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52.もう一つの王都脱出 西城祐樹・松本朱里

 王都に戻った私達は驚きました。

 私(松本朱里)と同じ無能力者の二人が行方不明になっているなんて・・


 私は施設に滞在しているクラスメイトに聞いて回りましたが、いつの間にか居なくなっていたとしか応えはありませんでした。


 みんなの話を総合すると・・


 失踪当時、ミッチーを含めた8人の勇者達はそれぞれ4人から6人のパーティーを組み、40人程がクエストがてらにレベル上げの遠征をしていました。


 さらに残っていた14人のうち能力者12人もレベル上げの為に東の森に1週間程度のキャンプに出向いていました。


 つまり、王都内の召喚者はあの二人だけ・・その時に失踪していたようです。


「もしかして狙われた?」


 偶然にしてはタイミングが合いすぎます。

 でも逆に言えば誰も居なくなったのを見計らって逃げ出したとも・・

 ・・・・


 逃げる理由が無い。

 だって此処にいたら生活は保障されるし、外出だって王都内なら自由に出来るし、王都外に出たくなったら付人は付くけど出られるし・・


「やはり狙われた・・」


 あれ、ちょっと待って?

 じゃあもしかして、あの時ミッチーが誘ってくれなかったら私と祐樹も?


 ざわざわ・・


 背中に悪寒が・・


「ありえるかも・・」



 私と祐樹はミッチーの屋敷で失踪者の考察をしました。

 可能性として推測されるのは・・


1)何かの事情があって二人で逃げ出した。

2)なんらかの事件に巻き込まれた。

3)王国側に拉致されている。

4)王国に処分された。


1)についてはさっきも言った通り、逃げる理由が何も無いので可能性は薄い。


2)については事件に巻き込まれたにしては王国は真剣に捜査している節が全くない。

騎士団や警備隊の中には無能力者失踪の事実すら知らない人もいる。


3)と4)・・・疑いたくは無いけれど、どうしてもその可能性を拭いきれない。



 最悪の場合は全員で王都を出奔しようと言うことで話が纏まり、いつでも逃げ出せるように荷物を纏めておくことにしました。


 そしてその最悪な予想は3か月後に現実のモノとなったのです。



 失踪事件から3か月後・・

 私と裕樹以外のクラスメイトは全員が何処かしらの勇者パーティーに所属したり、勇者抜きのパーティーを結成したりとして、召喚者施設から去っていきました。


 これで広い施設に私と祐樹の二人だけになってしまいました。


 その日の晩、


 “トントン“


 魔術師風の男と護衛の騎士らしき人が部屋に来ました。


「朱里さま、夜伽に参りました。十分にお楽しみください」


「え、私頼んでいませんよ?何かの間違いでは?」


「いいえ?たしかに、たーしーかーにー頼まれましたよぉお?わーたーしーがーがーねぇぇええ♪」


 “にちゃあ“とした笑みを浮かべ一瞬で私は床に押し倒され、寝間着を引き裂かれてしまいました。


「いや、やめて!離して!誰か!誰かー!裕樹―!助けてー!裕樹―!」


「へっへっへっ、だ~れも来まああせええんんよおおお、あの無能召喚者は今頃魔力を吸い取られて、死んでるか廃人になってますからああああ、えひゃ、えひゃひゃ!」


「うそ!うそよ!祐樹が死ぬわけない!」


「えひひひ、残念、実にざ~ん~ね~ん~♪

確実に確実にかーくーじーーつーにー殺されてまーすーかーらー、

あなたは安心して私に身を任せてくーだーさーいーなー、()()()()()()()()()()()()んですからぁ、えひひひひ」


「いやああああああああ!祐樹ー!!!!」


 祐樹が・・死んだ? 死んだの? 

