42.魅了再び、召喚勇者ハヤト
アリサ視点 ――
「もうハヤトぉ、こんな人達なんていいから早く食事済ましてホテルに行こー。アタイさっきから身体が疼いて疼いてたまらないよぉ♡」
「はは、マランパはエッチな子だな」
なに、この既視感?これじゃ丸であの時の私みたいな……
あの時の私……まさか!?
驚愕の目でハヤトとかいう男を見る。
これが失敗だった。
― キン!
頭の間かに不快な音が響き、瞳を通して禍々しいオーラが私の中に入ってくる!
「あ……ああ……」
― トゥクン……
不覚!偽りの確かなトキメキをまたしても感じてしまった。
「じゃあ、また後でね。お嬢ちゃん♡」
その男は私に不快を与え、そして不本意なトキメキを与え去って行った。
「ユーシス……」
消える、消えてしまう、
ユーシスへの想いが手に掬った水のように指の間から落ちていく。
ユーシスの想いがまた消えてしまう!
いや、いやだよ、ユーシス、私またあなたを裏切っちゃうの……?
「どうしたアリサ?」
私は震えながらあの男の外法、勇者の魅了の精神汚染に必死で抵抗する。
魅了の力に屈したい悪魔の囁きと、ユーシスの想いを守りたい心が激しくぶつかり合い、顔色は赤くなり青くなり目まぐるしく変わる。
「大丈夫か!おい!」
膝をつき震えが一層大きくなりそして
「うぷ、うげぇぇぇ」
私はさっき食べた料理を全て吐いた。
気持ち悪い、楽になりたい……
思わず魅了に屈しそうになる。
ユーシス、助けて……
ユーシスに助けを求めようとした時、彼のベルトの上に巻いてあるそれが目に入った。
「ユーシス……ハリセン……ハリセンを使って、早く!」
「ハリセン!?」
ダーシュ様から貰った状態異常を解くハリセンを使えば!
「さっきの男、召喚勇者よ!だから早くハリセンを使って、お願い!」
超速理解してくれたのか、ユーシスは言うが早いか抜剣ならぬ抜ハリセンで何の躊躇いもなく私の頭頂部を全力でしばく!
「おりゃああああああああああ!」
― スパーン!……パーン!……パーン……
乾いた清々しい音が街中にコダマして鳴り響き、頭の中の不快なモヤが一瞬で消え去る!
「はぁはぁ……」
「大丈夫か!俺がわかるか!」
涙と鼻水と吐瀉物で、私の顔はきっと酷い事になっている。
呼吸も荒く、身体の震えも残ってるけど、頭の中は嘘のようにスッキリした。
「だ、大丈夫、もう大丈夫だから……」
私は立ち上がりユーシスに背を向けハンカチで顔を拭いた。
「ユーシス、ヤンマさんを探さなきゃ!」
「ああ、だがアリサはもう大丈夫なのか?」
「問題ないわ、早く探さないと大変なことに!」
「わかった、急ごう!」
私達はハヤトという召喚勇者が来た方向に向かおうとした。
が ――
「よお、奥さん、別れ話中かい?」
冒険者試験で失格になった男がニヤニヤしながら話しかけて来た。
名前は確か……ラウアップ?
「旦那さん、運が悪かったな。ま、おまえにはこの女は不釣り合いだぜ」
「おまえ、いったい何を言っているんだ?」
ユーシスが苛立ちつつも困惑気味に問いただす。
本当にこの男は何を言ってるの?……あ!
「だから振られたんだろ?あんまりシツコイと嫌われるぜ?……ああ、もう嫌われてるか」
ラウアップは“うひゃひゃひゃ“と下品に笑う。
「まあもう諦めな。さあ奥さん、勇者ハヤトさんの所に案内するから付いてきな」
やはり召喚勇者の一味!
「答えなさい、ヤンマさんは今どこ?」
「あ?ヤンマってのは、あの魔術師の連合いのことか? 奴ならこの先の路地でハヤトさんが両足バラバラにして放置してたぜ……なんでそんな事聞くんだ?」
両足バラバラにして放置?
