02.成人の儀
「おはよう、ユーシス」
時刻は朝の5時30分頃、私はいつものように目を覚まし、顔を洗って髪を梳かしてから、となりのベッドで眠っているユーシスを起こす。
「おはよう、アリサ」
そう言って、おはようの挨拶をするユーシスは、多分私が起きるよりずっと早くから目を覚ましているのだろう。
私達の両親が亡くなり、共に生活するようになって早や4年。
私はいつから彼のことを「ユーにいちゃん」ではなく「ユーシス」と呼ぶようになったのだろう。
いつから彼のことを強く意識するようになったのだろう。
確かなことは、皮肉にも両親たちの死が、私達の距離をぐっと近づけてしまったのは間違いない。
私はいま幸せだ。彼のことを愛している。そして同時に切なくも思う。
彼は私をどう思っているのだろか、妹のように思っているのだろうか、それとも一人の女として見てくれているのだろうか。
私は今日15歳の成人を迎える。
成人と言えばなんだか一人前のようだが、中身は思春期まっさかりの、心が不安定な少女でしかない。
例に漏れず、最近の私は不安定だ。
落ち着いているような振る舞いは全て演技でしかない。
そうしないと私は暴走して彼に告白してしまいそうになる。
でもきっと出来ないだろう。
彼に拒絶されたらと思うだけで足がすくんでしまう。
そうやって私は紋々としながら毎日を過ごしてきた。
朝起きる時、夜寝る時、ベッドから彼に向かって手を伸ばし、近くて遠い距離に何度ため息をついたことか。
でも今日は何かが変わるような気がする。
昨日からユーシスの態度が妙に余所余所しく、ヨシュアさんもカーシャさんも、まるで今日の誕生会で何か素敵なことが起きるような、そんな予見をして私を揶揄ったりした。
素敵な一日になることを夢想して私の一日が始まる。
悪夢の一日が始まるとも知らずに・・
ユーシスを起こした後、私は朝食の準備をする。
家中の窓を開け新鮮な朝の空気を取り入れる。
外はまだ人の姿は少なく、朝の静寂の中で小鳥たちの囀りが心地よく響く。
食事の準備が出来たころユーシスがノソリとベッドから起き上がる。
そして二人で朝食を食べながら、ユーシスに気取られないよう彼の顔を目に焼き付ける。
毎日変わらない朝の流れだ。
私とユーシスは、簡単に部屋の掃除をし、私は成人の儀の準備をする。
女神様はもちろん神官様の機嫌を損なわないよう、普段は全くしないメイクで清楚らしく雰囲気を整える。
着て行く服も水色のワンピースに白の肩掛けの井出達で無難にまとめてみた。
「ど、どうかな?」
私の問いかけにユーシスは少し照れたような表情で、でもそっけなく
「なかなかいいんじゃない?」
そう褒めてくれた。
“コチコチコチコチ”時計が回り、そろそろ教会に行く時間になった。
「それじゃ行ってくるね!」
私はユーシスに手を振りながら踵を返し家を出た。
ユーシスは私の姿が見えなくなるまで玄関で見送ってくれている。
私は背中にユーシスの視線を感じながら王都内にある教会に向かった。
教会に着き、神官様に案内された私は講堂内に通される。
ここはテラリューム教の教会、私もユーシスも子供の頃からテラリューム教の教会や神殿にお世話になっている。
でもこの世界の主神は慈愛の女神セフィースであり、セフィース教こそが世界で一番普及している宗派だそうだ。
テラリューム教の信者の多くは勇者か聖女を輩出した家系の方が多いとのことだけど、私の場合はご先祖様にそんな凄い人がいたとかトンと聞いたことがない。
最初の勇者と聖女が現れて二千年あまり、その血脈は薄く広がり続け、薄まり過ぎたその血統は、もはや意味が無いないものだと思っていた。
身近に勇者と聖女の知り合いがいるというのにだ。
与えられる祝福が、あの忌まわしい聖女以外なら、ユーシスとの仲を引き裂くようなものでなければなんでもよかった。
今日の成人の儀では私の他2人の新成人が来ていた。いずれも女の子だ。
神官様の祝詞も終わり、メロンくらいの大きさの水晶玉が用意され、いよいよ女神様の祝福が始まる。
最初の女の子には癒水の祝福があった。
付き添いの親達は大喜びしている。
もしかしたらポーションなど自由に扱えるのかもしれない。
次の女の子には祝福は無かった。
ただ将来重要な使命を担わせるとお告げがあったらしい。
親達は当然困惑していた。
そしていよいよ私の番が来た。
深呼吸してからそっと水晶玉に手を置いた。
残念なことに水晶玉は大きく変化を見せた。
怒涛の如く眩しく金色に輝く水晶玉、
驚愕する神官達、
私が受けた祝福は、雷属性魔法、植物魔法、剣士、身体強化、それに、
聖女だった。




