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386.親切な美熟女 side祐樹&朱里

 

「もし、外国の方のようにお見受けしますが、何かお困りごとですか?」


「「え?」」



 二人が顔を上げると、そこには長い黒髪に切れ長の目をした、品の良さそうな美熟女の姿があった。


 ただ貴族という感じではなく、ワインレッドの衣装をまとっているあたり、普通の商人の奥様という感じでもない。


 かと言って、酒場の歌い手や娼婦というという感じでもなさそうだ。



「ごめんなさい、警戒させてしまいましたか。私はこの近くで人材派遣商を営む者で、エスカ・ビスタと申します。実は先程の騒動を目の当たりにしていまして、お困りなのでないかと……」



 エスカは名詞を祐樹と朱里に差し出した。



『人材派遣商スレーブズ 店主 エスカ・ビスタ』



 確かに人材派遣商であることが名刺には書かれていた。



「人材派遣商?」

「きっと派遣会社のことだよ」



 エスカはニコリと微笑みながら話を続けた。



「アドレア連邦は外国の方には中々厳しい国でしたでしょう?旅の途中で騙されたりボッタクリされたりで、路銀を使い果たして困窮されておられる方も大勢おられます。私はそのような方にお声を掛けさせて頂いております」


「そうなんですか」

「声がけの内容は?」


「はい、日払い・短期・中期、時には長期の期間雇用、また時には正式雇用の仲介をしてお金を稼いでいただき、皆様の再出発のお手伝いをしております。何しろこのアドレア連邦では外国人の方がまともに働ける職種など冒険者ギルドくらいしかございませんので。でもお二人は、路銀には全く困ってはおられないようですけどね」


「たしかに俺達はお金には困っていないな」

「でもそれならエスカさんはどうして私達に声がけを?」



 エスカはまたニコリと微笑みながら話す。



「これは直接のお仕事ではありません。困っている方の何か助けに立てればと……失礼ですがお二人とも、あれほどの騒ぎを起こした後でしょう?このマハパワーの都では、もはや物資の調達や宿の宿泊は不可能だと思います」



 これは本当のことで、すでに裏手配書が回っている。


 祐樹と朱里は、もうマハパワーの都での物資調達は不可能だ。



「何も買えないの!?」

「ここまで来てまた野宿!?」



『あー!』と、二人そろって頭を抱える。



「ですが、私も一緒ならお買い物も適正価格で買えますよ。レストランで食事も可能ですし宿の予約も大丈夫です。こう見えて顔は効く方なんですよ」



 祐樹と朱里は顔を見合わせて考える。


 エスカがなぜ親切にしてくれるのか理由がわからない。


 純粋に親切心だけではないはずだ。



「大変ありがたい話なんだけど……」

無料ただではないですよね?」


「はいもちろん無料ではありません。見返りは旅で知り合った外国の方や、母国にお戻りなられた時、『人材派遣商スレーブス エスカ・ビスタ』を口コミで宣伝して頂く事です。それ以上は何も求めません」



 果たしてこれは本当なのか?


 祐樹、朱里、信じてはいけない!話に乗ってはいけない!


 怪しい臭いがギュンギュンするぞ!



「え、そんなのでいいの?」

「それくらいお安い御用ですよ!」


「では決まりですね。それではお買い物にいきましょうか。もうすぐお店が閉まりますよ」



 嗚呼、なんという事か!


 半信半疑ではあるが、二人はエスカの提案に乗る事にしてしまった。



「それでは早速行きましょう」



 三人は揃って先程一触即発だった商店街へ向かった。







「ふえー、驚いた。あれだけ十割増しを貫いていた各店が、ちゃんと適性価格で売ってくれるなんて!」


「エスカさん、ありがとうございます!本当に助かりました!」



 祐樹と朱里は約二週間分の物資を無事調達。


 エスカに感謝一杯で、何度も頭を下げてお礼を言った。



「ふふふ、これくらい何でもないですよ。それより次は食事と宿ですね。近くに私が懇意にしているホテルがあって、そこのレストランの料理が絶品なんです。よければどうですか?」


「是非お願いします!」

「何から何までありがとうございます!」


「ふふふ、こちらですよ」



 エスカはニコニコしながら二人を案内した。



「なんだ、アドレア連邦ってとんでもない国かと思ったけど、親切な人もいるじゃないか!」

「ほんと。もしかしたら、さっきの商店の人達だけが異常だったのかな?」



 二人もまたニコニコホクホク顔でエスカに案内される。


 どうも物資を無事調達できたことで、エスカに対する猜疑心は全くのゼロのようだ。



 やがて三人は立派なホテルに付いた。


 するとボーイから連絡を受けたホテル支配人が、自ら迎えに出て来た。


 どうやらエスカとは良好な間柄のようだ。



「これはエスカ様、ようこそおいで頂きました!」


「ふふふ……支配人さん、またレストランで例のコースをお願いしますわ」


「かしこまりました。さあ皆様こちらへどうぞ」



 今度は支配人自ら案内する。



「例のコース?」

「なんだろう……」


「ふふふ、私のお気に入りコースです。とても美味しい郷土料理ですよ。しかもとってもお値段リーズナブルです」


「そうなんですか」

「うわぁ、楽しみだなぁ」



 祐樹と朱里は喜びついて行く。


 なにしろ長い間、雪山で干し肉ベースの食事しかとっていないのだ。



 ― グウウウウウウウウウウウウ!



