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37.第一章最終話 輝ける逃亡の旅へ

ヨシュア視点――




 ユーシスの妙なプライド云々からしばらくして――



「おーいユーシス、ちょっとこっち来てくれ」



 俺は実家から持ってきた武具一式を確認している。


 ユーシスとアリサへのはなむけにしようと思ったからだ。


 この防具は5年前の大異変解決の報奨の品で、ユーラジアン大陸全ての国々から費用を捻出しあい、当時の最高の技術で作らせたものだ。


 しかし俺もカーシャも使うこともなく、実家の物置にずっと放置していた。


 これを二人に合わせて微調整しようと思っているのだが、幸いにしてユーシスの職業は武器専門の鍛冶屋で、この手の調整はお手物のはずだ。



「なんだい兄き……て、おお!?」


「どうよ、これ」


「スゲー!これ全部ミスリルの防具だろ!?」



 ユーシスが目の色変えて防具に飛びつく。


 一気にテンションが上がりまくり過呼吸まで起こしかけているようだ。



「ふふふ、しかもただのミスリルの防具じゃないんだぜ。こいつは時空魔法が付与されたディメンション(時空間)アーマー(鎧具)だ。」


ディメンション(時空間)アーマー(鎧具)だって!?実在していたのか!」


「おまえ達にやるからサイズを調整して使ってくれ、おまえなら出来るだろ?」


「ああ、たぶん出来る!……て、今なんて!?これを俺らにくれるって言ったのか!?」


「そうだ、どうせ俺達は一生使うことは無さそうだからな、遠慮なく持っていってくれ!」


「まーじか!いいのか?いいんだな!ドッキリとかじゃないんだな?」


「ははは、持ってけ持ってけ」



 まあなんていうか、男はやっぱこういうの好きだわな。


 にしても燥ぎすぎだろコイツ。


 というか武器専門の鍛冶屋だし、そりゃ燥ぐか。



「さっそく身に着けていいか!なあ!着るぞ、着ちゃうぞ!」



 がちゃがちゃと装備一式身に着けるユーシス。


 ほんと嬉しそうだな。



「おお、何もしなくてもピッタリだぜ!」



 白銀色ベースに濃紺の装飾が施されたその防具は――


ブレストプレート(胸部)、フォールズ(腹部から臀部)、ポリン(膝部)、バンブレース(肘から手首)、ショルダーパット(肩当て)、ブーツ(足先)から構成されている。


各パーツは小ぶりだが、戦闘時には最適な防御力を発揮するようにギミックが施されていた。



「あとこれも」



 渡したのは濃紺で内側が白銀食色のマントで最初からセットの一品だ。



 一式装備したところでドヤ顔のユーシス。



「似合うかい?兄貴」


「ほぉぉ、馬子にも衣装ならぬ鍛冶屋に鎧だな」



 ご機嫌のユーシスを置いて今度はアリサを呼び寄せ、同じように装着させる。


 アリサの防具も基本ユーシスと同じだが、女性用のためブレストアーマーのデザインが違い、戦闘時などに胸の双丘を圧迫せず暴れないような形状をしている。


 武骨さよりも女性らしさを強調するようなデザインだ。


 色はやはり白銀色がベースだが、こちらはピンク色の装飾がされており、マントも同様だ。



「ど、どうかな……」


 少しモジモジしながらアリサが上目遣いで問う。



「…………」



 ユーシスが固まった。鎧姿のアリサの破壊力は抜群のようだ。


 俺の目から見ても思わず“ヒュウ”と口笛が出てしまう。



「なになに?」「なにやってんの?」「む、例のアレか……」



 騒ぎを聞きつけてカーシャ、ユーコ、フランソワーズもやってきた。



「ほぉぉ……」


「これは……」


「うむ、もうこっち側の人間だね」


「誰がどう見ても花屋に見えない、そして聖女にも見えないな」



「あ、でも少し胸がキツイかな?」


「後で調整するよ」


「あー、いや……その武具らは契約すれば体形に合わせて自動で調整されるはずだぞ?」



 カーシャが取扱説明書を必死で読んで説明してくれる。


「防具の契約(初期設定)はブレストアーマーの内側の中央に自分の血を塗ればいいそうだ。そうすりゃ起動していろいろ出来るようだな。時空魔術の付与エンチャントもそれで起動する、さすが超国宝級だな」