 だって、私まだ祐樹に何も言ってない・・そんな・・


 私は脱力し、抵抗する気力が無くなってしまいました。


「おやぁ?おやおやぁ?大人しくなりましたねぇええええ?それでは頂きましょう・・て、なんですか?」


「あのぉ、魔術師長殿、終わったら俺もいいですかね・・そのちょっとだけ、ね?」



「あなたね、これからいい所なんだから興が覚めること言わないでくださ・・い・・?」



「おらあああああああああ!」



 “グシャ!“



 「げびゃ!」



 突然護衛騎士の頭に強い衝撃!


「朱里、無事か!?」


 ひ・・ろ・・き・・?


「祐樹!」












 この広い施設に二人だけ・・どうにも嫌な予感がする。


 僕(西城祐樹)は真夜中の学校のように静まった施設で考えた。


 -もしかして今ってかなり危ない状態じゃないか?-


 寝間着には着替えずに何か武器になりそうなモノを探す。


 避難用ロープと太い木軸の洋服掛け、あと浴室に置いてある粉石けん。


 洋服掛けを分解し、直径10センチ長さ120センチほどの軸棒を取り出す。

 粉石けんをポケットの中に詰めるだけ詰める。

 太さ1センチほどのロープを2メートル程度に2本切り、両腕に巻く。


 本能が危機を告げている。

 恐らく今夜何かある!


「朱里の所に行かないと!」


 扉を開けて出ようとしたところ、わずかに“コツコツ“と足音が聞こえた。

 何か来る!


 ベッドの毛布の中に適当にモノを詰め込んで、人が寝ているように見せかけてから部屋の蝋燭の火を落とし暗室にし、僕は物陰に隠れた。


 “カチャリ“


 ノックもせずに男が二人忍び込んできた。もうこの時点で“敵”であることは確定した。

 一人は魔術師風の男、もう一人は騎士のようだ。


 魔術師風の男はベッドの前に立つと水晶玉を取り出し「エナジードレイン」と呟いた。

 水晶玉が輝き光の帯がこんもり盛り上がった毛布に向かう。

 そして首を傾げる。


「?」


「こっちだ!」


 僕は声をあげて誘った。

 驚いた二人がこっちを向いた瞬間に粉石けんを奴らの顔に目掛けて投げつける。


「ぎゃっ!」

「目が!」


 怯んだすきに二人の後頭部を洋服掛けから取った棒でぶん殴る!


 バキ!ドゴ!


 呆気ないほど勝敗が決し、二人に猿轡を噛ませた上、避難用ロープで縛り上げ浴室に放り込んだ。



 きゃあああああああああああああ!

 


 突然朱里の悲鳴が聞こえた!

 反射的に棒を持って部屋飛び出し朱里の部屋へ向かう。


 開けっ放しの朱里の部屋、背を向けた騎士と朱里に覆いかぶさる魔術師、そして裸に剥かれ今まさに犯されそうな朱里が!


 全身の毛が逆立ち一瞬にして怒りが頂点に達する!


 棒を握る手がメキメキと力が入り、騎士の側頭部を洋服掛けの棒でぶん殴る!



「おらあああああああああ!」



 “グシャ!“


「げびゃ!」


 不意打ちを受けて一撃で崩れる騎士。


「朱里、無事か!?」



「祐樹!大丈夫、私何もされてないから!」


「なぜだ、なんでオマエがここに居る!?」


 驚愕の表情の魔術師、しかしすぐ攻撃が!


「ファイヤーボール!」


 魔術師の手のひらから火球が放出される!


「効くか!」


 火球をロープを巻いた腕で払いのける!


「な!?」


「朱里から離れろぉおおおお!」


 一足飛びにして魔術師の顔面をぶん殴る!


 ブァキ!


「ぶふぉあああ!」


 悲鳴とも絶叫とも判断つかないような声をあげて魔術師は吹っ飛ばされる!


 そのまま馬乗りになり、怒りのままに顔の形が分からなくなるほど殴りつける!


 殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!

 殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!


