女に比べ、弱冠パワーは劣るが、ほぼコピーすることが出来た。


 また解析の過程で勇者・聖女以外のジョブ・スキルの適応も可能となり、どんな召喚者でも“ほぼ”何かしらの秀でた能力者にすることが出来るようになった。


 後は人間たちに異世界人を拉致する方法を教える事で、セフィースは念願の勇者と聖女(女神の私兵)を手に入れられるようになった。


 ただ誤算もあった。

 勇者・聖女の覚醒条件として「子供では無くなった事」、

 また聖女の媒体条件として「穢れ無き清らかな乙女」、

 これらが絶対条件であり聖女の誕生を大きく妨げていた。


 その流れが現在まで続き、勇者との比率が極端に少ない聖女にとって、自身が略奪の的になるティラム世界は、辛しく歪んだ世界になってしまった。








「セフィース、私は前々から言いましたよね?召喚者共は処分しなさいと」

「はい、ですが・・」


「 言 い ま し た よ ね ? 」

「はい・・」


「あんな模造品など害悪でしかありません。さっさと処分なさい、今すぐ! 」

「待って下さい!彼らは私の可愛い使徒なのです!処分だなんてあんまりです!それに良い召喚勇者だっているんです!」


「ほーう、そんな召喚者が居るのなら是非とも見て見たいものです。居るのならね?」

「もし居たら処分の事は考えを改めて頂けますか?」


「・・・まあいいでしょう。本当にいるのなら少し様子を見ます」

「(かかった!)ではこちらを・・」


 女神ビジョンにアリサを助けようと協力している小西道夫とその仲間たちが映し出される。


「ね?この者達は必死になって先輩の聖女を助けようとしてくれたんですよ!彼らを処分なんてしていいんですか?」

「ぐぬぬ・・・」



「 い い ん で す か ? 」



 下から覗き込むようドヤ顔をするセフィース。


「調子に乗るんじゃありません!」


 ガラガラガラ!ガガーン!


「うひぃ!」


「---わかりました。少しだけ様子を見てみましょう。その間にあなたは召喚者共を自重させる方法でも考えておきなさい!」

「わっかりました!(ちょろいぜ先輩♪)」



「あと塞ぐように言っておいた次元の穴はどうなっていますか?」

「脅威度の高い穴を優先に行っています。

脅威度の一番高かった『エスカトロジー世界』は数日中には完全に塞がります。

終わり次第『リアース世界』と『アース世界』に取り掛かります」


 召喚元の世界は3つある。

 一つはアース世界。小西道夫や西城祐樹の召喚元だ。

 二つ目はリアース世界。アース世界と似た世界だが、彼の地からの召喚者は桁違いのスキルパワーを持ち、ティラム世界にとって脅威となる可能性が高い。

 三つ目はエスカトロジー世界。召喚者の多くがミュータントで100%脅威となる。

 5年前の大事変の首謀者、大魔術師バミアはエスカトロジー世界の住人であることが確認されている。

 ただエスカトロジー世界は召喚成功率が著しく低く、召喚者も御せない為ほとんど行われない。

 リアース世界からの召喚については、ある時期から召喚成功率が極端に落ちた為、やはり行われなくなった。


「よろしい、確率は低いとは言えエスカトロジー世界とリアース世界からの召喚者は危険です。保険は掛けるつもりですが、絶対にこちらの世界に召喚させないよう頼みますよ?」

「了解っす!」


 正座しつつ軍隊式敬礼でビシッと返事するセフィース。


「では私は再び眠りにつきます。後の事は任せましたよ」

「あの、ユーシスとアリサへの神託は宜しいので?」


「あなた何を見ていたのですか?あんな状態で神託できる訳ないでしょう!彼らへの神託は少し遅らせます」

「あ、はい」



「早急に壊滅した聖女達の穴埋めを考えねば・・」


 ブツブツ独り言を言いながら、創造の女神テラリュームは再び深い眠りについた。


 慈愛の女神セフィースは、テラリュームが眠りについたのを確認し、いそいそと下界へ遊びに出かけたのだった。


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― 新着の感想 ―
テラリュームさーーん!!? だめだよちゃんと見張らないと!寝ないで!
[一言] ついにラスボス登場ですか!?
[良い点]  ユーシスとアリサの等身大なカップル模様が素晴らしいですね。もっと、イチャイチャしても宜しいですよ?  ユーシスがハヤト(オスカー)相手にオーバーキルしなかったのも良かったです。そういう…
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