 なんせ「勇者」と「戦う聖女」達のために作られた世界各国が協力して製作した特別品だから色んな付加が掛けられている。


 伝説級の武器を除けば人類が手にする最高の防具だろう。



「超国宝級!?」


「これ、いくら位の価値が……」


「それから、これを振ってみろ」



 俺は自分の大剣をユーシスに投げ渡した。



「おっとっと、意外と軽いんだな、この剣。で、振ればいいんだな?」



 ヒュンヒュンとユーシスが大剣を振り回す。


 思った通りなんの問題もない。


 勇者の武器は限られた者にしか扱えない。


 普通の者には異常に重たく扱いにくい剣だ。



「うむ、問題ないな。その剣はくれてやる。持って行け」


「!?」



「私からはこれを」



 カーシャも自分の聖剣をアリサに渡した。



「いいんですか?これ渡しちゃったら困るんじゃ……」


「大丈夫、なんとでもなるから。その代わり繋ぎの剣としてユーシスのステンレススチールの剣を頂くよ」


 申し訳なさそうな顔をして了承する二人だが、凄く嬉しそうなのはわかる。


 ユーシスなんか有頂天と言っていい。


 なのでここで敢えて釘を刺す。



「それでも、今のお前達がこれらを装備して、二人かかりで挑んだとしても、レベルを上げた召喚勇者にはまだ敵わない。そしてお前達を狙うのはその召喚勇者だということを忘れないようにな」


「やはり奴ら強いんだな」


「じゃあ召喚勇者を瞬殺するヨーコさんとフランさんって……」



 “ふんす“と強く鼻息を吹きドヤ顔の女聖騎士が二人。



「まあ、あいつら勇者の割に大したことなかったからね、今のユーシス君よりは段違いに強いけど勇者と呼ぶにはねぇ」


「そうそう。きっとレベル上げを怠っていたんだろうね。後で軽く手合わせした小西君だっけ?あの子の方が全然強かったよ」



 今まで浮かれていたユーシスとアリサが神妙な顔に変る。


 彼らはここ数日の間に劇的にパワーアップはした。


 しかしそれはまだ人間の範囲での話。


 俺達や召喚勇者達は人外の域の存在だ。


 ユーシスとアリサがガチで渡り合えるようになるのには、まだまだ時間がかかる。


 二人が王都に戻って来る日まで、奴ら召喚勇者達と接触しないことを願うばかりだ。





「それと、これを渡しておく」



 そう言って「冒険者ギルドカード」を二人に渡した。


 そのカードにはしっかりと俺達の名前が刻まれてあった。



 ユーシス

 職業 魔法騎士マジックナイト


 アリサ

 職業 魔法騎士マジックナイト



「昨日村役場で仮申請しておいた。このカードには機密保持の為にレベル7の秘匿処理が施しておいた。お前達が強く握れば本来の表示がされる。ただこれはまだ仮カード状態だから書類持って冒険者ギルドで正式に登録してくれ」


「えっとこれ大丈夫なんでしょうか?冒険者ギルドから王国に通報されるってことは……」



 アリサが不安そうに尋ねる。だが大丈夫だ。



「大丈夫だ。冒険者ギルドのネットワークは完全に国とは切りされている。それに身分証明として使えるから宿の予約など困らなくなるぞ」



 実際身分証無しで旅をするのはイザと言う時にキツイものがある。


 宿を取るにしても、怪我して医者の世話になるにしても、身分証あるなしで応対が全然変わるのが現実だ。



「兄貴、俺冒険者ギルドじゃなくてハンターギルドの方がいいんだけど、信頼度が段違いだし」



 ハンターギルドは地域密着型の組織だ。またハンター登録すると自動的に冒険者登録もできる特典もある。


国からも助成金を受けていたりと優遇されている面もある。ただ情報は王国領土内にいる限り筒抜け状態だ。


登録するにもクリアしなければならない条件が幾つか有り、今の二人には現実的な選択肢ではない。



「ハンターギルドの登録は無理だな。こちらのネットワークは国に繋がっている。登録すればその瞬間に追手がかかる。ダバスに入るまでは諦めてくれ。」


「なんで魔法騎士(マジックナイト)なんです?」


「俺、騎士(ナイト)ってガラじゃないんだけど、まだ剣士(サーベルマン)の方が……」


「鏡を見てみろ、お前達の見た目は剣士(サーベルマン)じゃなくて騎士(ナイト)だろう。馬も扱えるしな。魔法騎士(マジックナイト)なのは、お前達の技が魔法騎士(マジックナイト)魔法剣士(マジックサーベルマン)と近いからだ」



