319.湖での戦い 祐樹vsネストル
― ガキンッ! ギュリンッ! シュバババババ!
ネストルの槍撃が走り、祐樹の大小二本の聖刀が呻る!
「へー、昨日観戦していた時と比べて随分とやるじゃねーか。だがいいのか?その槍で戦えば戦うほどテメーの寿命が減るんだぜ?」
魔槍ルノードシャティヨン――
約800年前の盗賊騎士の怨念が込められた魔槍で、超人的な力を得る代償として、使う者の生命力・寿命と理性を魔槍に吸われる。
また、代々の所有者の能力を盗み蓄積し、当代の所有者に能力を与える。
ブリジットは多少の改良を施し、使用者への負担をかなり軽減させることに成功させた。
「おまえも雑魚にしちゃやるじゃないか、素直に驚いたよ。召喚勇者というのは本当だったんだな。寿命?ふん、そんなもの解決済みだ!」
ネストルは、ユーシスにばかり意識していたせいで、祐樹が召喚勇者であることを失念していた。
武闘会でも目立った動きの無かった祐樹はほぼノーマーク状態。
召喚勇者であることはブリジットから聞いてはいたが、いつしかユーシスのパーティーにくっついている雑魚キャラ程度にしか思わなくなってしまったのだ。
またネストルは召喚勇者そのものを舐めてかかっていた。
ネストルは、かつて召喚勇者ハヤト(オスカー・ブラウン)とハーレムの縄張り争いで戦い、惨敗した苦い経験があった。
しかし負けはしたものの、ネストルは召喚勇者の力量を学習した。
ルノードシャティヨンを手にした今のネストルは、確実に召喚勇者ハヤト以上に強くなっており、同じ召喚勇者の祐樹を完全に舐めてかかってしまったのだ。
― ガキッ!
― ガツン!
― ギギリギリ…
― ガッ!
「おい、ネストルとやら、貴様なぜ朱里を狙った?なぜ朱里を欲する!」
― ブオン!
― キンッ!キンッ!
「何故かって?決まっている、朱里が優れた美しい女だからだよ。」
― ガキン!
― ギュルン!
「ふん、確かに朱里は最高の女だ!だからと言って、魅了して奪うとか召喚勇者みたいなことしてんじゃねーよ!」
― ガキッ!ギリリリリ…
― ズバーッ!
「それ、召喚勇者の君が言っちゃうの?彼女は君なんかじゃなく、僕の庇護下にいてこそ輝きをます女性さ。凡人顔の君とは不釣り合いなんだよ。君と一緒じゃ朱里の美しさが燻ってしまう。それは罪ってものだろ?」
― ガキン!ガキン!ガキン!
― ギュリリリリ…
「ナルシストの自惚れ屋か、質が悪いな。おまえこそ朱里とは不釣り合いだよ。朱里はおまえ如きが触れていい女じゃない!汚らわしいんだよ!」
― ガキン!
― ガツ!
「ふふふ、汚らわしいねぇ、それは違うな」
― ギリリリリリ…
― グオゥ!ザシュン!
「何が違う!?」
― ギリリリリリ…
― ガッシーン!
「汚らわしいのは僕の方じゃなくて君の方さ。でも安心していいよ」
― キンッ!
― グォウ!
「ちゃんと僕が上書きして浄化してあげたよ。ああ、お礼ならいいから。当然のことをしたまでだからね」
―キン!キン!ザッシュ!
―ガン!ザン!ズサ!
「な!?貴様!!!!!」
― ギュリリリ、ガキン!
― ゴォウ!
「ふふふ、柔らかいけど張りがある……とても素敵な唇だったよ、思い出すだけで興奮する。それにあの魅惑の身体、最高だね!」
「っ――――!!!!!!!!!!!!!」
ネストルは唇を指でなぞりながら不敵な笑みを浮かべた。
「いやああああ、ネストル様、祐樹の前で言わないで!!!!」
ネストルと祐樹のやり取りを聞いていた朱里が、羞恥心と罪悪感に頭を抱えてもだえ苦しむ。
「ネストル!テメー、やっぱりやったのか!?絶対ただじゃすませねえええええ!」
猛烈な殺意が沸き上がり、祐樹は我を忘れそうになった。
どうやら舌戦ではネストルに分が上がったようだ。
「じゃあそろそろ本気で行くよ、魔腕ベルリヒンゲン!」
― ボッ!ボボッ!
