35.破瓜
「おはよう、ユーシス」
時刻は朝の7時頃、私はいつもより遅く目を覚まし、となりで眠っているユーシスの目を覚まさないよう、小声でおはようの挨拶をする。
「おはよう、アリサ」
そう言って、おはようの挨拶に応えたユーシスは、私が起きるよりずっと早くから目を覚ましていたようだ。
私の寝顔をずっと見られていたのかと思うと恥ずかしくなり、彼の二の腕に額を押し付け照れ隠す。
私は今、幸せだ。彼のことを愛している。そして彼の愛に満たされている。
――“彼は私をどう思っているのだろか、妹のように思っているのだろうか、それとも一人の女として見てくれているのだろうか。” ――
――“朝起きる時、夜寝る時、ベッドから彼に向かって手を伸ばし、近くて遠い距離に何度ため息をついたことか。” ――
そんな切なく苦しく悶々とした日々はもう終わった。
妹のように思われていた日から、一人の女として見られ、今は恋人として彼の愛に包まれている。
手を伸ばしても届かなかったのは昨日までのこと、今は手を伸ばさなくても彼と触れていられる。
私の傍に居てくれる。
私は今、幸せだ。
朝の静寂の中で小鳥たちの囀りが心地よく響く。
私はユーシスに満たされながら微睡んだ。
*
ん、んん……
微睡から目覚めると、愛するアイツの姿はなく、私は一人寂しくベッドで腹をボリボリ掻いていた。
やがて意識が覚醒していき、昨夜のことを思い出しはじめる。
はぁ、昨夜のヨシュアは凄かった……
私の自由を奪い、期待と怯えに震える私の身体を獣のように蹂躙し……て、そうじゃない。
自重しろ私、一度、運営の女神様から厳しくお叱りを受けたじゃないか。
それより前の湖でのことだ、あいつ等は上手くいっただろうか。
大丈夫と思ったから、ユーシスに任せてさっさと帰ってきたんだけど。
帰り際に添い寝を奨めてみたが、いきなりは無理だろうなぁ。
せめてキスくらいはクリアしてくれるといいなぁ…………
……そういや、私の裸姿をユーシスに見られたんだっけ。
あ、ヤバイ、ちょっと顔が火照ってきたし。
私は両の手で顔を“バシン!”と叩き、服を着て部屋を出た。
「ふわ~、おはよう……」
「「隊長、おはようございます」」
階下に降りるとユーコとフランソワーズが掃除をしていた。
「ヨシュアは?」
「実家の方に行きましたよ?なんか武具一式取りに行くとかで」
「あと朝食のパンも貰ってくるとか言ってました」
ああ、アレを取りにいったのか。明日には出発だしなぁ……
「ユーシスとアリサは?」
「まだ起きていません」
「昨夜アリサちゃん追ってからどうなったんです?」
掃除の手をとめて二人が心配そうに聞いてきた。
「アリサと私が裸で抱き合った」
「「どうしてそーなった!」」
「おい、そんな汚物を見るような目で見るな、成り行きだから、性的な意味は無いから」
まあ、そんなジョークを言えるくらい状況は好転したことを、二人はすぐに察してくれたようだ。
とりあえず昨夜の事を話ながらテーブルに付く。
フランソワーズがお茶を3つ用意してくれた。
「えっと、つまり要約するとこうですか?」
「アリサちゃんを裸で手籠めにし、女神様を大声で批判し、ユーシス君に自分の裸体を見せつけて、興奮した隊長は意気揚々と副隊長のもとに行き、夜這いをかけて爛れた夜を過ごし、快楽にボケた面を私達に晒していると……」
「隊長は清々しいほど最低のクズですね」
いや、待って。その解釈はおかしい。
でも流れはその通りで……
つーかなんでヨシュアのとこ行ったの知ってんの?
あれ?もしかして私って最低のクズなのか?
というか、私のことはもういいだろ!
うーん、むーんと少し悩み始めたころ、フランソワーズがそんな話はどうでもいいとばかりに話題を変える。
「まあでも、もう大丈夫なんですよね?」
「ああ、それは間違いない。さすがにあの空気から暗転するなんてことは無いだろう」
「よかったぁ……」
二人はホッと胸を撫でおろしている。
きっと最悪なケースも想像していたんだろうな。
「ただいま」
ロッジの玄関が開いてヨシュアが荷物を抱えて戻ってきた。
「「おかえりなさい!」」
「ご苦労様」
ユーコとフランソワーズはヨシュアからたくさんの荷物を受け取り、それぞれ適切に処理していく。
私はお茶をたててヨシュアに渡した。
「で、ユーシスとアリサは?」
「まだ寝ているみたい」
「そうか、昨夜は大変だったみたいだし、もう少し寝かしておくか」
「でも9時近いし、声だけ掛けた方がいいんじゃないですか?」
「スープも冷めちゃうし・・」
それもそうかと思い、二人を呼びに行くことにした。
「じゃあ、私が・・」
フランソワーズが席を立とうとしたが、それを制して自分で呼びに行く。
― トントン
「ユーシス、そろそろ起きな」
―“シーン“
あれ?反応が無い?