 ユーシスは炎を、アリサは雷を剣に乗せて戦う術を身に着けている。


 普通に魔法騎士や魔法剣士としても通用する。


 井出達と技を見て疑うものはそう居ないだろう。



「それに騎士や魔法騎士(マジックナイト)で冒険者登録して実務経験積んでおけば、将来的にいいい事あるかもよ?」



 カーシャがそう言ってニヤリと微笑んだ。




「さてこの後は、ダバスまでの道程を見直そうか」


「なぜです?最初に組んで貰ったプランで完璧だと思いますけど?」


「旅の趣旨が少し変わったからね、それに合わせて変更しないと」


「「???」」


「だってこれ、逃亡と言う名の新婚旅行だろ?」



 俺はそう言って二人を見ながらニヤっと笑った。



 その日は夜眠る直前までダバスへのルート選びで盛り上がった。


 逃亡ルートじゃなく本当に新婚旅行先選びみたいな感じで――



「この観光地はー」とか


「ここは郷土料理がー」とか


「必ず幸せになれるパワースポットがー」とか



 遅くまでワイワイガヤガヤ楽しい時間が過ぎる。


 そして一通り新婚旅行ルートならぬ逃亡ルートが決まり、皆部屋に戻って行った。







*


アリサ視点―



「じゃあおやすみ、ユーシス」


「おやすみ、アリサ」



 私はユーシスにおやすみを言った後、自室に入り一人寂しくベッドに横たわった。



「はぁ……」



 もしかして今夜も一緒に添い寝してくれるかもという私の淡い期待は残念ながら叶わなかった。


 別に身体を交えたいとかじゃなく、ただユーシスの傍に居たかった。


 彼の温もりを知ってしまった私には、一人寝はただただ寂しさを強めるだけだった。


 というか、一人寝なんてもう無理だ!



「うー」



 布団を被って無理に寝ようとするけれど、ユーシスを意識すると心臓の鼓動がやたら響いて眠れない。



 短い間にいろいろあったなぁ……


 全ては成人の儀から始まった。

 聖女と呼ばれ、

 逃げて、

 戦って、

 魅了されて、

 ユーシスを裏切って、

 進んで汚され、

 ヨシュアさん達や道夫さん達に助けられ、

 ユーシスに再開して、

 喜びそして怯えて、

 王都から逃げて、

 ここに来て、

 ユーシスに別れを告げて、

 湖に身を投げて、

 カーシャさんに助けられ、

 ユーシスに受け入れられてキスを交わした。


 そして私達は一つになれた。



 目まぐるしく無茶苦茶な日々で挫折もしたけれど……


 今の私は幸せだ!



「だけどユーシスが添寝してくれたらもっと幸せなのになぁ……」



 そんな贅沢な独り言を呟いていると……



 ― バターン!



 ノックも無しに突然ドアが勢いよく開いた!



「え、なになに?まさか召喚勇者!?」



 驚いて乱入者をよく見ると……




「や、やあ……」



 そこにはカーシャさんに首根っこを掴まれ、締まらない笑顔で微妙な挨拶をするユーシスがいた。



「このバカ、あんたの部屋の前でずっと悩んでいたらしい」


「へ?悩んで……?」


「添い寝したかったんだと!手間のかかる勇者様だよ、まったく」



 そう言ってカーシャさんはユーシスを部屋に放り込んで去っていった。



「なんか寂しくなっちゃって……ダメ……かな?」



 ユーシス……



「はは……」



 私は今“凄く”幸せだ!





*




「おはよう、ユーシス」



 時刻は朝の6時頃、私はいつもより少し遅く目を覚まし、彼を起こさないように小声でおはようの挨拶をする。



「おはよう、アリサ」



 そう言って、おはようの挨拶をするユーシスは、やはり私が起きるよりずっと早くから目を覚ましていたようだ。



「もう少しだけいい?」


「うん」



 私はそのまま彼に甘え身を寄せた。





 朝7時、階下に降りる。


 皆先に食事を取り始めているが、何故か私達を凝視している。なぜだろう?