突然空中に鋼鉄製の腕が複数現れ、空を飛び交い祐樹を襲う!
「うぉ!?この腕は!?」
【蛇の目】の頭領のダリオが使役していた、魔腕ベルリヒンゲン!
ブリジットは、魔腕ベルリヒンゲン!の残骸を回収、解析したのちルノードシャティヨンの機能の一つとして組み込んでいた!
― グワッ!
その魔腕ベルリヒンゲンが一斉に祐樹に襲いかかる!
祐樹は二本の聖刀を十字上段に構えると――
「ふんっ!」
― バリバリバリ!バシュッ!!!
雷を纏わせた十字斬撃で纏めて粉砕!
刹那、祐樹の視界からネストルの姿が消えた!
いや、姿だけでなく気配まで完全に消えている!
祐樹の目の前でネストルの存在が希薄になり、その上姿まで“スッ…“と背景に解けるように掻き消えたのだ!
この事象に既視感を覚える祐樹!
「む、まさか!?」
直後に祐樹の背後からのネストルの槍撃!
― ズバーーーーーッ!
「くっ!?」
祐樹は咄嗟に転がり槍撃を躱す!
「へー、よく交わせたね。雑魚勇者君にしちゃ頑張るじゃん」
不敵な笑みを浮かべネストルは姿を現した。
「今のは盗賊のスキル!?あの魔槍が盗賊スキルを与えているのか!」
そう、ネストルが使ったのは盗賊スキル、オーラシャットとカメレオン。
いずれも魔槍ルノードシャティヨンが、かつてダリオから取り込んだ盗賊スキルだ!
「ちっ、面倒な……」
祐樹はかつてダリオにしたように、即座に猫立ちの構えを取り、ネストルの襲撃に備える!
盗賊スキル、オーラシャットとカメレオンからの攻撃には一種の癖のようなものがある。
アサシンとは違い、どうしても攻撃に転じる一瞬、殺気が漏れるのだ。
祐樹は見えないネストルの〈一瞬の殺気〉を探ろうと集中する!
―ぴくっ
「そこだ!風鳴十字斬撃!!!!!」
― バシュッ!シュゴオオオオオオオオオオ!!!!
ネストルの〈一瞬の殺気〉感じ取り、祐樹は風鳴十字斬撃を放つ!
「げぎゃああああああああああああああああ!!!!」
風の刃を伴う斬撃波がクリーンヒット!ネストルをズタズタに切り裂く!
― ズシャリ……
ネストルはあっさりと地面に崩れ落ちた。
「いやああああああああああ!!!ネストル様ぁぁあああああああ!」
「祐樹、止めて!お願いよぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
ずっと見守っていたアリサと朱里の悲壮な悲鳴が湖中に響く!
それが祐樹をイラつかせる。
「ふん、やたら上から目線の割に、全然大したことないじゃないか……むっ!」
― シュワァァ……
ネストルの胸まわりから黒いオーラが発せられ、ネストル自身を包み込んだ。
「うぐぐ、少し甘く見過ぎたか……よくもやってくれたな!ここからは手加減無しだ!ぶっ殺してやる!」
まるでヒールでもかけたかのように、ネストルは復活した!
「ほー、格下のくせに手加減していたのか。そう言う事なら遠慮せず本気で来いよ!てゆうか、ぶっ殺すって……殺人はしないんじゃなかったのか?」
「黙れ!カメレオン!オーラシャット!縮地!」
ネストルは今度は縮地を織り交ぜて祐樹に襲いかかった!
― ヒュンッ! ガキュッ!
― ヒュンッ!ヒュンッ! ギュリン!
― ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ! ギュバーン!