「ぎゃ!・・やめ!・・ぐぼ・・とま・・うぶっ・・びゃ・・ ・・ 」




「よくも朱里を!大切な朱里を!ぶっ殺す!絶対ぶっ殺す!」


 殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!殴打!


「・・・・・・ ・・ ・・」


「祐樹、ストップ!ストップ!もう伸びてるから!」


 朱里に言われて我に返り振り向くと同時に真っ裸の朱里が抱き着いてきた。


「よかった、祐樹が殺されたと聞いて、わたじ・・わだじぃ・・わあああん!」


「だ、大丈夫だから!急いで服を着て!ここからすぐ逃げるぞ!」


「うん!」


 朱里が支度している間に、騎士と魔術師をさっきと同じように縛り上げ浴室に放り込む。


「準備できたか?行くぞ!」


 僕と朱里はミッチー邸に向かった。




 小西道夫邸にて。


「どうした、こんな時間に!?」

「どうしたもこうしたもねーよ、とりあえず皆を呼んでくれ」


 ミッチーが皆を呼んで来たところで今までの経緯を説明する。


「そんなことが!?」

「王国のやつら、やはり信用できない!」

「よくもまあ、大胆にやってくれるものだわ」

「殺す、絶対殺す・・」


 ミッチーら4人が激しく憤る。


「もうこうなってくると6年後に帰還できるっていうのも怪しいものね」


 ハッと朱里が何かを思い出す。


「あの魔術師が言ってた・・どうせあなた方は帰れないと・・」

「本当か!?」


 ガタッ!


 皆の座ってた椅子が一斉に鳴った。

 僕達にとって最も知りたくない情報が、こんな形で知ることになるなんて・・


「なん・・だと?」

「帰れ・・ない?」

「うそ・・そんな」

「マジ・・いやだ」


「ミッチー、聞いてくれ。僕と朱里は王都から逃亡することする」


「なら俺達も行く。俺達はいつも一緒だ。なあ真美・・さん?」

「なんで私の許可を得ようとするのよ、ヘタレミッチー、そんなの言うまでもないでしょ!」

「だよな!だよな!真奈美さんも麗子さんも行って・・くれますよね・・ね?」

「だからなんでそこで弱気になるの!」

「しかも敬語で疑問符とか!行くに決まってるでしょ!」

「・・・・」


 -イマイチ押しに欠ける道夫君-


「すまん、そういう訳にもいかないんだ。流石にミッチー達まで動くとなると目立ちすぎると思う。きっと追手も厳しくなる」


「しかし!」


「聞いてくれ、ミッチー達は王都に残り帰還のための情報を集めてくれ。俺達は王都の外に出て情報を集める。必ずここに戻るから待っていてくれ!」


「おまえ、それでいいのか?俺は、俺は嫌だ!みんな一緒でいたい!」


「ミッチー、冷たい事を言うようだけど、冷静に考えれば確かに祐樹の言う通りだわ。一緒に行きたいけど多分リスクが上がるだけよ・・」


 真美が悲しい表情で諦める。


「じゃあ、じゃあ朱里は平気なのか?心細くないのか!?」


「心細いよ・・でも祐樹と一緒ならきっと大丈夫だから・・」


「なんだよそれ・・・わかった、頭を切り替える!