全身の毛が逆立ち怒りが身体を支配する!
「この外道!」
― ザン!
私は剣を抜き一閃の元にラウアップの両足を切断した。
「え?あれ?」
ラウアップは両足を失い崩れ倒れた。
「うわあああああああああ!俺の脚が!俺の脚がぁぁ!」
「ヒール!」
出血死しないようヒールを掛ける。
ラウアップには情報を聞き出さないと。
「て、てめえなんのツモリだ!俺はハヤトさんの使いだぞ!?」
想定外のことが起こりパニックに陥るラウアップ。
声を震わせ失禁したのか股間が濡れている。
「だからなに?」
抑揚のない声で応え、剣を向け直す。
「ひぃぃ!」
「アリサ、落ち着け!」
ユーシスが私の肩に手を当て静止させる。
私は今どんな顔をしているんだろう、きっと恐ろしい顔に変貌してるんだろうな……
勇者の魅了絡みの話には、私はまだ冷静ではいられないようだ。
「おいおまえ!その脚を元通りにして欲しかったそこを動くな、いいな!」
ユーシスはラウアップに怒鳴りつけると、私の方を向き直し、ヤンマさんを探しに向かった。
「アリサ、あそこだ!」
路地裏に横たわるヤンマさんを見つけた!
ラウアップの言った通り両足が切断されている。
「しっかりしろ!助けに来たぞ!」
「う、うう……マランパ……なんで・」
良かった、生きてる!
自分でやったのか切断された箇所の少し上を紐とベルトで絞めて止血してあった。
「完全治癒回復!」
金色に輝く粒子に覆われ切断された脚が復活する。
「おいヤンマ!目を覚ませ!」
「う……ユーシス? マランパ!マランパは!?」
「落ち着け、マランパさんは残念ながらハヤトってやつと一緒だ。一体なにがあった?」
「うう、訳がわかんねぇ、俺達はそこのレストランで飯食ってたんだ。それでちょっと用足しに席を離れて戻ったら、マランパはあの男に奪われてた。しかも嬉しそうに目の前でキスまでして……それで店に迷惑かかるからってここまで移動してたら……マランパ……なんで……」
やはり……
マランパさんはハヤトと言う名の召喚勇者に魅了されたようだ。
「とりあえずラウアップの所に行って尋問しよう、立てるかヤンマ?」
「あ、ああ大丈夫そうだ……なあ、脚どうやったんだ?」
あ、まずい。完全治癒回復使ったこと言ったら聖女であることがバレちゃう。
「フ、フルポーション使ったの!」
私は咄嗟にウソを付いて誤魔化す。
「そ、そんな高価なものを!?すまない、一生かかっても弁償する!」
ちなみにフルポーション(部位欠損対応完全回復薬)を100倍に薄めたものがハイポーション(部位欠損対非応完全回復薬)。
そのハイポーションをさらに100倍に薄めたものがノーマルポーション(一般回復薬)。
そしてノーマルポーションの価格は日本円にして2万円くらい。
つまりフルポーション1本の相場は2億円相当となる。
「大丈夫だから!弁償なんてしなくていいから!そんなことより今はラウアップのところに行かないと!」
私達三人はラウアップの元へ急いだ。
*
「ラウアップ君だっけ?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
私はラウアップに尋問を始める。
「てめえ、こんなことしてタダで住むと思ってんのか?ハヤトさんが黙ってねえぞ!」
― ザクっ!
ラウアップの耳元を剣が掠める。
「ひっ!」
「聞いてるのは私、あなたは素直に答えればいい。あなたとハヤトの関係は?なぜ私とマランパさんを狙ったの?」
眼を細め、抑揚のない声で私は淡々と問い直す。
「…………」
「お、おい、アリサちゃんの様子がおかしいんだが……」
「ああ、いろいろあってな。勇者の魅了が絡むと豹変するみたいだ。俺もさっき感づいた」
「そう、答えてくれないんだ、じゃあ……」
私はまたラウアップに剣を向ける。
今度は腕の一本でも……
「アリサ待て!」
ユーシスが私の肩を掴んで静止させた。
「ここからは俺がやるから……」
彼はそう言って私とラウアップの間に入り剣を振った。
― ザンっ!