「ヌルイわ!」
しかし祐樹はことごとく躱すかはじき返す!
「バカな!こんな召喚勇者に攻撃が通らないだと!?」
「パチモンで悪かったな!こっちだって好きで勇者になったんじゃねーよ!」
たしかに今の攻撃は召喚勇者ハヤトには多少通用したかもしれないが、経験を積み、さらには女神アクアリウスから上限解放を受けた祐樹には、まるで攻撃が通らなかった。
「くう、まだだ!カメレオン!アフターオーラ!魔腕ベルリヒンゲン!」
ネストルの姿は再び景色に溶け込む!
そして今度は逆に気配を増やす。
―ヒュン、ヒュン、ヒュン、
時間経過とともに増えて行くネストルの気配残像!
「ち、あの面倒な技か。だが……」
前回アリサはテンタクルローズをセンサー代わりにして、ダリオに対抗した。
また田中カオス戦において、聖女ミルーシャはストライバーをセンサーとする技で戦った。
なら祐樹は?
「ライディーンシナプス!」
祐樹は弱いライディーンを神経網のように細かく地に張り巡らせ、半径5メートルの範囲でパルス(電気信号)をキャッチし、敵の位置を察知する技法を編み出していた!
― ガラガラガラ、ズギャアアアアアン!!
― バコーン!ドサドサ……
迫りくるベルリヒンゲンをライディーンで一掃しつつ、たくさんの気配残像の中からネストルの本体がかかるのを待つ!
― ピクン!
「そこか!」
今まさに技を放とうとするネストルを、祐樹のライディーンシナプスが捉えた!
「ラベリーランス!!!」
黒きオーラと黒き雷を纏い、黒き槍撃が迫る!
「ジゴブレイク!!!」
一方祐樹も聖気と聖雷を放つ斬撃で迎え撃つ!
― ガッ!バチバチバチ!
互いに縮地で一瞬のうちに間合を詰める祐樹とネストル!最大剣技と最大槍技がぶつかり合う!?
否、祐樹はネストルのラベリーランスを掻い潜り、超接近で小刀で魔槍ルノードシャティヨンを弾き、大刀でジゴブレイクを叩きつけた!
― バキッ!バキン!ベキン!!!!
超至近距離からジゴブレイクの直撃を受け、ルノードシャティヨンは真っ二つにへし折られた!
「なああああああああああああ!バカな!おまえ如きがルノードシャティヨンを!?」
まさかの事態に狼狽するネストル!
「やったか!?」
しかしこれで終わったわけではなかった。
― シュゴオオオオオオ……
なんとルノードシャティヨンが黒いオーラを発しながら自己修復を始めたのだ。
「おお、さすが伝説の魔槍!」
狼狽して泣き顔のネストルだったが、一瞬で覇気が戻った。
「かー、マジか!身体を叩いても回復したから槍の方を叩いたってのに、槍の方も復活するのかよっ!?」
復活していくルノードシャティヨンを観察しながら呆気にとられる祐樹だが――
「なるほど、やはり、あのやたらデカい黒魔石が力の源で、自己修復もあの黒魔石あってのことか」
祐樹は、ルノードシャティヨンの大きな刃の根本に埋め込まれている、コブシ大の黒魔石を改めて確認した。
「おのれ、西城祐樹!おまえはもう本当に終わりだ!殺す!絶対に殺す!」
「なんだ、もしかしてまだ隠し玉でもあるのか?まあそりゃあるよな。おまえ、全然大したことなかったもんな」
「ムキーッ!」
暗におまえは弱いと言われ、頭に血が登るネストル!
それでもふとルイスの戦況に目をやれば……
「ちっ、やはりユーシスに押されているか。こうなったら仕方ない。おい、アリサ!朱里!」
身が引き裂かれる思いで4人の戦いを見守っていたアリサと朱里。
「アリサはルイスを助けてやれ!そしてユーシスを必ず仕留めろ! 朱里は僕と一緒に祐樹を倒すぞ!いいな!」
ネストルはアリサと朱里に怒鳴りつけるように言い放った。