真奈美、前もって準備してた逃亡バッグ持ってきてくれ!真美は夜間馬車があるかどうか確認頼む。麗子は屋敷の周囲に脅威が無いか索敵たのむ!」


「「「 了解!(このギャップがたまらん) 」」」


 あれよあれよと逃亡の準備が完了する。

 元々いつでも逃亡できるように備えていたから万端だ。


「祐樹、朱里、どっちがいい?」


 そういってミッチーが差し出したのは日本刀と西洋剣。

 前々から思ってたが俺達の世界の文化と微妙に重なる部分がある。


「この世界にも日本刀あるのか。そりゃ断然日本刀だな」

「私も日本刀で。これなら峰打ちしやすそう」


「ヒモト剣とかヒモト刀って言うらしい。この世界には日本に該当する国があるのかもな」


「馬車の時間が分かったよ、15分後に東木行きの夜行馬車が出る!」


「祐樹、朱里、すまん、目立つかもしれないから見送りには行けない。ここでお別れだ。麗子、おまえだけ索敵しながら見送りに行ってくれ」


「わかった、任せて!」


「じゃあみんな、ちょっくら逃げてくるわ。必ずまた戻る!」

「行ってくるね、必ず良い情報持ち帰るから!」


「おお、行ってこい!土産を忘れるなよ!」


 拳と拳を合わせて俺達は別れと再会を約束する。




 こうして俺と朱里の逃亡の旅が始まったのだった。














「あはははははははは!それでボコボコにされて逃げられちゃったわけ!?あなた達最高だわ!」


 わたくしアクサナ第二王女は、大失態を演じた二人の魔術師と二人の騎士を前にして、心の底から笑いました。

 笑い過ぎて腹筋が崩壊しました。

 こんなに笑ったの久しぶりです。こんなクズが王国に仕えていたなんてね。


「殿下、申し訳ございません。私の監督不足でした」


「ああ、いいっていいって。あなたの命令じゃなくエウロパ殿の指示だったのででしょう?アビィ(アビゲイル)が気にすることは無いわ、ぷ、くくくく・・・」


「は、痛み入ります」


「それにしても王国騎士と王国魔術師4人が、いくら異世界人だからってジョブ無しスキル無しのガキにフルボッコにされるってどういうことなのよ、しかもレイプ未遂って・・ぷぷぷ あなた達、それじゃ召喚者達と同じじゃないの」


「も、申し訳ございません殿下!」

「必ずや見つけて参りますので何卒!何卒!」

「どうか我々にチャンスを!」

「お願いします殿下!」


「あー、いいからいいから。別に怒ってないから。アビィ、すぐ処分して」


「御意」


「「「「え、処分?」」」」


深淵世界の魔物召喚(アビスガーブルン)


 アビゲイルが禁呪である召喚魔術を行使した。


 失態を演じた4人の足元に複雑な魔法陣が現れ、深淵世界の魔物が複数召喚される。


 ・・ウボォォオォオオォオォ・・


「で、殿下、お慈悲を!お慈悲をー!」

「た、助けて、助けてー!」

「いやだ、いやだ、いやだー!」

「は、離せー!はな・・おぶっ!?」


 彼ら4人は深淵世界の住人に絡めとられ魔法陣の底へ堕ちて行った。


「ああ、笑った笑った。でもね、王国には性犯罪者は必要ないの。ただでさえ召喚者達に煮え湯を飲まされているんですからね。

それにしてもエウロパ殿は、何を企んでいたのかしら?

ところでアビィ、あなたそんな召喚術使えるならヨシュア様とカーシャ様ぐらいチョチョイと葬れるんじゃないの?」


「召喚勇者共ならともかく、ヨシュア様とカーシャ様には歯が立ちませぬ。あの者達の強さは次元が違いすぎます」


「そんなものかなー。まあアビィがそう言うならそうなんだろうけどさー。別にあの二人とやり合う気はないんだけど、なんか邪魔なのよねー。召喚勇者全員ぶつけても無理かしら?」


「殿下、先の大事変ではヨシュア殿の逆鱗に触れた我が国の召喚勇者全員が瞬殺されたのですよ?正直に申し上げてヨシュア殿やカーシャ殿はおろか、その配下の聖騎士にすら召喚勇者では相手になりません。なにより女神の使徒である真正勇者と敵対すれば国が滅びます」


「わかってるわよ、そんなこと。それにしてもセフィースの召喚勇者も大したことないのね、まあいいわ。それより逃げた二人については手配書だけ回しておきなさい。どうせ向かう先はダバスかトリコロールあたりなのだから慌てなくていいわ。」


「仰せのままに・・」


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