「あー、昨夜は流石にしないかー」


「へっへー、賭けは私の勝ちぃ~」



 あー、そーゆー……



 聞こえていない振りをして朝食を食べ始める。


 皆で食べる食事風景も今日で終わりと思うと少し寂しい。



「今日が良い天気でよかったね」


「ええ、本当に気持ちの良い日ですね」


「はぁ、あと少しでお別れかぁ、寂しくなるなぁ」


「そう遠くないうちに帰るから。たぶん」


「ユーシス、防具の具合はどうだった?」


「バッチリだ。契約したら時空魔術の付与が機動してさ」


「あんたら、子供は計画的にね。若い者はすぐ無計画に孕むから注意するように」


「朝から生々しいです……」



 和やか過ぎて、すぐ別れが来るのが非現実的で、なんだか不思議な感覚だった。

でも……



「アリサ、ほら立って」


「え?」


「ちゃんと挨拶しないと!」


「あ、うん」



 私はユーシスに促され彼の傍らに立つ。



「みんな、本当に世話になった。ありがとう!」



ユーシスの皆への挨拶で、私の心も非現実ではなく現実なことに切り替わった。



「ありがとうございました。私……私達、絶対に幸せになります!」



 皆から拍手と口笛で持て囃された。



「これって別れの挨拶じゃないよねぇ?」


「どう見ても結婚式か披露宴の挨拶のような……」



ユーコさんとフランさんがコテリと首を傾げながら笑顔を向けてくれた。




 そして時は流れる……






*





 ユーシス、アリサ、ヨシュア、カーシャ、ユーコ、フランソワーズ、


 それにライナスとナターシャはオリヨール村の入口にいた。



「兄貴、義姉さん世話になった」


「義兄さん、お姉ちゃん、ありがとう!」


「ライナスさん、ナターシャさんお世話になりました」


「ありがとうございました。いつかまた来ます!」



「みんな元気でな!」


「無理するんじゃないよ、いつでも遊びにおいで」



 ライナスとナターシャに別れを告げ、全員が馬上の人となり、手を振りながらオリヨール村を後にする。


 少し北上し、東西に延びる街道に出たところで彼らは馬の脚を止めた。


 雲一つない晴天の下で、微風そよかぜが心地よく彼らの肌を擽る。



「じゃあ、楽しんでこい!」


「なるべく早く帰っておいでよ!」


「お土産待ってるから!」


「ユーシス、アリサ、とにかく頑張れ!」



 ヨシュア、カーシャ、ユーコ、フランソワーズが激を飛ばすような言葉を掛ける。



「皆、ありがとう。近いうちに必ずまた会おう!」


「お世話になりました。幸せになって必ず帰ります!」



 ユーシスとアリサはそれに応える。


 誰も“さよなら”とは言わない。


 彼らは別れではなく再開の約束をする。



「「じゃあ、ちょっと逃亡に行ってきます!」」



 ユーシスとアリサの言葉を最後に各々の馬が歩みだす。


 ヨシュア、カーシャ、ユーコ、フランソワーズは西へ。


 そしてユーシスとアリサは万感の思いを込めながら東へ向かう。


 もう彼らは忌まわしい過去ではなく、輝ける未来しか見ていない。


 白銀の鎧が陽光に照らされ、まるで自分達の未来のように輝きを増しながら二人は進んでいく。



 目指すは遥か遠くの地、逃亡者の都ダバス。


 若い二人の新婚旅行のような逃亡劇は、いま始まったばかりだ。







 ティラム逃亡記2020

 「幼馴染が聖女に覚醒したので勇者にストーキングされています。現在全力逃亡中!」


 第一章 聖女覚醒~逃亡の旅へ

 【完】





挿絵(By みてみん)


第一章をお読みいただきありがとうございました。

この後は……


◆ 【第一章 登場人物】

◆ 【世界観】

■ 【NGエピソード集・その壱】

■ 【NGエピソード集・その弐】


へと続きます。


設定集やNGエピソードが必要ない方は、

『第二章 38話.冒険者登録へ』

へお飛びください。


なお第二章は2つの魅了系エピソードを含みます。

苦手な方は御注意下さい。


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