46.召喚勇者オスカー・ブラウンの悲劇
「え、殺す気なかったの?」
ヤンマが素で驚いた。
「そりゃ当然」
俺はそっけなく答えた。
俺達の会話中、アリサはハヤトが死なないようにヒールを掛けている。
「なぜ!」
「だってこれ、せいぜい半殺しまでの案件だろ」
今回の事件で最終的な被害は何か?
・みんな嫌な気分にさせられた。
・マランパの唇を奪われた。
この二点のみ。
これだけで命まで奪うのは流石にどうかと説明する。
「うぐぐ・・」
納得のいかないヤンマを無視して、とりあえずマランパの魅了を解くことにする。
「マランパさん起きてください」
アリサがマランパをユッサユッサと揺らす。
第二ボタンまではだけたシャツの内側にある、暴力的な双丘がボインボインと揺れてちょっと目のやり場に困る。
「ううん・・」
マランパが目を覚ました・・と同時に咆える!
「なに?なんなの?ハヤトは?ハヤトはどこ!?」
目が覚めて直ぐハヤトを探す態度にヤンマは“チッ!と舌打ちする。
やがてズタボロになって転がっているハヤトを見つけ、
「いやあああああああああああああああああああ!ハヤトー!ハヤトー!」
半狂乱状態になるマランパ。
「見てられん、早くやってくれ」
ヤンマが耐えられんとばかりにハリセンを急かす。
マランパの後ろに立ちハリセンを一閃!
スパーーン!
「ハヤトーーーー! へぐ!? ・・・あれ?え?お?」
無事魅了が解けたみたいだが、果たしてどうなる?
「いやああああああああああああああああああ!ヤンマー!ヤンマー!」
名前を変えて絶叫するマランパ。
やっぱりこうなったか。
「どどど、どうしよう、ヤンマ、なんでこんな事に、アタイなんてことを!いやああ!」
またしても半狂乱状態になるマランパ。
「落ち着け、俺ならここだ」
「うぇ?」
背後から聞こえた声に反応して振り向くマランパ。
ヤンマの姿を認め、喜びに顔の穴と言う穴から謎液体が零れ、マランパの顔は大洪水になった。
「ヤンマー!ごめんなさーい!ごめんなさーい!うわああああん!」
そのままヤンマの胸にダイブ!
感動の場面、しかしヤンマはヒラリと躱した。
「やだ、やだやだ!アタイのこと嫌いにならないで!捨てないで!何でもする!何でもしますからぁ!」
狼狽し怯えるマランパ、ガクガクと身体が震えだしている。
「ユーシス、これって・・」
「ああ、なんか酷く既視感が・・」
「ヤンマァアアアアアアアアア!」
「まずは顔を拭け!抱きつくのはそれからだ」
そう言ってヤンマは手ぬぐいを渡した。
急いで顔を拭くマランパ。
「よし、奇麗になったな、さあ来い!」
「うわあああん、ごめんなさいいいい」
ガッシリと抱き合う二人。
「ごめんなさいぃ、どうしてこうなったか訳わかんないよおお!」
「謝罪は今夜ベッドの中でタップリと聞かせて貰おう、覚悟しろよ?」
「うん!うん!」
せっかく顔を拭いたのに、結局謎液体で服をベチャベチャにされたヤンマだった。
さて、こっちは解決した。
次はアイツか。
俺はハヤトの方を向いた。
「よぉ、具合はどうだい」
まずは軽くハヤトに話しかけてみる。
「最悪だよ、手足切られるとこんな感じなんだな・・」
意外と落ち着ているな、話し合いは出来そうだ。
それにしてもチャラけた様子が全くなくなり別人のようだ。
「幾つか聞きたい事があるんだが?
ちゃんと答えて今後俺達に関わらないって言うのなら、その身体を元通りにしてやってもいい」
「どうでもいい、俺はもう疲れた。殺すならさっさと殺せ」
「そう死に急ぐなよ、元々アンタを殺そうなんて思ってないんだから」
「質問には答えてやるよ。なんだ?」
ハヤトの奇麗な銀髪に目をやりながら俺は聞いた。
「まずアンタ、いったい何者だ?」
「ユーシス?」
「何言ってんだ?こいつは召喚勇者だろ?」
「召喚勇者なのは間違いない。だが特徴が一致しない」
「「?」」
「この国の召喚勇者はアース世界の日本という国から召喚されているって小西達から聞いた。
基本的に髪の色は黒か濃い茶色だ。染めてるヤツは別だがな。
さらに顔つきや体格はヒモト人に酷似している。
だがアンタは全然違う。
髪は銀髪で顔付きや体格は俺達に近い。どういうことだ?」
「アメリカ合衆国フロリダ州マイアミ・・・」
「なに?」
「俺の故郷だ・・・日本人じゃない、アメリカ人だ」
アメリカ・・聞いたことのない国だ。
「ハヤトって名前はヒモト人や日本人の名前だと思ったんだが?」
「この国で勇者に紛れるなら日本人名の方が都合がよかったからな。
本名はオスカー・ブラウン。
7年前、結婚式の最中に俺だけがこの世界のチャイ帝国に飛ばされた」
「大陸南の大国だな。しかし結婚式の最中・・」
思っていたより重い話になりそうだ。
「いきなり召喚され、やつらは俺に勇者として生きることを強いてきた。。
当然拒否して元の世界に返せと訴えたが、俺は封印を施され2年間獄中に放り込まれたよ。
それから5年前だったか、異世界から大魔術師の侵攻があったろう?
