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33.別れの告白

 オリヨール村到着8日目。


 ユーシスとアリサ達が訓練を初めて丁度1週間目になる。


 明後日あさって10日目の昼頃にはユーシスとアリサは、たった二人でダバスを目指す長い旅に出る予定だ。


 その為の訓練だが二人とも周囲の予想を大きく超え、常軌を逸する成長ぶりを見せていた。



 そしてユーシスとアリサの魔法――



 ユーシスは鍛冶屋系の素材限定の錬金術の他、炎属性の初級~中級魔法【ファイヤーボール】、それに新に戦闘時の常用治癒魔法【ランニングヒール】を何故か使えることが確認された。



 アリサの方は、聖女魔法はカーシャの知る限り全てマスターしており、雷撃系魔法の【テラボルト(上級雷撃)】と【ペタボルト(上級広範囲雷撃)】もやはりマスター出来た。


 また元々花屋であったことから植物系の魔法が使えたが、聖女に覚醒した影響からか、【ローズウイック】【テンタクルローズ】【プリズンローズ】など攻撃に適した魔法も獲得しており、ますます〔戦える聖女〕の色が強くなっていた。




 今日は午後からは長旅において必須の訓練〔乗馬術〕を集中的に行っている。


 オリヨール村への道中でたまに練習はしてきたが、みっちりと練習時間を取るのは初めてとなる。


 このオリヨール村では乗用馬の生産もしており、ユーシスとアリサに相性の良さそうな黒馬と白馬を購入した。


 乗馬術の習得――我々の世界で言うところの〔ウエスタンスタイル〕のような乗馬術で、訓練開始から2時間ほどで、どうにかマスターできた。どうも技術云々より馬達との相性が大きいようだった。