「入るよ?」
しかし部屋には誰もいなかった。
ああ、これはアリサの部屋だな……
私は続いてアリサの部屋のドアをノックする。
― トントン
― ガタ、ガタタ!
なんだ?中からなんか音がしたぞ?
「朝食の準備が出来てるんだけど……入るよ?」
「ちょ、ちょっとダメ!」
アリサの緊迫した悲鳴に似た返事?がかえってきた。
「そ、添い寝……ユーシスと添い寝して……だからすぐ行きますから!」
あー、あの子らちゃんと添い寝してたんだ、へー、ふーん、ほーん。
「あー、わかったわかった、急がなくていいからね」
そう言い残して私は下に降りた。
「どうだった?」
ヨシュアが少し心配そうに聞いてきた。
「ああ、あの子ら私の言いつけ守って添い寝していたみたいだ」
「「「添い寝!?」」」
―“ガタっ!“
皆の椅子が一斉に音を立てる。
ユーコとフランソワーズの目が輝き、口元はうずうずしている。
「あー、一応言っておくけど、まだメンタル面が不安定だと思うから、質問責めとか無しの方向で」
― ブーブー
皆が一斉にブーイングの声を上げる。
―“ガチャリ“
その時2階の部屋のドアが開く音が……皆一斉に階段に注目する
しかし一向に降りてこない?
あれれ?と訝し気に思っていたら、ようやく姿を現した。
「大丈夫?平気?」
「ありがとう、大丈夫だから」
二人は極めてゆっくり歩いてきた。
「隊長、あれどうみます?」
ユーコが小声で聞いてくる。
「どうって、いや、まだわからんが……」
なおも私達は階上の二人を見守る。
「ひゃん!」
「だ、大丈夫か!?」
階段を降りようとしてアリサの腰が落ち、慌ててユーシスが支える。
(((ひゃん!?)))
― ガバ!
テーブル中央に四人の頭が集まる。
「あれ……ですよね?」
「いや、相手はあのユーシスだぞ?ヘタレだぞ?」
「じゃあ、今のは何ですか?」
「落ち着け、もう少し見守ろう……」
私達はまた二人の一挙一動を食い入るように見守る。
階下に降りたアリサの歩幅も歩行も明らかに不自然……
それを支えるように寄り添うユーシスも不自然……
― ガバ!
再びテーブル中央に四人の頭が集まる。
「えー、うそー!?」
「まだわからん、単なる股ズレの可能性も……」
「ないです、はい」
「そう……なのか?だとしたらヤツのは相当大きいんじゃ……」
テーブルの前に二人が着き、ユーシスが椅子を引いてアリサを座らせる。
「んっ……」
小さな呻き声がやたら静かなロッジ内に響いた。
((((んっ……だと!?))))
「「確定だな」」
「「確定ですね」」
とりあえず私は二人にお茶を入れる。
「なあユーシス……」
唐突にヨシュアが口を開く。
「俺は押して行け!とは言ったが押し倒せ!と言った覚えはないんだが?」
― ぶはっ!
ユーシスは飲んでいたお茶を盛大に吹いた。
「な、なんのことだい、ああ兄貴?」
目を泳がせ思いっきりキョドるユーシス。
「アリサ、私も添い寝して貰えとは言ったが、その先に進めとは言わなかったよね?」
― ぶふっ!
アリサも飲んでいたお茶を盛大に吹いた。
「なな、なんのことでしょう……」
こっちはこっちで顔を真っ赤にして滝の汗が流れる。
「やかましいわ、この爛れバカップル!」
「昨日の今日だってのにこの子達ときたら……」
「ねえ、どっち?どっちから誘ったん!?」
「キャー!イヤー!スケベー!」
そこからはもう1時間以上にわたって二人は弄られまくった。
『あー、一応言っておくけど、まだメンタル面が不安定だと思うから、
質問責めとか無しの方向で』
さっき私が言った気遣いは一体何だったのか……
でもまあ、初めてを好きな人に捧げることができて本当によかったね……
私は自分のことのようにアリサを祝福した。