あの時に大魔術師討伐参加を条件に解放されたんだ」
「大魔術師バミアの大事変か、兄貴達が戦ったやつだな」
「大混乱の中、この国の真正勇者・真正聖女・聖騎士の力によって侵攻は食い止められた。
ハッキリ言って俺を含めた召喚勇者なんか出る幕が無かったよ。
奴らの強さは圧倒的だった。
俺はチャイ帝国の体裁を保つためだけに派遣された訳さ」
「じゃあ召喚勇者達は何をやってたんだ?
世界各国から召喚勇者達や真正勇者達が集ったはずだが?」
「たしかこの国の召喚勇者達は派兵前に真正勇者に皆殺しにされたと聞いた。
理由は知らん。
他国の召喚勇者は、俺みたいな条件付きを除いて、ハーレム作って爛れて腐ってたよ。
他の真正勇者達については無政府地帯に向かったらしいが詳しくは知らん」
「そうか。で、ハヤト・・いやオスカーは何故こんな所で女を食いものにしてるんだ?」
「生きる為、そしてささやかな復讐のためさ」
「どういうことだ?」
「女に貢がせて飯を食う。そして俺とリサの仲を引き裂いたこの世界に対する
ほんのささやかな仕返しのつもりさ」
「なぜアリサとマランパを狙った?」
「故郷に帰るためだ」
故郷に帰る?
あるのか?そんな方法が?
「行く先行く先で女を漁りながら情報を集めて旅してきた。
そしてやっと有益な情報に辿り着いたんだ。
この国のどこかにあるラミア神殿、そこに辿り着く為に冒険者の仲間が欲しかった。
噂では“時空の門“に関するヒントがあると聞いた」
「ベテラン冒険者の方がよかったんじゃないか? 俺達みたいな駆け出しじゃ役に立たないだろう」
「くくく、そりゃ皮肉か?・・ベテランだと横の繋がりが強いからな。
勇者の魅了で引き抜けば、すぐさまカウンターハンターに目を付けられるだろうよ」
オスカーはヤンマとマランパに目を向ける。
「すまなかったな破廉恥なことして。彼氏さんも悪かった」
「気にしてないと言えばウソになるが、アンタの話を聞いた後じゃ怒る気も失せたよ。でも脚を切断するのはやり過ぎだろう」
「ははは、おまえだって俺の腕を切ったろう。
まあすまん。ありゃラウアップに頼まれたんだ。あいつヤンマとユーシスの事をボロクソに言ってたぞ。寝取り魔だって」
「「は?」」
「オスカーさん、治しますから」
アリサが完全治癒回復を掛ける。
金色の粒子が舞いオスカーの欠損した手足と目が復活する。
「完全治癒回復ってのは暖かくていいもんだな。久々に癒された気分だ」
-ドクン!-
- オスカーの心臓が異常な鼓動を打った -
(ついに来やがったか・・)
「なあ、異世界召喚者に知り合いや友人はいるのか?」
今度はオスカーが聞いてきた。
「ああ、4人ほど懇意にしている奴らがいるが。それがどうした?」
-ドクン-
「なら先輩からそいつらへアドバイスだ。魔力の使い過ぎに気を付けろ」
「使い過ぎ?どういうことだ?」
「こうなるからだ」
オスカーの肌色がみるみるうちに炭のように黒く変色しだす。
-ドクン-
「この国のやつらは知らないようだが、地球からの・・アース世界からの召喚者は魔力が空ケツになると一気に老けて廃人になるか、黒く変色して身体が崩壊する。
さっきのギガディーンで俺の魔力も空になったようだ。もう終わりだ・・」
-ドクン-
「おい、大丈夫か!?」
「オスカーさん!」
「オスカー!」
「ちょっとアンタ!」
「早い奴なら5年目くらいで魔力は空になる。
よく持っても20年も生きられない。それが召喚者の宿命だ。お友達に伝えてやってくれ。
あとレストランに残してきた女の子達にすまなかったと」
-ドク・ン-
「いよいよか・・リサ・・すまん、もう帰れない・・・
こんな世界大嫌いだ、ちくしょう・・」
-ドク・・-
-・・-
心肺停止。
パサ・・
真っ黒に変色した身体が砂のように崩れ風化する。
召喚勇者ハヤトこと“オスカー・ブラウン”はティラム世界から消滅した。