 ユーシスとアリサは練習がてらに馬に乗りながら、湖の周りを散策して回る。



 ――カッポ、カッポ、



乾いた馬の蹄の音が湖に響く。



「…………」


「…………」



 長い沈黙を先に破ったのはアリサの方からだった。



「ねえ、ユーシス……この前はごめん……」


「いや、うん、正直気にしてないと言えばウソになるけど……いいんだ」


 アリサにキスを拒否をされてから、ユーシスはずっとアリサと話し合おうとしていたが、ことあるごとに避けられてしまっていた。



「…………」


「…………」



「私、重くない?」


「いや、むしろ軽そうだけど?」



「違う、そうじゃなくて私と一緒に居て重くない?」


「重かろうが軽かろうが関係ない、俺が全部受け止めてやるから」



「私のせいで住んでいた所を追い出されて、大切な仲間とも離れるようになるんだよ……」


「確かに住み慣れた家を失い、大切な仲間と離れることになるけど、それでも俺はアリサと一緒にいる方がいい」


「…………」


「…………」



「ねえ、ここに来てからずっと考えてた事があるんだけど……」


「なに?」



 消え入りそうな声を振り絞ってアリサは言った。



「ここから先は私一人で行くよ、ユーシスにも(みんな)にも、これ以上迷惑かけられない……」

「…………」



「アリサ……」


「私はもう、あなたの傍にいる資格はないの……」



「アリサ、よく話し合おう。結論を急ぐ必要なんて無いから」


「うん……」



 白馬の背をアリサの涙がポタリポタリと滴る。



「(どうしてこうなった……)」


「(どうしてこうなったんだろう……)」



 散策が終わって皆と合流すると、アリサの表情はいつも通りの明るい笑顔に戻っていた。


 その様子を見たユーシスは、アリサが辛い思いをずっと表に出さず、一人で抱え苦しんでいたことを思い知らされたのだった。





 その日の夕食後、アリサは誰よりも早く部屋に戻り籠ってしまった。


 ユーシスは今日の出来事を皆に相談する。



「完全に心を閉ざしてるねぇ」


「ユーシス、最悪アリサが一人で行くようなら、嫌がろうが何しようが一緒に付いていけ。いいな?」


「わかってる、兄貴」



「あの子はちょっと無垢で純粋すぎた。だから聖女なんかに選ばれちゃうんだよ、きっと」


「そうそう、当時の隊長とビックリ過ぎるくらい被るし」



「とりあえず俺、アリサと話してくる」


「お待ち、その様子じゃまた拒否されて終わるだけだよ」


「じゃあ、どうすれば……」


「まず私達で行ってくる」


「アリサちゃんが、聞く耳を持たせないうちは、何を話しても無駄よ」



 ユーコとフランソワーズが買って出た。



「じゃあ、その次は私が行くよ、ユーシス、あんたはトリだ。よく話し合って、優しく抱きしめて、キスまで持って行きな」


「お、おう」


「俺は?」



 ヨシュアが自分を指さして聞く。



「全部失敗した時にフォロー宜しく」


「あと明日の特訓は……」


「「「当然無しの方向で!」」」





 ― トントン



 アリサの部屋の前、ユーコとフランソワーズがノックする。


 しかし返事がなく、ユーコとフランソワーズはドア越しに話しかけた。



「アリサちゃん、ちょっといいかな?」


「…………」


「アリサちゃん?」


「ごめんなさい、気分が優れないので……」


「無視して悪いけど入るね?」



 ―ガチャリ……



 アリサが座っているベッドの横にユーコが、椅子にフランソワーズが座る。



「…………」


「聞いたよ、一人で行くつもりなんだって?」


「…………」


「ねえ、アリサちゃん、15歳の女の子にしては、ちょっと抱え込み過ぎているんじゃないかな?」


「…………」


「ユーシス君にもっと頼っていいんじゃないかな?」


「私は……」


「ん?」


「私は……ユーシスには相応しい女じゃなくなったから……」


「アリサちゃん、それは違うよ。相応しいかどうかはアリサちゃんじゃなくてユーシス君が決めることだと思うよ?」


「本当は怖いからなんでしょ?怯えてるんでしょ?ユーシス君に拒絶されるのが怖いから、自分から離れようとしているんでしょ?」



 ―“ビクッ”



 アリサの体が一瞬大きく震えた。



「あの日、何があったかは敢えて聞かないけど、それでも何となく想像はつくよ、私達も五年前に通った道だから……」


「頼れる男がいるのなら、頼ればいいんだよ、ユーシス君ならきっと全て受け入れてくれるよ、私が保証するから!」


「う……うう……」


「アリサちゃん、選択を間違えないでね?この選択はアリサちゃんだけでなく、ユーシス君にとっても幸せになるか不幸になるかの分かれ目なんだから」


「あと“選択をしない”っていうのは絶対無しだからね、それだけは許さない」


「うううう……うう……」


「じゃあ、私達行くから、くれぐれも間違わないでね」



 二人はアリサの部屋を後にした。


 ドアの向こうからアリサの泣き声が聞こえた。





「どうだった?」


「ダメですね、言うべきことは言ったツモリだけど彼女を追い詰めただけかもしれません」


「私達じゃ届かないのかなぁ……という訳で隊長、あとは頼みます」




 深夜日付が変わるころ、ロッジから誰かが外に出て行った。


 ロッジの誰もがそれに気づいている中で、カーシャだけが後を追った。


 もちろん出て行ったのはアリサ。そのまま湖に向かっていく。



 湖畔でアリサは着ている衣類を全て脱ぎ、一糸纏わぬ姿で湖面から顔を出している岩に座り、体を洗う。


 その様子を少し離れた所でカーシャが見守っていた。


 皮肉なことに、5年前のカーシャもまさに一糸纏わぬ姿であの岩に座り、同じように体を洗っていたのだ。


 過去の様々な思いが頭の中を回るなか、カーシャは息を殺して成り行きを見守るャ。



「(行くな、戻ってこい!)」



 しかしカーシャの願いも空しく、アリサはユラリと立ち上がり、沖に向かって歩き出し…………やがて彼女の姿は水中に没した。



「あのバカ!そこまで私をトレースしなくてもいいだろ!」



 カーシャは服を着たまま湖に飛び込みアリサを追った。



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