50.異世界強制召喚
「ねーねー朱里、どうだった?」
「黒崎君なんだって?」
麗子と真奈美が教室に戻って来た朱里に即座に取り付く。
昼休み、朱里は中学からの同級生の黒崎健司に呼び出された。
所謂告白ってやつをされたらしい。
「うん、いい人だとは思うけど断ったよ」
「あー、やっぱり告白だったかぁ」
「まあ、朱里にはまだそういの早そうだもんね」
「うん、私にはまだ早いと思う。もし流されて付き合ったりしたら後で絶対後悔するし」
そう言ってから朱里は僕(西城祐樹)の方を向き、
「思春期が遅いとお互い苦労するね」
困り笑顔でそう言った。
やはり朱里も思春期に入っていなかったようだ。
妙な安心感と不安感を感じながら僕達は五時限目の授業に入った。
今日は五時限目に生徒会役員三役が授業の途中に来ることになっていた。
この学校恒例の「生徒会まわり」という挨拶があるらしい。
授業が始まってから10分ほどしたころ、“トントン”と教室の入口がノックされた。
担任の木下友里先生が応じて生徒会メンバーを教室に招き入れ簡単に紹介する。
生徒会長:桐生院菫 3年生
副会長:山本良彦 3年生
会計:冬樹静香 3年生
書記さんは風邪の為お休みだそうだ。
「皆さん始めまして。宝野塚高等学校生徒会 会長の桐生院菫と申します。どうぞ宜しくお願い致します・・・」
生徒会長の挨拶が始まり、そのままの流れで生徒会の仕組みや活動などの説明に入り、話も終盤になったとき・・
「きゃああああああああああああ!」
「な、なんだこれ!? 魔法陣!?」
「落ち着いて、落ち着きなさい!」
「ひいいいいいいいいいいいいい!」
それは突然の出来事だった。
地響きと共に教室内に幾重もの魔法陣のようなものが現れ、其々がどんどん光を強めながら僕達を飲み込んだ。
強烈な光を浴びて視界がホワイトアウトして何も見えなくなる!
周囲ではクラスメイト達のうめき声、なんだ、一体何が起きた!?
「スラヴ王国へようこそお越しくださいました。
異世界より招かれし皆様、私はスラヴ王国宮廷魔術師のアビゲイル・ライカーと申します。
以後、お見知りおきを」
「同じく宮廷魔術師のベティー・ライカーと申します。どうぞお見知りおきを」
視覚が完全に戻る前に女性からの挨拶があり、その後周囲の様子がはっきりしていく。
学校の体育館くらいの広さ広間で全てが大理石で作られた建造物、中央に大きな赤い絨毯が敷いてあり、僕達は全員その上にいた。
そして先ほどの声の主と思われる美しい西洋人顔の女性二人。周りには衛兵らしき人も。
「異世界転移?」
ミッチーが呟いた。
それに周りが反応する。
「異世界だって?」
「なんだそれ?」
「そんな、アニメじゃあるまいし・・」
「落ち着いきなさい!」
生徒会長の桐生院菫が大声で皆を制する。
さすが生徒会長と言うだけあって皆の動きがピタリと止まる。
カリスマ性ってやつか。
「アビゲイルさんでしたっけ?この状況はどう言う事ですか?説明を願いたい!」
凛とした声でアビゲイルに問い詰める桐生院菫。
その様子を見て慌てて担任の木下先生も食ってかかる。
「なんなんですか、これは?一体どうなっているのですか!?」
「私からご説明いたします」
突然後ろから声がした。
「皆さまスラヴ王国へようこそ御出で頂きました。
ここはティラム世界、あなた方からすれば異世界と呼んで差し支えない次元の世界です。
私はこのスラヴ王国の第二王女アクサナ・スラージェリアと申します。
皆様を心から御歓迎いたします。どうぞ宜しく。」
ヨーロッパのお姫様のような身なりの可愛い系美人が自己紹介と挨拶をする。
「王女?」
「王女だって?」
「かわいい・・」
「リアル金髪縦ロールって初めて見た」
「やはり異次元なのか・・」
男女を問わずクラスメイトがその可愛さに魅了されていく。
その中で生徒会長桐生院菫が、空気をぶった切るかの如くアクサナ王女に問いただす
「ではアクサナ王女にお伺いしたい。これはどう言う事ですか?」
「はい、単刀直入に言えば、私達に御助力して頂きたいのです」
アクサナ王女が言う事を要約すれば以下の通り。
ここはティラム世界という僕達とは別次元の世界。
ここはティラム世界のユーラジアン大陸北西部のスラヴ王国という大国。
アース世界(僕達の世界)からの召喚者には強力な力が付与されている。
世界のパワーバランスを保つためには僕達召喚者の助力が必要。
現在は有事では無いので戦争に駆り出されることはない。
他国に対する抑止力として王国内にいて欲しい。
どうか民を救うために強力してほしい。
助力頂けるのなら特権を与えられ贅沢な生活が約束される。
必要に応じて男女を問わず夜伽の相手を用意する。
任期は6年。終わればそのまま永住も良し、帰還するも良し。
万が一この世界で亡くなった場合は、その瞬間にアース世界で復活できる。
もし助力頂けないなら4日後に時空の穴が開くのでその時に転送する。
どんなケースで帰還しても今現在の若さで現在の時間、転移前の場所に戻れる。
「なあ、これって・・」
「帰る理由が無いっていうか・・」
「むしろ至れり尽くせり?」
「童貞卒業できる?」
「俺、残っちゃおーかな・・」
クラスメイト達がザワメキ立つ。
確かに美味しい話に見えるが・・あり得るのか?そんな都合の良い話が?