ラウアップの左腕がボトリと落ちる。
「うわああああああああ!俺の腕、俺の腕ぇぇええ!」
「大丈夫、まだ一本あるだろう?それよりさっきの質問に答えてくれるか?」
「わ、わかった!答える!答えるから!血ぃ止めてくれ!」
ユーシスに促され私はヒールを掛けた。
ラウアップは何の躊躇いもなく腕を切断する私達に心底怯えたようだ。
「ハヤトに眼鏡の叶った女を教えると金を貰えるんだよ、しかも運がよけりゃ一緒に抱かせて貰ら……あ、いや……」
「いいから続けろ、なんでマランパさんとアリサが狙われた?」
「使えそうな若い美人冒険者調べてこいって言われてたんだ。丁度冒険者になるつもりだったから・・そしたらアンタらがいたんだ!」
「それで?」
「まずハヤトをマランパの所に連れていったんだ。その後アンタらと遭遇したんだ、ありゃ偶然なんだ!俺は悪くねぇ!」
「でもその後アリサも売るつもりだったんだろ?」
「いや、それは……」
「まあ、いい。で、ハヤトは今何処だ?ヤツの周りには何人くらい仲間がいる?どんなヤツだ?」
「ギルド認定ホテルの北隣のホテルを根城にしている。仲間は全部で5人、すべて女だ」
「そうか、他に情報は無いか?」
「特にもう……あ、根城に戻る前にマランパとアリサで3Pするとかほざいてたぜ……なあもういいだろ?早く脚と腕を直してくれ」
気持ち悪い、でも私を手に入れるまではマランパさんが無事な可能性が高いってことだわ。
「そうだな、これ飲んで寝ろ、目覚める頃には全て治っている」
ユーシスは低級ポーションを取り出し渡した。
恐らくセイクリッドヒールの誤魔化しに使うのだろう。
「ふざけんな!こりゃ低級ポーションじゃねえか!」
「心配するな、中身はフルポーションだ。飲めばわかる」
ラウアップが低級ポーションを飲み干したころを見計らって、
― ガツッ
「ぎゃっ!」
ユーシスは剣の平の部分でラウアップの後頭部を叩き気絶させた。
「アリサ、頼む」
ユーシスに促され私は完全治癒回復掛けた。
ラウアップの欠損部分が回復する。
「おい、今のは!?」
「すまん、俺達も色々訳ありなんだ。見なかった事にしてくれると助かる」
「わかった、俺もフルポーションじゃなくてアレで直したんだな?」
「…………」
「ユーシス、ごめん……勇者の魅了のことになると抑えが効かなくなって……」
落ち着いてきた私は自分の感情のブレがおかしいことに気が付いた。
召喚勇者を瞬殺した時のユーコさんやフランさんも、もしかしてこんな感じだったのかな……
「いいんだ、これから一緒に傷を癒していこう」
「なあ、さっきから言ってる勇者の魅了てのはなんだ?」
彼にとって謎のキーワード、勇者の魅了について不思議そうに聞いてきた。
私とユーシスは勇者の魅了と召喚勇者について説明する。
「そんなバカな!あれが異世界から召喚された勇者だって!?なんであんな奴が勇者なんてやってんだよ!」
それは誰もが思うこと……
「異世界から召喚された連中はほとんどが頭がぶっ飛んでいるからな。マリンパさんが奪われたのも召喚勇者の外法勇者の魅了のせいだ。彼女には何の罪もない、むしろ被害者だよ」
「思うところはあると思いますが、今はマリンパさんの救出に集中しましょう」
気絶しているラウアップに猿轡を噛ませた上で縛り上げ、目立たない場所に移動させる。
それから私達はハヤトの根城であるホテルに向かった。
しかし召喚勇者相手にどうやってマリンパさんを奪還すればいいのか……