 久々のまともな食事を前に、二人のお腹が豪快な音をたてる。



「さあ、こちらのテーブルにどうぞ」



 通されたテーブルは、周りを壁で仕切られたVIPルームのようだ。



「どうしよう、私テーブルマナーとかあまり詳しくないよ」

「俺もだよ。でもなんとかなるさ!……たぶん」


「大丈夫ですよ。お二人は東洋の方なのでしょう?フォークとナイフの他に、ちゃんとお箸も用意してありますので」


「「何から何まですみません!」」



 やがて料理が運ばれてきて、三人は食事を始める。



「朱里、これ凄くうまいぞ!王国の宮廷料理に負けてない!」

「ほんと、もの凄く美味しい!何といってもお肉が絶品すぎる!」


「ほほほ、これはカスピ湖産の水棲牛なんですよ」


「水棲牛?」

「初めて聞いた」



 水棲牛はカスピ湖に生息する牛の変異種で、水棲に適した牛だ。


 ゾウアザラシの顔をバッファローに挿げ替えた感じの生物で、味は和牛のように美味い。



「ところでお二人は先程『宮廷料理』とおっしゃっていましたが、チャイ帝国の関係者ですか?もしや召喚者……ではないですね。召喚者ならもっと偉そうなかぶいた衣装を好みますもの」



『実は自分達は隣国に召喚された勇者と聖女です』などと言えるはずが無い。


 祐樹はエスカに訊かれて、あらかじめ用意していた答えを言う。



「いえ、俺達はヒモト人です。」

「ここには友人を探しに来たんです。そうだ!ユーシスという17歳の男性なんですが、エスカさんのところでお世話になっていませんか?」


「なるほど、ヒモトの方でしたか。ユーシスさん?さあ私は聞き覚えがありませんね。(ヒモト民族は魔力がゼロの劣等人種。これは楽勝ね)」





 食事は順調に進み、祐樹と朱里は全て平らげ満足した。


 そしてお会計になり



「ありがとうございました。おひとり様2000万ルブルになります」


「「に、2000万ルブル!?」」


「ね、お値段とってもリーズナブルでしょう?」



 あまりにも法外な値段を請求され、憤る祐樹!目を回す朱里。



「ふざけるな!確かに美味しい料理だったが、そんな大金払えるか!」


「なんと、お二人はお金が払えないと?食い逃げはいけませんなぁ。キッチリと払って頂きますよ」



 祐樹の当然のクレームに、ホテル支配人がシレっと真顔で突っぱねる。



「エスカさん、冗談ですよね?ドッキリなんでしょ?」


「え?至って真面目ですよ?もしかして、たった2000万ルブルも払えないのですか?困りましたねぇ……そうだ!お二人とも私の所で世話してあげましょう。祐樹さんには買い手がつくまで男娼として働いて頂いて、朱里さんにはやはり娼館に派遣させようかしら?ああ、そうそう召喚勇者様がヒモト人を欲していたわね。そちらに永久派遣を……」



 まだ信じられない朱里の問いに、エスカはもう隠すことなく本性を現した!


 それまでのニコニコ顔がニチャリとした糸を引く様な醜悪な笑みに変化!ねっとりとした視線で祐樹と朱里を改めて品定めする。



「ふざけるな!おまえの相手などしていられるか!朱里、行くぞ……(ガクン)……え!?」



 突如祐樹の膝が折れた!



「祐樹、どうしたの!?  あ、あれ……(ドサ)」



 今度は朱里の腰が砕けた。



 ― ぐにゃぁ~



 続いて二人の視界が歪む。



「くそ、何か料理に盛りやがったな……」

「なんでこんなことを……」



「ほほほ、睡眠魔法薬入りの食事は満足したかしら。朱里さん、なんでって言われても、お二人は外国人ですので仕方ありませんわ♪」


「くそ……、む……ね……ん……」

「ゆ……う……き……」



 二人は深い睡魔に襲われ、意識は闇に包まれた。



 エスカ・ビスタは悪魔の微笑を浮かべ、祐樹と朱里を自分の店に運ばせた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヤバっ! ホント、屑なのばっかりな所だな…。 にしても、祐樹と朱里チョロ過ぎ!
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