“ちょんちょん“と朱里が僕の二の腕をつつく。
「ねー、祐樹はどうするの?」
「こんな怪しい話に乗る訳ないよ。帰ろう」
「だよねー、よかった。ふふふ」
「ミッチーはどうする?」
「正直あの金髪縦ロールの姫様には魅かれるが、ここは帰るの一択だな」
「「私達も帰りたいな」」
「王女の言う事を鵜呑みにはできないでしょ。帰る以外の選択は無し!」
ミッチー、真美、真奈美、麗子も帰る意思のようだ。
「あなた達は帰るのね、私達もよ」
桐生院菫さんが会話に割って入る。
生徒会三役は帰る方向で話が纏まっているらしい。
「こんな非現実的な話、受け入れられない。情報を纏め次第、皆を帰還するよう説得するわ。あなた達も強力してくれる?」
「僕達に出来る事なら何でも強力します」
「ふふ、ありがとう。頼りにしているわ。とりあえず今日は様子を見て、明日から説得工作に入りましょう」
「さあ皆様、お疲れのところ申し訳ございませんが、早速ジョブとスキルのチェックをして頂きたいと思います。アビゲイル、ベティー、後は任せましたよ。」
「「はい、アクサナ殿下」」
「それでは皆さん、私は今夜の宴の準備をしますので一旦外します。また後程・・」
アクサナ王女が去ってから、サッカーボール程の大きさの水晶玉が用意され、
この場で能力チェックが始まった。
皆順番に手をかざしていく。
時折「おお!」と歓声があがる。
どうやらレアなジョブかスキルが出たようだ。
どうも「勇者」「剣聖」「聖騎士」「賢者」と言ったところがレアらしく中でも「勇者」はウルトラレア級らしい。
「見て見て、私は魔術師だって!もう魔法少女でよくない?」
「俺は戦士か、ふふふ、腕が鳴るぜ!」
「準聖女?準って何?」
「キター!錬金術師!」
「アサシン!?カッケー!」
「弓聖!?これもレアなやつだよね?ね?」
「女騎士!わたくし教師なのにくっころなんですか!?」
「あー、ただの剣士かぁ・・」
「げ、小西、おまえが勇者かよ!?」
「ウソだろー、なんでオマエなんかが!?」
どうやらミッチーは勇者を引いたらしい。
そして真美は時空魔術師という、これまた勇者以上にレアなジョブを引いていた。
真奈美は魔法剣士、麗子は女忍者という中世ヨーロッパぽいこの世界には似合わないジョブを引いた。
そんな中、僕と朱里を含めた四人は何も能力は無かった。
「ここまでは皆様の適正を調べました。ここからは慈愛の女神セフィース様より祝福して頂きます。それにより皆様の能力が使えるようになります」
「女神?」
「女神だって!?」
アビゲイルとベティーが女神召喚の儀を始めて直ぐ、眩い光と共に慈愛の女神セフィースが顕現した。
神々しいオーラを纏い次元を突き抜けた美しさを溢れさせながらセフィースは語り掛ける。
「異空の彼方から来られし者達よ、私はこのティラム世界の主神、慈愛の女神セフィース・・さあ、私からのささやかな祝福を受け取りなさい」
セフィースのオーラが膨らみ僕達を飲み込んだ。
「「「うわ!」」」
僕達はセフィースの神気に当てられ金縛りのように動けなくなる。
だがそれも一瞬のことで祝福を与えセフィースが消えると元通り動けるようになった。
「女神って本当にいるんだ・・・」
「美しかったなぁ・・」
「まだ信じられない・・こんな非科学的なことが・・」
クラスメイト達は大興奮で燥ぎまわる。
その中で一人が、
「ファイヤーボール!・・なんちゃってw・・て、うわ!?」
ふざけてファイヤーボールを叫んだ佐藤君の手のひらからドッチボール大の火球が飛び出した!
「きゃ!」
「え、マジかよ・・」
「佐藤のやつ今確かに魔法を使ったよな?」
「「「「「「すっげえええええええええ!」」」」」」
それからはもうジョブやスキルに関係なく、皆してファイヤーボールを連呼しまくる。
その様子を見て、アビゲイルとベティがほくそ笑むのを僕は見逃さなかった。




